創世記24章 水を飲ませたリベカ/イサクの結婚

文字数 4,925文字

老人となったアブラハムは、信頼している年寄りの使用人に、イサクのお嫁さんになる娘を探すよう命じた。
創世記24章2節-4節

アブラハムは家の全財産を任せている年寄りの僕に言った。

「手をわたしの腿の間に入れ、天の神、地の神である主にかけて誓いなさい。あなたはわたしの息子の嫁をわたしが今住んでいるカナンの娘から取るのではなく、わたしの一族のいる故郷へ行って、嫁を息子イサクのために連れてくるように。」

アブラハムは、イサクをカナンの女性とは結婚させたくないと思って、年寄りの使用人に特別の指示を与えた。
家の全財産を任せるほど、アブラハムはこの年寄りの僕(しもべ)を信頼していたんだね。
ユダヤの伝承では、この年寄りの僕は創世記15章2節に名前が出た、ダマスコのエリエゼルだと言われている。

イシュマエルが生まれる前、子供がいなかったアブラハムは「家を継ぐのはダマスコのエリエゼル」(創15:2)と言っていましたね。

一度は後継者指名したほど信頼していたエリエゼルなら、大切な跡継ぎであるイサクのお嫁さん探しを任せるのも納得です。
アブラハムが「手をわたしの腿の間に入れ、天の神、地の神である主にかけて誓いなさい」と言ったのはどうしてですか?
割礼した男性器は、神との契約のしるしである。

だから、契約のしるしがある股の下に手を置くように言って、神に誓わせたのだ。

年寄りの僕は、もしお嫁さんがこの土地へ来たくないと言ったら、「御子息をあなたの故郷へお連れしてよいでしょうか」(創24:5)と尋ねた。
創世記24章6節-8節

アブラハムは答えた。

「決して、息子をあちらへ行かせてはならない。天の神である主は、わたしを父の家、生まれ故郷から連れ出し、『あなたの子孫にこの土地を与える』と言って、わたしに誓い、約束してくださった。その方がお前の行く手に御使いを遣わして、そこから息子に連れて来ることができるようにしてくださる。もし女がお前に従ってこちらへ来たくないと言うならば、お前はわたしに対するこの誓いを解かれる。」

年寄りの僕は、アブラハムの腿の間に手を入れ、このことを神に誓った
年寄りの僕は十頭のらくだを選び、主人から預かった高価な贈り物を多く携え、アラム・ナハライムのナホルの町に向かって旅立った
創世記22章で知らせを受け取った、アブラハムの兄弟ナホルが暮らす町へ行ったわけだね。
アラム・ナハライムとは、チグリス川とユーフラテス川の間、メソポタミア地方を指す。

年寄りの僕はアラム・ナハライムに着くと、らくだを町外れの井戸の傍らに休ませた。

町に住む女性たちが水をくみに来る夕方だった。

年寄りの僕は井戸の傍らに立って、祈った

創世記24章12節-14節

「主人アブラハムの神、主よ。どうか、今日、わたしを顧みて、主人アブラハムに慈しみを示してください。わたしは今、御覧のように、泉の傍らに立っています。この町に住む人の娘たちが水をくみに来たとき、その一人に『どうか、水がめを傾けて、飲ませてください』と頼んでみます。その娘が『どうぞ、お飲みください。らくだにも飲ませてあげましょう』と答えれば、彼女こそ、あなたがあなたの僕イサクの嫁としてお決めになったものとさせてください。そのことによってわたしは、あなたが主人に慈しみを示されたのを知るでしょう。」

当時、水くみは女性の仕事だった。
年寄りの僕がまだ祈り終わらないうちに、一人の美しい娘が水がめを肩に載せてやってきた
創世記24章16節-20節

彼女が泉に下りて行き、水がめを水で満たして上がって来ると、僕は駆け寄り、彼女に向かい合って語りかけた。

「水がめの水を少し飲ませてください。」

すると彼女は、「どうぞ、お飲みください」と答え、すぐに水がめを下ろして手に抱え、彼に飲ませた。彼が飲み終わると、彼女は「らくだにも水をくんで来て、たっぷり飲ませてあげましょう」と言いながら、すぐにかめの水を水槽に空け、また水をくみに井戸に走って行った。こうして、彼女はすべてのらくだに水をくんでやった。

ヘブライ語では、年寄りの僕は非常に遠慮がちに頼んでいる。
この娘さんは、見知らぬ外国人の旅人の突然の頼みを拒絶したりせず、すぐに水がめを傾けて飲ませてくれた!
旅人に飲ませただけでなく、泉から何度もくみ上げて、らくだ用の水桶もすべて満たした
フランスの画家、ギュスターヴ・ドレが「エリエゼルとリベカ」(1866年)を描いている。
らくだに水をくんでいる間、年寄りの僕は「主がこの旅の目的をかなえてくださるかどうかを知ろうとして、黙って彼女を見つめて」(創24:21)いた。
創世記24章22節-25節

らくだが水を飲み終わると、彼は重さ半シュケルの金の鼻輪一つと十シュケルの金の腕輪二つを取り出しながら、「あなたは、どなたの娘さんですか。教えてください。お父さまの家にはわたしどもが泊めていただける場所があるでしょうか」と尋ねた。すると彼女は「わたしは、ナホルとその妻ミルカの子ベトエルの娘です」と答え、更に続けて、「わたしどもの所にはわらも餌もたくさんあります。お泊りになる所もございます」と言った。

年寄りの僕は、重さ約6グラムの金の鼻輪一つと、約115グラムの金の腕輪二つをリベカに贈った。
水がめを傾けて飲ませてくれた娘さんは、アブラハムの兄弟ナホルとその妻ミルカの息子ベトエルの娘リベカだった!
イサクにとってベトエルは従兄弟だから、リベカは従兄弟の娘ということになる。
そう、イサクとリベカは非常に濃い血縁関係なのだ。

現代の読者にとっては、血筋が近すぎると思うだろう。

しかし、年寄りの僕がカナンからメソポタミア地方まで旅してきたのは、アブラハムの一族からイサクの嫁を探すためである。
水をくみに来た心優しい娘さんが、偶然にもアブラハムの一族の娘だったわけですね。

年寄りの僕は、このすばらしい巡り合わせは主なる神の導きだと感謝した。
創世記24章26節-27節

彼はひざまずいて主を伏し拝み、「主人アブラハムの神、主はたたえられますように。主の慈しみとまことはわたしの主人を離れず、主はわたしの旅路を導き、主人の一族の家にたどりつかせてくださいました」と祈った。

「どうか、水がめを傾けて、飲ませてください」と頼んで、「どうぞ、お飲みください。らくだにも飲ませてあげましょう」と答えることが、どうして結婚の決め手になるのかな…?
『新約聖書』では、サマリアの町の井戸のそばで、旅に疲れたイエスが水をくみに来た女性に「水を飲ませてください」と頼む場面がある。
ヨハネによる福音書4章7節-9節

サマリアの女が水をくみに来た。イエスは、「水を飲ませてください」と言われた。弟子たちは食べ物を買うために町に行っていた。すると、サマリアの女は、「ユダヤ人のあなたがサマリアの女のわたしに、どうして水を飲ませてほしいと頼むのですか」と言った。

サマリアの女性の態度は、リベカとは対照的ですね。

突然、得体の知れない外国人から話しかけられても、リベカは「外国人のあなたが、どうしてわたしに頼むの?」なんて言わなかった。
リベカは、見知らぬ旅人に心を尽くして、水を井戸から何度もくみ上げた。
年寄りの僕は、人のために労苦を惜しまず働くリベカの人となりに感動したからこそ、金の鼻輪と腕輪と贈り、名前を尋ねたのだろう。
リベカは走って行き、母の家の者に出来事を告げた
リベカの兄ラバンは、妹のつけている金の鼻輪と腕輪を見て、リベカの話を聞き、すぐに町外れの井戸まで走って行き、年寄りの僕を家に招き入れた
創世記24章31節-32節

そこでラバンは言った。「おいでください。主に祝福されたお方。なぜ、町の外に立っておられるのですか。わたしがお泊りになる部屋もらくだの休む場所も整えました。」その人は家に来て、らくだの鞍をはずした。らくだにはわらと餌が与えられ、その人と従者たちには足を洗う水が運ばれた。

リベカの兄ラバンが、見知らぬ旅人を手厚くもてなしたことが書かれている。
アブラハムやロトが御使いをもてなしたように、リベカもラバンも「異人歓待の掟」(ホスピタリティ)を大切にしているんだね。
食事が前に並べられたが、年寄りの僕は「用件をお話するまでは、食事をいただくわけにはまいりません」(創24:33)と言った。
年寄りの僕は、すべてが主なる神に導かれた結果、井戸の傍らでリベカと出会ったことを語った。
創世記24章48節-49節

わたしはひざまずいて主を伏し拝み、主人アブラハムの神、主をほめたたえました。主は、主人の子息のために、ほかならぬ主人の一族のお嬢さまを迎えることができるように、わたしの旅路をまことをもって導いてくださいました。あなたがたが、今、わたしの主人に慈しみとまことを示してくださるおつもりならば、そうおっしゃってください。そうでなければ、そうとおっしゃってください、それによって、わたしは進退を決めたいと存じます。」

年寄りの僕の言葉を聞いて、リベカの兄ラバンと父ベトエルは答えた。
創世記24章50節-54節

「このことは主の御意志ですから、わたしどもが善し悪しを申すことはできません。リベカはここにおります。どうぞお連れください。主がお決めになったとおり、御主人の御子息の妻になさってください。」

アブラハムの僕はこの言葉を聞くと、地に伏して主を拝した。そして、金銀の装身具や衣装を取り出してリベカに贈り、その兄と母にも高価な品物を贈った。僕と従者たちは酒食のもてなしを受け、そこに泊った。

次の朝、年寄りの僕は「主人のところへ帰らせてください」(創24:54)と申し出る。
ところがリベカの兄と母は、「もうしばらく、十日ほど、わたしたちの手もとに置いて、それから行かせるようにしたい」(創24:55)と頼んだ。
創世記24章56節-58節

しかし僕は言った。

「わたしを、お引き止めにならないでください。この旅の目的をかなえさせてくださったのは主なのですから。わたしを帰らせてください。主人のところへ参ります。」

「娘を呼んで、その口から聞いてみましょう」と彼らは言い、リベカを呼んで、「お前はこの人と一緒に行きますか」と尋ねた。「はい、参ります」と彼女は答えた。

母と兄から引き止められても、リベカは自分で決断して、「はい、参ります」と答えた。

いくら大伯父アブラハムの僕からの招きであっても、リベカにとってはまったく未知の旅になる。

「はい、参ります」というリベカの決断は、アブラハムが神の言葉に従って旅立ったことと同じ、一大決心だったと言える。
リベカは思いやりがあるだけでなく、自由な決断力を持った女性なんだね。
創世記24章59節-61節

彼らは妹であるリベカとその乳母、アブラハムの僕とその従者たちを一緒に出立させることにし、リベカを祝福して言った。

「わたしたちの妹よ

  あなたが幾千万の民となるように。

 あなたの子孫が敵の門を勝ち取るように。」

リベカは、侍女たちと共に立ち上がり、らくだに乗り、その人の後ろに従った。

そのころ、イサクはネゲブ地方に住んでいた。
夕方暗くなるころ、ちょうどイサクがベル・エル・ラハイ・ロイから帰ってきていて、野原のむこうにらくだがやってくるのが見えた。
リベカも目を上げて眺め、イサクを見た。
創世記24章64節-67節

リベカはらくだから下り、「野原を歩いて、わたしたちを迎えに来るあの人は誰ですか」と僕に尋ねた。「あの方がわたしの主人です」と僕が答えると、リベカはベールを取り出してかぶった。僕は、自分が成し遂げたことをすべてイサクに報告した。イサクは母サラの天幕に彼女を案内した。彼はリベカを迎えて妻とした。イサクは、リベカを愛して、亡くなった母に代わる慰めを得た。

おお、夕映えの野原でのイサクとリベカの出会いは、聖書にはめったにない、美しい情景描写だね!

引用

新共同訳『旧約聖書』『新約聖書』


参考

『創世記1 ヘブライ語聖書対訳シリーズ』ミルトス・ヘブライ文化研究所編、2007年

一色義子『エバからマリアまで 聖書の歴史を担った女性たち』キリスト新聞社、2010年

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