第5話『魔王、視察する。②』

文字数 2,444文字

 ――庭園。
……。
魔王様? なにやらさっきからえらく静かですが……。
いや……だってさ……。チラッ
どうしてワタクシを見るのですか?
いえ……ちょっと心の中のトラウマが……。
セルフィーさん、何もお付き合いすることはありませんでしたのに。
ちょうどワタクシも退屈していたところなので、お気になさらず。
そうですか。では、ご一緒しましょう。
え? マジで?
何かご不満かしら?
魔王様……?
いやっほー! セルフィーちゃんが一緒だぜぇ!
てやんでぃやったぜこんちくしょぉぉおお!!
どうして泣いているのですか?
 ガヤガヤと騒いでいる魔王達の元に、ふと誰かが近付いてきた。
あらあら。なにやら賑やかですね。
あ! マリアンナ発見!
飛んで火にいるマリアンナですわ!
えらく恐ろしい誤用が目立ちますね。
マリアンナさん、ご機嫌麗しゅう。
あらあらご丁寧に。
ごきげんよう、シュバエルちゃん。
相も変わらず美しい声……!
もうあなただけですぞ! 私を真名で呼んでくださるのは!
一瞬誰のことを言っているのか分からなかった……。
違和感しかありませんわ。
お前ら覚えてろよ。
みなさんお揃いでどうしたのですか?
ちょっと暇つぶしを。
今日はいい天気ですので。
君達本来の趣旨分かってる?
もちろんですわ。
マリアンナ。魔術の方は衰えていないかしら?
それ言いたかった!
めちゃくちゃ魔王っぽいセリフじゃん!
魔王様。邪魔だから黙っててくださいませ。
そうですね。おそらくは大丈夫だと思いますよ。
今日もお花さん達のために晴れにしたばかりですし。
天候を操るとは何たる魔力……!
ただなんとなくすっごい無駄遣いっぽい。
それでもさすがですわね。
これならいつ勇者が来ても大丈夫ですわ。
はい。紅茶の準備は万全です。
ほほー。ちなみに葉は何を?
タージリンです。リラックスと疲労回復効果がありますし。
旅に疲れた勇者達には最適ね。
ちょっと待って。
何かおかしいよね?
まあまあ魔王様。
とどのつまり、マリアンナさんについては何も問題はないということですよ。
問題しかない気がするんだけど?
偉大な魔力は健在……それが分かっただけでも収穫ですわ。
そうかなぁ……うーん……。
というわけですので、このあたりで失礼いたします。
ありがとうマリアンナ!
いえいえ。みなさんも頑張ってください。
神がいつも見守っていますよ。
それは監視されているのかな?
 ――城エントランス。
さてさて。視察も大詰めですな。
今のところ絶望しか感じてないけどね。
 そうこうしていると、通路の奥からジョセフが歩いてきた。
おやみなさん。これは珍しい組み合わせで。
ジョセフ様!
これはこれは。手間が省けたと申しますか、運がよかったと申しますか。
やぁジョセフくん。何してんの?
特に何をしているというわけではないのですが……。
強いて言えば、探索ですかね。
ほほう……。探索ですかな?
はい。
敵に売りつけるための情報収集とも言えます。
それ言っちゃうの?
隠すほどのことではありませんので。
いやめちゃくちゃ隠すほどのことだよね?
冗談かどうかくらい見極めたらどうですの?
魔王として恥ずかしいですわ。
見極めた結果が真っ黒過ぎるんだけど。
魔王様。気にしたら負けです。
スルーしましょスルー。
ところで皆様は何を?
城の皆の状態の確認ですわ。
頼りない魔王のケツを引っ叩いておりますの。
なまじ嘘でもないから反論できない……。
セルフィーさんセルフィーさん。
乙女がケツなんて言っていいんですか?
あらやだ、ワタクシとしたことが……はしたない……。
いえいえ、まだセーフです。危ないところでしたが。
思いっきりアウトじゃね?
もれなく致命傷じゃね?
ははは。相変わらずみなさんは面白いですね。
見ていて飽きることがありません。
そう言ってくださると助かりますわジョセフ様!
このさりげないフォロー……いやはや、違いますなぁ。
フォローというかフィニッシュブローのように聞こえたんだけど気のせいかな?
本題ですが、僕なら変わりありませんよ。
平常運行です。
それだけはハッキリと分かった。
ジョセフ様なら大丈夫ですわ!
このワタクシが保証します!
これほど信頼度の低い保証が未だかつてあっただろうか。
ともあれ、これで全員終わりですな。
意外とサクッと終わりましたわね。
それなら、どうですみなさん? これから一緒に食事でも?
いいねえ! ちょうどお腹空いてたし!
ではみなさん、食堂まで向かいましょうか。
 そして一行は食堂へと向かう。
 その途中、魔王は頭に靄がかかっている気分であった。
……あれ? 誰か忘れているような……。
 一方その頃、魔界と人間界のちょうど境界付近の荒野では……。
うおおおおおおおお!!
待ってろよ勇者ぁぁあ!!
 スレイブは、どこにいるかもわからない勇者を探し続けていた……。
 
 ところ変わり、魔界に近い人間界の中の森。
 うっそうとした緑が生い茂り、視界を隠す。人の気配すらもなく、葉が擦れる音と鳥が飛び立つ音だけが響き、辺りには薄気味悪い雰囲気が広がる。
 その中に、静かに佇む一つの木造りの小屋があった。
 そこまで大きくはない。屋根は割れ、つたが壁を這い、一目でしばらく人が寄りついていないであろうことが分かる。中に木片や斧が無造作に置かれているところから、かつては倉庫として使われていたようだ。
 そして、その中では――。
――……で? 首尾の方はどうだ?
問題ない。傭兵もありったけ用意してるし、武器だって裏からいくらでも手に入る。
まったく、お前のおかげだよ。
まあそれほどでもあるがな。感謝しろよ?
後始末は全部親父がやってくれるからよ。俺達は、ただ殺せばいいだけだ。
くくく……。これで俺達も英雄か……。
取り分は回せよ? 大将。
任せとけって。だが、一つだけ言っておく。
英雄になるのは、俺だ。お前らじゃない。もちろん褒美は弾むから、安心しろ。
――……そう。俺は英雄になるんだよ。
そんで掴むんだよ。富も、名声も、女も。なんでも思い通りのままだ。
魔王を、ぶっ殺して……な……。
 ――不穏な空気が、漂っていた……。
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登場人物紹介

魔王
若くして魔界を統べた英雄的新米魔王
めちゃくちゃ強いが、苦労人
ツッコむつもりもないのにツッコまざるをえない部下を多数持つ

イシリア
魔王の城のメイドさん
意外と真面目
魔王とは幼馴染

セルフィー
幼女と見せかけて単に幼児体型なだけ
ジョセフに恋する自称乙女
一度回復魔術を使えば、超絶スパルタウーマンと化す

スレイブ
戦闘&修行マニア
なんとか魔王をこっちへ引き込もうとしている
普通に強い

マリアンナ
魔界随一の魔術使い
敵であるはずの神を崇拝
いちおう味方

ジョセフ
色々謎な優男
そしてイケメン
女好き

ダンゴ
魔王の部下
一番の理解者兼一番の被害者
本名はルドル・バルト・シュバエルとかいう長ったらしい名前らしい
見た目からダンゴと呼ばれている

勇者
選ばれし者、英雄を約束されし者
そしてヤル気も既に失われし者
布団の中をこよなく愛する者

エレナ
回復術士
女神の如き優しさと寛大さを持ち合わせる聖女
単に天然なだけという噂もちらほら
ファンクラブは星の数ほどあるという

ユーン
女戦士、豪傑豪胆
勇者一行ツッコミ担当
そして勇者一行唯一の常識人

リュー
魔術師担当
おっとりとした口調が特徴
腹黒さは魔族並

ルルリエ

天界の聖天使。マジ天使。
大天使長リヒテルの実の妹
唯一とも言える良識人
魔王一派に圧倒されているが

リヒテル

天界の大天使長
なんか色々考えてるっぽい
めちゃくちゃ強い

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