創世記14章 ロト、捕虜になる/ロトの救出

文字数 2,183文字

ヨルダン川流域の低地の町々は、エラムの王ケドルラオメルに支配されていた。
創世記14章3節

彼らは十二年間ケドルラオメルに支配されていたが、十三年目に背いたのである。

ヘブライ語では、彼らが「奴隷として働く、仕える」という表現が用いられている。
ソドムの王ベラゴモラの王ビルシャアドマの王シンアブツェボイムの王シェムエベルツォアルの王ベラシディムの谷で同盟を結び、ケドルラオメルに反乱を起こした
シディムの谷とは死海地方のことだ。

死海は「塩の海」と呼ばれていた。

一方、シンアルの王アムラフェルエラサルの王アルヨクゴイムの王ティアドルケドルラオメルに味方をして、軍勢を送った。
4人の王たちが率いる遠征軍を、低地一帯の5人の王たちが迎え撃つ構図だ。
ケドルラオメルとその味方の王たちが率いる遠征軍は、アシュテロト・カルナイムでレファイム人、ハムでズジム人、シャベ・キルヤタイムでエミム人、セイルの山地でフリ人を打ち破って進軍した。
レファイム人は北部イスラエルの先住民族だ。

後に、レファイム人の唯一の生き残りであるバシャンの王オグが『申命記』に登場する。

遠征軍は進路を変えて、カデシュでアマレク人、ハツェツォン・タマルでアモリ人を打ち破った。
セイルは死海東岸からアカバ湾までの一帯を指し、ハツェツォン・タマルは死海西岸を指す。

遠征軍は、死海の東岸から西岸まで全ての町々を侵攻したのだ。

低地一帯の5人の王たちは、シディムの谷(死海地方)に陣を敷き、遠征軍に戦いを挑んだ。
創世記14章10節-12節

シディムの谷には至るところに天然アスファルトの穴があった。ソドムとゴモラの王は逃げるとき、その穴に落ちた。残りの王は山へ逃れた。ソドムとゴモラの財産や食糧はすべて奪い去られ、ソドムに住んでいたアブラムの甥ロトも、財産もろとも連れ去られた。

5人の王が敗北して、ロトも財産を奪われ、捕虜にされてしまった!
ローマ帝国時代のユダヤ人歴史家フラウィウス・ヨセフスが執筆した『ユダヤ古代誌』(西暦94~95年)には、これは「ソドム人とアッシリア人の戦争」であったと記録されている。
『ユダヤ古代誌』によれば、ソドム人の全領地は五つの土地に分けられ、それぞれベラ、ビルシャ、シナブ、セメベル、ベラと呼ばれる5人の王に統治されていた。

あるときアッシリア人がソドム人の土地へ攻め込み、ソドム人は敗北して、12年間アッシリア人の支配に服し、貢租をおさめた。しかしソドム人の5人の王たちは13年目に反乱を起こした。

アッシリア人の軍隊はアムラペル、アリオク、ケダラオメル、テダルに率いられ、再びソドム人の土地に向かって進撃した。アッシリア軍は全シリアを蹂躙してソドムに達し、「アスファルトスの坑」と呼ばれる深い渓谷に布陣した。

ソドム人はアッシリア人とはげしい戦闘を行ったが、その多くは殺され、残りの者は捕虜にされた。捕虜の中にはソドム人の同盟者として戦ったロトも入っていた。


『ユダヤ古代誌』では、遠征軍の4人の王をアッシリア人迎え撃つ5人の王をソドム人と記している。

ロトは戦闘に巻き込まれた一般住民ではなく、「ソドム人の同盟者」として武器を取って戦ったんですね。
ロトは「寄留者」ではなく、対等な関係の「同盟」を結んで、ソドムの町に暮らしていたのだ。
もし「寄留者」だったら、ソドムの町がアッシリア軍に包囲される前に、ロトは家族を連れ、財産をすべて携えて、逃げ出していたかも…?
ヘブロンに暮らしていたアブラムは、逃げ延びた男から敗北の知らせを聞き、ロトの救出に急いで出発した!
創世記14章14節

アブラムは、親族の者が捕虜になったと聞いて、彼の家で生まれた奴隷で、訓練を受けた者三百十八人を招集し、ダンまで追跡した。夜、彼と僕たちは分かれて敵を襲い、ダマスコの北のホバまで追跡した。アブラムはすべての財産を取り返し、親族のロトとその財産、女たちやそのほかの人々も取り戻した。

ロトはアブラムの甥だが、ここではヘブライ語で「彼の兄弟」と記されている。
『ユダヤ古代誌』によれば、アブラムはヘブロンを出発して、五日目の夜にダンに到着した。
ダンはヨルダン川の水源の一つの呼び名である。

ヘルモン山の南麓のテル・エル・カーディかテル・ダンを指す。

『ユダヤ古代誌』には、アブラムたちはアッシリア人に武器をとる隙も与えないほどの奇襲に成功した、と記録されている。

アッシリア軍の兵士たちは、夜襲に気づくまえに床の中で殺され、まだ寝入っていない者も酔っていたため戦うことができなかった。

うーん、エジプトで恐怖に脅えて、姑息な知恵に頼っていたアブラムとは思えない…。

まるで別人みたいな、はげしい戦いぶりだね。

アブラムは翌日にかけて敵軍を追撃し、ダマスコのホバまで追いつめた。
アブラムはわずか318人のしもべと3人の友人たちだけで、圧倒的に優勢だった敵軍を打ち破った!
アブラムと共に戦った友人は、同盟を結んでいたアモリ人の兄弟、マムレとエシュコルとアネルである。
こうしてアブラムは、敵軍に囚われていたロトと、すべての捕虜を救出し、略奪された財産を取り戻した

引用

新共同訳『旧約聖書』


参考

『創世記1 ヘブライ語聖書対訳シリーズ』ミルトス・ヘブライ文化研究所編、2007年

フラウィウス・ヨセフス『ユダヤ古代誌1』筑摩書房、1999年

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