第1話『魔王、おかわりをする。』

文字数 1,804文字

 ルルリエが城に来てから数週間が経過した。
 彼女もすっかり城に慣れ、いつも通りの日常の中に溶け込んでいた。
 
みなさーん!
ごはんですよー!
 ルルリエの天使の如き呼び声で、城の面々はぞろぞろと居間に集まる。
 中央の長テーブルには、所狭しと料理が並べられていた。
凄くいい匂いね。
本当ですね。
実においしそうです。
これは素晴らしい……!
ルルリエさんは料理がお得意なのですね!
料理は昔から好きだったので。
お口に合うと嬉しいのですが……。
美味しくないはずがありませんよ。
なんなら今から僕の部屋で試食してもよろしいですか?
それって料理の話だよね?
そうだよね?
ともかく、いただきましょう。
ワタクシも楽しみですわ。
よっしゃあ! 食べるぞ!
うおおおおおおお!!
 そして食事が始まると、皆一様に笑顔をこぼしながら料理を食べる。ルルリエはその光景を嬉しそうに眺めるのであった。
うまい! 
うますぎますぞ!
いやぁルルリエちゃんがいてくれてよかったよ。
毎日でも食べたいくらいだね!
も、もし魔王さんがよろしければ……その……。
はいはいストップ!
さりげなくルルリエに料理当番を押し付けないの!
ふふふ……。
な、なによ。こっち見てほくそ笑んじゃって……。
いえ、なんでもありませんわ。なんでも……。
でも、本当にルルリエさんの料理が楽しみになります。
これからもよろしくお願いしますね。
は、はい……!
それにしても平和だねぇ。
ごはんも美味しいし、天気もいいしで超ハッピーだよ。
あ、そういえば噂で聞いたのですが。
何をですか?
勇者一行が再びここへ向かっているらしいですよ。
だから唐突にとんでもない話をぶっこむのはやめてくれないかな!?
勇者きたあああ!
さっそく戦って――!
スレイブさん。
まずは食べてはいかがかな?
お、おう……そうだな……。
勇者さんたち、ご無事だったのですね。
確か、あんたの幻影がぶっ飛ばしたんじゃなかったっけ?
そうそう。
すっかり彼らのことを忘れていたよ。
勇者……人の世の、約束された英雄の総称ですね。
まあそんなところですな。
魔王の天敵っちゃ天敵かな。
そうだね。
本来ならこうやってごはん食べながら話すことじゃないよね。
もっと殺伐とした話のはずだよね。
それで、どうしますか?
そうだなぁ……。
城に兵がいませんからね。
私達でなんとかするしかありませんぞ。
ホントにここが魔王城か疑うわね。
偵察がてら、再び幻影をぶつけてみるのはいかが?
いいねそれ!
そんじゃ、さっそく……。
 そして魔王は、精神を集中させた。
んんんんん……!
フォォォオオオオ!
 相変わらず気の抜けた掛け声とともに、魔王の影が伸び始める。そして影は、徐々に形を形成し始めた。
……。
やっ! ひさしぶり!
こうして会うのは久々ですねぇ。
ってことで、さっそく行ってきてよ。
……。
あ、あれ? どったの?
……。
……もしかして、怒ってんじゃないの?
当然ですわ。
聞けば理不尽に命令し、理不尽に消されたとか。
企業なら立派なパワハラ案件ですね。
……別に怒ってないし?
謝ってほしいとかそんなんじゃないし?
ちょっとしたイメチェンだし?
あんたはふて腐れた中学生かっつーの。
ともあれ、確かにあの時はあんまりでしたな。
う、うーん……確かにちょっと酷かったかも……。
そう思うなら謝ってください!
あなたのせいで僕は身も心も真っ黒ですよ!
落ち着いて!
君は元々真っ黒だよ!
……魔王様。とりあえず、謝っときましょ。
うん、そうだね。
……ごめんね幻影くん。許してくれる?
……はい。いいですよ。
ふふふ。これで仲直りですね。
そうですね。なんだかほっとしました。
じゃあ仲直りしたところで、さっそく勇者達にしばかれてきてくれない?
さっきの謝罪の意味わかってます!?
まあまあそう言わずに。
あなたもグダグダ言ってないで覚悟を決めなさい。
ケガには気を付けてくださいね。
絶対ケガするじゃん!
約束された致命傷じゃん!
どうでもいいけど早く決めてよ。
行くの? 行かないの?
……ちくしょおおお!
帰ってきたら絶対パワハラで訴えてやる!
 そして幻影は、勇者のもとへと消えていった。
……なんだか気の毒ですね。
ともあれ、これである程度勇者一行の現在の状況を把握できますね。
以前からどれだけ強くなっているのか……。
そうだね。
とりあえず……おかわり!
はい!
たくさん食べてくださいね!
 そして魔王達は、何事もなかったかのように食事を続けるのだった……。
 ほんとこいつら大丈夫か?
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登場人物紹介

魔王
若くして魔界を統べた英雄的新米魔王
めちゃくちゃ強いが、苦労人
ツッコむつもりもないのにツッコまざるをえない部下を多数持つ

イシリア
魔王の城のメイドさん
意外と真面目
魔王とは幼馴染

セルフィー
幼女と見せかけて単に幼児体型なだけ
ジョセフに恋する自称乙女
一度回復魔術を使えば、超絶スパルタウーマンと化す

スレイブ
戦闘&修行マニア
なんとか魔王をこっちへ引き込もうとしている
普通に強い

マリアンナ
魔界随一の魔術使い
敵であるはずの神を崇拝
いちおう味方

ジョセフ
色々謎な優男
そしてイケメン
女好き

ダンゴ
魔王の部下
一番の理解者兼一番の被害者
本名はルドル・バルト・シュバエルとかいう長ったらしい名前らしい
見た目からダンゴと呼ばれている

勇者
選ばれし者、英雄を約束されし者
そしてヤル気も既に失われし者
布団の中をこよなく愛する者

エレナ
回復術士
女神の如き優しさと寛大さを持ち合わせる聖女
単に天然なだけという噂もちらほら
ファンクラブは星の数ほどあるという

ユーン
女戦士、豪傑豪胆
勇者一行ツッコミ担当
そして勇者一行唯一の常識人

リュー
魔術師担当
おっとりとした口調が特徴
腹黒さは魔族並

ルルリエ

天界の聖天使。マジ天使。
大天使長リヒテルの実の妹
唯一とも言える良識人
魔王一派に圧倒されているが

リヒテル

天界の大天使長
なんか色々考えてるっぽい
めちゃくちゃ強い

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