第4話『魔王、歓迎する。』

文字数 1,870文字

 ――魔王城、庭園。
 そこに並べられた椅子に座った勇者一行は、それぞれティーカップを持っていた。
この日のために用意した紅茶なのですが……口に合えば幸いです。
あ、どもー。
お茶菓子もおいしそうだねぇ。
そのクッキーは今朝焼いたばかりなんですよ?
ちょうどよかったです。
……ねえ、これどう思う?
紅茶はタージリンのようですね。クッキーからも生姜の香りがします。
たぶんあっさりした味になっていて、紅茶の風味や香りが際立つような配慮がされているんだと思います。
そうじゃなくて!
罠かどうかって話!
ていうかいつの間にアンタまでボケに回ったの!?
いやうめーよ普通に。
いくらでもいけるわ。
もう食ってんかよ!
でもエレナの言う通り、全然しつこくないあっさりとした味になってるねぇ。
おかげで全然紅茶の邪魔になっていない。
もう少し疑おうか!
信じる心は大切だけどもう少し疑おうか!
いつか死ぬよ!?
……ごめんなさい。
お口に、合いませんでしたか?
え……?
い、いや……その……。
ほら見ろ。
妙なこと言ってるから相手が傷付いてるだろ。
人の気持ちを考えようよユーン。
さすがに失礼じゃないかなぁ。
これってアタシが悪いの!?
え!? アタシが悪いの!?
とりあえず、ユーンも一口飲んでみては?
本当に美味しいですよ?
え? じゃ、じゃあ……。
……美味しい。それに、いい香り……。
喜んでいただいてとても嬉しいです。
 それからしばらく、勇者一行とマリアンナは紅茶とクッキーを楽しみながら、談笑したのであった。
あーもう食えねえ。
もう飲めねえ。
僕も。久しぶりにこんなに美味しいものを食べられたよ。
ご馳走様でした。
……ええと……。
私は、マリアンナと申します。
はい!
本当にありがとうございました!
マリアンナさん!
マリアンナさん……。
さっきは……その……ええと……。
先ほどのことでしたら、気にされないでください。
会って日が浅いのに差し出がましいことをしたのは私の方ですから。
で、でも本当に美味しかったです!
旅の疲れも吹っ飛びました!
それは良かったです。
荒野の風はさぞやつらかったでしょう。
ここでゆっくりと休んでいってくださいね。
いやマジでここにずっといたいわ。
永住したいわ。
みなさんの旅は、それほどまでに大変だったのですね。
……そうですね。私達にはやるべきことがありますが、確かにそれは生半可なことではありませんね。
それでもアタシは……いや、アタシ達はやると決めたんです。
だから、こうして旅をしているんです。
そうですか……。
何か、お力になれればいいのですが……。
……あ。俺、分かっちゃったかも……。
何を?
ここはきっとアレだ。
味方の前線基地だ。
え!?
そうなの!?
考えてもみろ。
こんな魔界でこんだけ美味い飯や紅茶出してくれたんだぞ?
ゆっくりしていけるんだぞ?
これはもうそうとしか考えられないだろ。
えっと……マリアンナさん、そうなのですか?
前線基地と言われれば、強ち間違いではありませんね。
やっぱりな。
これはきっと、王様のサプライズだねぇ。
あの人もなかなかやるじゃないか。
そっか! そうなんだ!
なんかアタシもさらにヤル気出て来たよ!
マリアンナさん。
この基地の責任者の方はどちらにいますか?
責任者、ですか……。
城の奥にいますが?
出来ればお礼が言いたいので、お目通りをお願いします。
そういうことでしたら、私が今から呼んで参りますよ。
少しお待ちくださいね。
 そしてマリアンナは席を立ち、城の中へと向かって行った。
……いやーでもラッキーだったわ。
休憩できるうえに飯までありつけるとは。
基地ということは兵もいるだろうから、援軍も期待できるかもねぇ。
魔王討伐も、現実味を帯びてきましたね。
基地の責任者にお礼を言う時にお願いしてみようよ!
きっと協力してくれるよ!
 一方その頃、玉座の間……。
魔王さん。ちょっとよろしいですか?
ん? どったのマリアンナさん?
何かあった?
いえ、大したことではないのですが。
お客人とティーパーティーをしていたのですが、ぜひ魔王さんにお礼が言いたいそうです。
え? 僕に? なんで?
よくは分かりませんが、とてもここが気に入ったからだと思いますよ。
へ~。律儀な人もいるもんだね。
マリアンナさんのお客人であれば、魔王様も一度お会いすべきでしょうな。
そしてあわよくば、勇者一行との闘いにご協力をお願いするのもよろしいかと。
おーいいねー!
それは名案だ!
歓迎せねば!
皆様庭園でお待ちですよ。
うん!
じゃあさっそく行こうか!
 そして魔王は、浮かれ気分で庭園へと向かったのだった。
 そこにいる人物らについて、知る由もなく……。
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登場人物紹介

魔王
若くして魔界を統べた英雄的新米魔王
めちゃくちゃ強いが、苦労人
ツッコむつもりもないのにツッコまざるをえない部下を多数持つ

イシリア
魔王の城のメイドさん
意外と真面目
魔王とは幼馴染

セルフィー
幼女と見せかけて単に幼児体型なだけ
ジョセフに恋する自称乙女
一度回復魔術を使えば、超絶スパルタウーマンと化す

スレイブ
戦闘&修行マニア
なんとか魔王をこっちへ引き込もうとしている
普通に強い

マリアンナ
魔界随一の魔術使い
敵であるはずの神を崇拝
いちおう味方

ジョセフ
色々謎な優男
そしてイケメン
女好き

ダンゴ
魔王の部下
一番の理解者兼一番の被害者
本名はルドル・バルト・シュバエルとかいう長ったらしい名前らしい
見た目からダンゴと呼ばれている

勇者
選ばれし者、英雄を約束されし者
そしてヤル気も既に失われし者
布団の中をこよなく愛する者

エレナ
回復術士
女神の如き優しさと寛大さを持ち合わせる聖女
単に天然なだけという噂もちらほら
ファンクラブは星の数ほどあるという

ユーン
女戦士、豪傑豪胆
勇者一行ツッコミ担当
そして勇者一行唯一の常識人

リュー
魔術師担当
おっとりとした口調が特徴
腹黒さは魔族並

ルルリエ

天界の聖天使。マジ天使。
大天使長リヒテルの実の妹
唯一とも言える良識人
魔王一派に圧倒されているが

リヒテル

天界の大天使長
なんか色々考えてるっぽい
めちゃくちゃ強い

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