創世記21章 アビメレクとの契約

文字数 2,500文字

アブラハムはアビメレクと再び会見した。
創世記20章で、アブラハムが妻サラを「妹」だと偽って宮廷に差し出す話に登場した、ゲラルの王アビメレクと同一人物だよね。
創世記21章22節-24節

そのころ、アビメレクとその軍隊の長ピコルはアブラハムに言った。

「神は、あなたが何をなさっても、あなたと共におられます。どうか、今ここでわたしとわたしの子、わたしの孫を欺かないと、神にかけて誓ってください。わたしがあなたに友好的な態度をとってきたように、あなたも、寄留しているこの国とわたしに友好的な態度をとってください。」

アブラハムは答えた。「よろしい、誓いましょう。」

『旧約聖書』には「アビメレク」という名前の王が、3人も登場するのだ。
一人目は、創世記20章と21章に登場する「ゲラルの王アビメレク」ですね。
二人目は、創世記26章登場する「ゲラルにいるペリシテ人の王アビメレク」です。

飢饉があってゲラルに滞在していたイサクは妻リベカを「妹」と偽っていて、アビメレクに咎められます。

三人目は、士師記9章に登場するエルバアルの子、アビメレクですね。

三人目のアビメレクの父は、ヨシュアの子ギデオンです。

アビメレクという名前は、ヘブライ語で「私の父」(アビ)と「王」(メレク)を合成した言葉だ。

「私の父は王」を意味する、王の称号で固有名詞ではないという説もある。

アブラハムは、アビメレクとアビメレクの子孫を欺かないという契約を結ぶ。
創世記21章25節-27節

アブラハムはアビメレクの部下たちが井戸を奪ったことについて、アビメレクを責めた。アビメレクは言った。

「そんなことをした者がいたとは知りませんでした。あなたも告げなかったし、わたしも今日まで聞いていなかったのです。」

アブラハムは、羊と牛の群れを連れて来て、アビメレクに贈り、二人は契約を結んだ。

アブラハムは羊の群れの中から七匹の雌の小羊を別にし、「わたしの手からこの七匹の小羊を受け取って、わたしがこの井戸を掘ったことの証拠としてください」(創21:30)と申し出た。
それで、この場所を「ベエル・シェバ」(創21:31)と呼ぶようになった。
ベエル・シェバという地名は、ヘブライ語の「七頭」(シェバ)と「井戸」(ベエル)からなる。

神によって「誓う」(シャバ)という言葉は、「七」と同じ語源であるため、七頭の小羊を契約の証しとして贈ったのだろう。

「七つの井戸」「誓いの井戸」をかけた命名なんですね。
創世記21章32節-34節

二人はベエル・シェバで契約を結び、アビメレクと、その軍隊の長ピコルはペリシテの国に帰って行った。アブラハムは、ベエル・シェバに一本のぎょうりゅうの木を植え、永遠の神、主の御名を呼んだ。アブラハムは長い間、ペリシテの国に寄留した。

アブラハムは、契約が永遠に続くことを願って、植樹をした。
ユダヤの伝承では、ぎょうりゅうの木は、ヘブライ語の「食べる」「飲むこと」「宿泊」の頭文字をとったものだと言われている。
アビメレクとの契約は、創世記15章と17章で読んだアブラハムと神との契約と似ていますね。
そう、創世記15章と同じく「契約を結ぶ」という重要な表現が用いられているのだ。
15章で、主なる神はアブラハムと契約を結びますが、契約の内容が成就するのは「子孫」に対してです。

17章では、アブラハムから始まる子孫とも契約を立てています。

アビメレクとの契約では、アビメレク本人だけでなく、アビメレクの子孫も契約の相手とされるので、15章の契約と共通していますね。
契約の証しとして、動物が用いられるのも同じですね。
神との契約とアビメレクとの契約の共通点は、アブラハム個人だけでなく、アブラハムの子孫や、その次の世代にまで契約が引き継がれることだ。
契約が子孫に拡大されていくから、アブラハムの跡継ぎイサクかイシュマエルか、という争いも起こってしまうのかも…。
アブラハムは、アビメレクとの契約が子々孫々まで続くことを願って植樹をした。

しかし、アビメレクとの契約はアブラハムが死ぬと破られてしまうのだ。

創世記26章15節-18節

ペリシテ人は、昔、イサクの父アブラハムが僕たちに掘らせた井戸をことごとくふさぎ、土で埋めた。アビメレクはイサクに言った。「あなたは我々と比べてあまりに強くなった。どうか、ここから出て行っていただきたい。」イサクはそこを去って、ゲラルの谷に天幕を張って住んだ。そこにも、父アブラハムの時代に堀った井戸が幾つかあったが、アブラハムの死後、ペリシテ人がそれらをふさいでしまっていた。

イサクはペリシテ人たちがふさいだアブラハムの井戸を掘り直した。
イサクたちが水が豊かに湧き出る井戸を掘り当てると、ゲラルの羊飼いは「この水は我々のものだ」(創26:20)と言って、イサクの羊飼いと争った
アビメレクは和解のためにイサクのところに来て、お互いに「いかなる危害も与えない」(創26:29)という契約を結んだ

アブラハムが死んだ途端、契約を破られてイサクたちは追い出され、井戸も奪われてしまったなんて…。

創世記26章24節-25節

その夜、主が現れて言われた。

「わたしは、あなたの父アブラハムの神である。

恐れてはならない。わたしはあなたと共にいる。

わたしはあなたを祝福し、子孫を増やす。

わが僕アブラハムのゆえに。」

イサクは、そこに祭壇を築き、主の御名を呼んで礼拝した。彼はそこに天幕を張り、イサクの僕たちは井戸を掘った。

アビメレクとの契約は、次世代まで引き継がれることを約束したにもかかわらず、アブラハムの死後に破られてしまった。
しかし、神はアブラハムとの契約を守り、「わたしはあなたと共にいる」とイサクに語りかけたのだ。
人と人との間に結ばれた契約は、それぞれの自分勝手な判断で破られてしまう。
でも、主なる神が立てた契約は、決して破棄されない
神との契約だけはアブラハムの死後もとぎれず、イサクの世代にもその子孫にも、永遠に続いていくんですね。

引用

新共同訳『旧約聖書』


参考

『創世記1 ヘブライ語聖書対訳シリーズ』ミルトス・ヘブライ文化研究所編、2007年

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