創世記10章-11章 バベルの塔
文字数 1,609文字
洪水の後、ノアの息子、セム、ハム、ヤフェトにそれぞれ息子が生まれた。
「産めよ、増えよ」という祝福のとおり、ノアの子孫はエジプト、カナン、アッシリア、ギリシャなど、バビロニア全域から地中海の島々、アフリカまで広がった。
創世記11章4節
彼らは、「さあ、天まで届く塔のある町を建て、有名になろう。そして、全地に散らされることのないようにしよう」と言った。
バベルの塔の物語は、エデンからの追放の物語とつながっている。
人間と神との関係が再びテーマだ。
天まで届く塔のある町を建てること自体は、問題ではないはず…?
天まで届く塔を建てる目的は、有名になるためだった。
ヘブライ語では、נַעֲשֶׂה לָּנוּ שֵׁם「私たちのために名を作ろう」と書かれている。
「名を作る」ことは、「有名になる」ことを意味するのだ。
自らの名をあげることだけが人々の心を占めていたんですね。
創世記11章3節
彼らは、「れんがを作り、それをよく焼こう」と話し合った。石の代わりにれんがを、しっくいの代わりにアスファルトを用いた。
人々が
「天まで届く塔」を建てようと考えた背景には、
古代の技術革新がある。
当時、煉瓦を焼くという新技術が生まれた。
さらに、漆喰よりも粘着力のあるアスファルトという新素材が発見された。
石のように堅い煉瓦とアスファルトを組み合わせて、今までにない新しい塔を考えたのかも…。
主なる神は降って来て、「人の子らが建てた塔のある町」(創11:5)を見た。
この「人の子ら」とは、「アダムの子孫たち」のことであり、「アダムのような弱さを持つ人々」(人間的な弱さ)を意味する。
地上に人の悪が増したとき、神はすべてを破壊しつくすのではなく、ノアとその家族を救った。
神は決して人間を見捨てなかった。
主なる神の愛と恵みとゆるしは、ノアの子孫すべてを包みこむ永遠の契約だ。
しかし、人間は自分の名にこだわるあまり、神の名を忘れ、再び自分だけの道をほしいままに行こうとしている。
創世記11章8節-9節
こういうわけで、この町の名はバベルと呼ばれた。主がそこで全地の言葉を混乱(バラル)させ、また、主がそこから彼らを全地に散らされたからである。
בָּבֶל「バベル、バビロン」とבָּלַל「混乱させる」を結びつけるのは、通俗的語源説だ。
アッシリア語では、Bab-iliは「神の門」を意味する。
バビロンは、アッシリアから独立した新バビロニアの首都である。
古代メソポタミアでは、町の中心部にジッグラト(聖塔)と呼ばれる神殿が建てられていたんですよね。
大シュメール王朝のウル・ナム王によって紀元前2100年頃に建てられたウルのジッグラトが有名だ。
新バビロニアのネブカドネザル王は、紀元前6世紀にバビロンにジッグラトを建造している。
バビロンの町のジッグラトが、「バベルの塔」のモデルなのでは…?
新バビロニアによって征服され、首都バビロンに強制連行されたイスラエルの民が、天まで届くかのようなジッグラトを目にして、「バベルの塔」のお話を生み出したのかもしれない。
紀元前597年と紀元前587年、二度にわたってバビロンに連れ去られた。
この捕囚時代は、「エレミア書」と「エゼキエル書」に記されていますね。
エジプト脱出からバビロン捕囚まで、各時代のさまざまな文書が現在のようにまとめられたのは、
バビロン捕囚後であると言われる。
エズラによって、紀元前4世紀から5世紀に集大成されたという説が有力だ。
『旧約聖書』は、捕囚時代を生き延び、エルサレムへ帰還した人々によって、最終的に編集されたことを念頭に置いて読む必要があるわけですね。
この捕囚体験が、旧約聖書の成立に大きな影響を与えたことは間違いないだろう。
引用
新共同訳『旧約聖書』
参考
『創世記1 ヘブライ語聖書対訳シリーズ』ミルトス・ヘブライ文化研究所編、2007年
ジョン・ドレイン『総説・図説 旧約聖書大全』講談社、2003年
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