創世記26章 イサク、ゲラルへ行く/井戸をめぐる争い

文字数 4,043文字

イサクはネゲブ地方のベエル・ラハイ・ロイの近くに住んでいた(創24:62)。
この地方に飢饉があったので、イサクはゲラルにいるペリシテ人の王アビメレクのところへ行った。

アブラハムの時代にもネゲブ地方では飢饉が起こってるね。

アブラハムは、12章ではエジプトへ避難し、20章ではゲラルへ避難している。
創世記26章2節-6節

そのとき、主がイサクに現れて言われた。

「エジプトへ下ってはならない。わたしが命じる土地に滞在しなさい。あなたがこの土地に寄留するならば、わたしはあなたと共にいてあなたを祝福し、これらの土地をすべてあなたとその子孫に与え、あなたの父アブラハムに誓ったわたしの誓いを成就する。わたしはあなたの子孫を天の星のように増やし、これらの土地をすべてあなたの子孫に与える。地上の諸国民はすべて、あなたの子孫によって祝福を得る。アブラハムがわたしの声に聞き従い、わたしの戒めや命令、掟や教えを守ったからである。」

そこで、イサクはゲラルに住んだ。

「エジプトへ下ってはならない」という神の言葉を聞いて、イサクはゲラルへ避難したのか。
アブラハムに与えられた祝福が、息子イサクに引き継がれた!

22章でアブラハムが言われた、地上の諸国民はすべて、あなたの子孫によって祝福を得る」という約束が繰り返されているね。

地上の諸国民はすべて、あなたの子孫によって祝福を得る」という箇所は、ヘブライ語では「互いに祝福しあうだろう」と書かれている。
大事な約束だから、繰り返されたんだ!
創世記26章7節

その土地の人たちがイサクの妻のことを尋ねたとき、彼は、自分の妻だと言うのを恐れて、「わたしの妹です」と答えた。リベカが美しかったので、土地の者たちがリベカのゆえに自分を殺すのではないかと思ったからである。

寄留先でアブラハムが妻サラを「妹」だと偽った(12章、20章)のと同じく、イサクも妻リベカを「妹」だと偽るのだ。
ペリシテ人の王アビメレクは、「イサクが妻のリベカと戯れていた」(創26:8)のを見て、イサクを呼びつけた。
創世記26章9節-11節

「あの女は、本当はあなたの妻ではないか。それなのになぜ、『わたしの妹です』などと言ったのか。」「彼女のためにわたしは死ぬことになるかもしれないと思ったからです」とイサクは答えると、アビメレクは言った。「あなたは何ということをしたのだ。民のだれかがあなたの妻と寝たら、あなたは我々を罪に陥れるところであった。」アビメレクはすべての民に命令を下した。「この人、またはその妻に危害を加える者は、必ず死刑に処せられる。」

「妹」だと称していた妻といちゃついているのを目撃されて、嘘がばれてしまうのは、実際にありえそうだな。

サラは宮廷に召し入れられて、危ういところを神に助けられた。

リベカの場合は、宮廷に召し入れられたわけじゃないから、神に助けられるエピソードもないね。
12章ではファラオを病気にさせて、20章では王の夢に現れて、主なる神はサラを助けた。
今回の物語では、イサクとリベカの命を守ったのは、二人に危害を加える者は「死刑に処せられる」という命令を下したペリシテ人の王アビメレクである。
最初に神から「エジプトへ下ってはならない」と命じられたおかげで、イサクはゲラルへ向かったんですよね。
イサクが襲われて殺されたりしないように、外国人が保護される国を選んで、主なる神は導いてくださったのかもしれないね。
「妻を妹だと偽る」三つの物語のうち、伝承史的には、アブラハムとサラの伝承よりも、イサクとリベカの伝承の方が古いのではないか、と言われている。
創世記26章12節-14節

イサクがその土地に穀物の種を蒔くと、その年のうちに百倍もの収穫があった。イサクが主の祝福を受けて、豊かになり、ますます富み栄えて、多くの羊や牛の群れ、それに多くの召し使いを持つようになると、ペリシテ人はイサクをねたむようになった。

ペリシテ人たちは、アブラハムがかつてゲラルに寄留していたときに掘った井戸をことごとくふさぎ、土で埋めてしまった
21章で、アブラハムとアビメレクは互いの友好を誓って、契約を結んでいたはずだ。
アビメレクが最初にイサクとリベカを保護したのは、かつてアブラハムと結んだ契約があったからだろう。
創世記26章16節-18節

アビメレクはイサクに言った。「あなたは我々と比べてあまりに強くなった。どうか、ここから出て行っていただきたい。」イサクはここを去って、ゲラルの谷に天幕を張って住んだ。そこにも、父アブラハムの時代に堀った井戸が幾つかあったが、アブラハムの死後、ペリシテ人がそれらをふさいでしまっていた。イサクはそれらの井戸を掘り直し、父が付けたとおりの名前を付けた。

アビメレクはアブラハムとの契約を破って、イサクを追い出してしまった。
イサクたちは飢饉のせいでゲラルへ逃げてきたのだから、現代で言えば、難民だよね。
現代でも、経済的に不満を持った人々が、難民に反感を持ち、自分たちを脅かす存在だと決めつけて排斥する問題が世界中で起こっている。
創世記26章19節-22節

イサクの僕たちが谷で井戸を掘り、水が豊かに湧き出る井戸を見つけると、ゲラルの羊飼いは、「この水は我々のものだ」とイサクの羊飼いと争った。そこで、イサクはその井戸をエセクと名付けた。彼らがイサクと争ったからである。イサクの僕たちがもう一つの井戸を掘り当てると、それについても争いが生じた。そこで、イサクはその井戸をシトナと名付けた。

ヘブライ語で「エセク」は「戦い、争い」を意味し、「シトナ」は「敵意、紛争」を意味する。
イサクはゲラルの羊飼いとの争いを避けて、せっかく掘り当てた井戸を二度も放棄している。
イサクは、井戸を守るよりも、自分たちの命を守ることを優先したんだろう。
創世記26章22節

イサクはそこから移って、さらにもう一つの井戸を掘り当てた。それについては、もはや争いは起こらなかった。イサクは、その井戸をレホボトと名付け、「今や、主は我々の繁栄のために広い場所をお与えになった」と言った。

ヘブライ語で「レホボト」は「広いところ」を意味する。
創世記26章23節-25節

イサクは更に、そこからベエル・シェバに上った。その夜、主が現れて言われた。

「わたしは、あなたの父アブラハムの神である。

恐れてはならない。わたしはあなたと共にいる。

わたしはあなたを祝福し、子孫を増やす。

わが僕アブラハムのゆえに。」

イサクは、そこに祭壇を築き、主の御名を呼んで礼拝した。彼はそこに天幕を張り、イサクの僕たちは井戸を掘った。

ベエル・シェバは、かつてアブラハムとアビメレクが契約を結んだ場所だ。
アビメレクはアブラハムとの契約を一方的に破ったけど、神はアブラハムとの契約を永遠に守り、イサクに祝福が引き継がれることを約束した。
アビメレクが参謀のアフザトと軍隊の長のピコルと共に、ゲラルからイサクのところに来た
創世記26章27節-29節

イサクは彼らに尋ねた。「あなたたちは、わたしを憎んで追い出したのに、なぜここに来たのですか。」彼らは答えた。「主があなたと共におられることがよく分かったからです。そこで考えたのですが、我々は互いに、つまり、我々とあなたとの間で誓約を交わし、あなたと契約を結びたいのです。以前、我々はあなたに何ら危害を加えず、むしろあなたのためになるよう計り、あなたを無事に送り出しました。あなたも、我々にいかなる害も与えないでください。あなたは確かに、主に祝福された方です。」

掘り当てた井戸のおかげでイサクは繁栄し、アビメレクがイサクの力を脅威だと考えるほどになった。
アビメレクはイサクとの争いを避けるために、再び友好を結ぶことを申し入れたんですね。
創世記26章30節-33節

そこで、イサクは彼らのために祝宴を催し、共に飲み食いした。次の朝早く、互いに誓いを交わした後、イサクは彼らを送り出し、彼らは安らかに去って行った。その日に、井戸を掘っていたイサクの僕たちが帰って来て「水が出ました」と報告した。そこで、イサクはその井戸をシブアと名付けた。そこで、その町の名は、今日に至るまで、ベエル・シェバといわれている。

ヘブライ語で「シブア」は「誓い」を意味し、ベエル・シェバは「誓いの井戸、七つの井戸」の意味だ。

イサクは、自分たちがゲラルから追い出されたことを責めず、アビメレクの申し出を受け入れ、再び友好の誓いを交わしたんですね。

21章で、アブラハムはアビメレクの部下が井戸を奪ったことで、アビメレクを責めた

一方イサクは、ゲラルの羊飼いが井戸を奪ったことについて、アビメレクを責めなかった

『ユダヤ古代誌』では、イサクの人柄について次のように記している。
そしてアビメレクは、その希望を完全に達して自分の領地へ帰ったが、そうできたのも、現在の憤懣より、自分や父が彼から受けたかつての恩義の方を重く見たイサクの善良な性格のおかげだった。

(フラウィウス・ヨセフス『ユダヤ古代誌1』より)

友好の誓いを交わして、アビメレクを送り出したその日に水が湧き出る井戸を掘り当てたのは、神がイサクの行いを見て、「良しとされた」ように読み取れるね。
現在のベエル・シェバはイスラエルの領土にあって、約20万人が暮らす南部の中心的な都市ですね。
都市の北西に位置するテル・ベエル・シェバと呼ばれる遺丘は、紀元前4000年紀までさかのぼるとされ、2005年にユネスコ世界遺産に登録された。
発掘調査では士師の時代、ヘレニズム時代、ヘロデ王の時代、ローマ時代の遺物も発見されている。

引用

新共同訳『旧約聖書』


参考

『創世記2 ヘブライ語聖書対訳シリーズ』ミルトス・ヘブライ文化研究所編、2013年

野本真也「アブラハム伝説の成立と展開 : 「族長夫妻の危機」物語の場合」基督教研究、1974年

フラウィウス・ヨセフス『ユダヤ古代誌1』筑摩書房、1999年

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