創世記27章-28章 ヤコブの旅立ち/ヤコブの夢

文字数 3,106文字

ヤコブの旅立ち
父イサクの祝福をもらえなかったエサウは「ヤコブを殺してやる」と激怒した。
それを聞いた母リベカは、すぐにヤコブを逃がすため、兄ラバンのところへ送り出すことを計画する。
リベカは、エサウの妻であるヘト人の娘たちのことでうんざりした、とイサクに訴えた。
リベカは「もしヤコブまでも、この土地の娘の中からあんなヘト人の娘をめとったら、わたしは生きているかいがありません」(創27:46)と言って、イサクを説得した。
創世記28章1節-4節

イサクはヤコブを呼び寄せて祝福して、命じた。

「お前はカナンの娘の中から妻を迎えてはいけない。

 ここをたって、パダン・アラムのベトエルおじいさんの家に行き、そこでラバン伯父さんの娘の中から結婚相手を見つけなさい。どうか、全能の神がお前を祝福して繫栄させ、お前を増やして多くの民の群れとしてくださるように。どうか、アブラハムの祝福がお前とその子孫に及び、神がアブラハムに与えられた土地、お前が寄留しているこの土地を受け継ぐことができるように。」

イサクはリベカの説得に応じて、ヤコブを祝福して旅立たせた
アブラハムの祝福については、創世記12章2節、22章18節、26章4節を読み返してみよう!

創世記12章2節

「わたしはあなたを大いなる国民にし

あなたを祝福し、あなたの名を高める

祝福の源となるように。」

これは、アブラムが生まれ故郷、父の家を離れて旅立つ場面だったよね。

創世記22章18節

「地上の諸国民はすべて、あなたの子孫によって祝福を得る。あなたがわたしの声に聞き従ったからである。」
これは、アブラハムが主なる神に従ってイサクをささげようとした場面だ。
創世記26章4節

「わたしはあなたの子孫を天の星のように増やし、これらの土地をすべてあなたの子孫に与える。地上の諸国民はすべて、あなたの子孫によって祝福を得る。」

これは、アブラハムに与えられた祝福が、息子イサクへと引き継がれた場面だね。
イサクは、アブラハムの祝福がヤコブに引き継がれるように願っていたんだね。
エサウは、父イサクが「カナンの娘の中から妻を迎えてはいけない」と命じて、ヤコブをパダン・アラムへ送り出したことを知った。
エサウはイシュマエルのところへ行き、すでにいるヘト人の妻たちのほかに、イシュマエルの娘マハラトを妻とした
イサクとイシュマエルは異母兄弟だから、エサウとマハラトはいとこ婚だよね。
異教の神々を崇めるヘト人の娘たちが、父イサクの気に入らないことを知って、エサウは同じ神を信じるイシュマエルの娘と結婚したわけだね。
ヤコブもイシュマエルのところへ行けばよかったのでは…?
たしかに、リベカとラバンは兄妹だから、ヤコブがラバンの娘を妻に迎えれば、同じくいとこ婚になるね。
危険な長旅をして遠く離れたラバンのところへ向かうよりも、近くのイシュマエルのところへ行った方が安全だと思う。

そうではない。

ヤコブがラバンのところへ旅立つ本当の理由は、エサウから逃げるためである。

ラバンの娘の中から結婚相手を見つけることは、ヤコブを送り出す表向きの理由にすぎないのだ。

アブラハムは、信頼している年寄りの使用人にイサクの結婚相手を見つけるよう命じて、メソポタミア地方へ送り出した。
年寄りの使用人は、高価な贈り物を多く携え、従者を連れ、十頭のラクダの隊列で出発したけど、ヤコブがイサクから与えられたのは祝福だけ…。
ヤコブの旅立ちは、実は共同体からの追放だったのか…。
ヤコブの夢
ヤコブはベエル・シェバを旅立って、ハランへ向かった。
とある場所に来たとき、日が沈んだので、石を枕にして横になった
創世記28章12節-15節

すると、彼は夢を見た。先端が天まで達する階段が地に向かって伸びており、しかも、神の御使いたちがそれを上ったり下ったりしていた。見よ、主が傍らに立って言われた。

「わたしは、あなたの父祖アブラハムの神、イサクの神、主である。あなたが今横たわっているこの土地を、あなたとあなたの子孫に与える。あなたの子孫は大地の砂粒のように多くなり、西へ、東へ、北へ、南へと広がっていくであろう。地上の氏族はすべて、あなたとあなたの子孫によって祝福に入る。見よ、わたしはあなたと共にいる。あなたがどこへ行っても、わたしはあなたを守り、必ずこの土地に連れ帰る。わたしは、あなたに約束したことを果たすまで決して見捨てない。」

ヤコブは眠りから覚めて、「まことに主がこの場所におられるのに、わたしは知らなかった」(創28:16)と言った。
ヤコブは恐れおののいて、「ここは、なんと畏れ多い場所だろう。これはまさしく神の家である。そうだ、ここは天の門だ」(創28:17)と言った。
ヤコブは次の朝早く起きて、枕にしていた石を取り、記念碑として立て、先端に油を注いで、その場所をベテルと名付けた。(創28:19)
ベテルとはヘブライ語で「神の家」を意味する地名だ。
かつてその町の名は、ヘブライ語で「アーモンドの木」を意味するルズと呼ばれていた。
創世記28章20節-22節

ヤコブはまた、誓願を立てて言った。

「神がわたしと共におられ、わたしが歩むこの旅路を守り、食べ物、着る物を与え、無事に父の家に帰らせてくださり、主がわたしの神となられるなら、わたしが記念碑として立てたこの石を神の家とし、すべて、あなたがわたしに与えられるものの十分の一をささげます。」

「ヤコブのはしご」と呼ばれる、有名な場面だね!
雲間から太陽光が柱のように地上へ降り注ぐ現象を「ヤコブのはしご」や「天使のはしご」と呼ぶのは、このヤコブの夢が由来なのだ。
追放され、逃亡者として生きることになったヤコブに、主なる神は「わたしは、あなたに約束したことを果たすまで決して見捨てない」と語りかけてくださった!
石を枕にして寝なければいけない、もっとも孤独でみじめなときに、ヤコブは神の恵みを受けたんだ!
最終的にはイスラエル十二部族の祖となる、ヤコブの約束の一生がここから始まるんだね!
イギリスの画家、ウィリアム・ブレイクが「ヤコブのはしご」(1799年-1806年)を描いている。
「先端が天まで達する階段」で「神の御使いたちがそれを上ったり下ったり」という聖書の言葉を表現していますね。
こちらはユダヤ人画家、シャガールの「ヤコブの夢」(1966年)だ。
画面右に描かれた、大きな翼の美しい御使いは、ヤコブに「決して見捨てない」と語りかけているようですね。
ヤコブの夢は一体なにを意味しているんですか?
天から地に向かって伸びた階段は、神と人とのつながりを象徴している、と解釈されている。
階段を上っている御使いは、地上にいる人々が主なる神へささげる祈りや犠牲を象徴しているんですね。
じゃあ、階段を下っている御使いは、天から人々へと降る神の祝福や言葉を象徴しているわけですね。
地上の世界と天上の世界をつなぐ階段は、物理的な世界と精神的な世界との間に断絶がないことを示しているという解釈もある。
新約聖書でイエスは自分自身を、天使が昇り降りする階段としてたとえている。
ヨハネによる福音書 1章51節

更に言われた。「はっきり言っておく。天が開け、神の天使たちが人の子の上に昇り降りするのを、あなたがたは見ることになる。」

ここで言う「人の子」は、イエスを指す。
自分自身が階段だなんて、不思議なたとえだな。
イエス・キリストご自身が、主なる神と人々とをつなぐために、天から地へ降ろされた階段なんだね。

引用

新共同訳『旧約聖書』『新約聖書』


参考

『創世記2 ヘブライ語聖書対訳シリーズ』ミルトス・ヘブライ文化研究所編、2013年

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