第8話

文字数 2,318文字

「ぐぅっ!」
リブが胸を抑え、その場に蹲ってしまった。
「リ、リブ!?」

「おいおいおいおい!?マジかよ。これテメェ一人でやったのかよ?」

テントの入口にスキンヘッドで筋肉隆々な男が立っていた。

「どうすんだよこれ……。あんだけいた奴隷商人も、調教師も、人攫いの山賊も!全員バラバラになっちまってんじゃねぇか!?」
パンッ!!パンッ!!
続け様に先程と同じ炸裂音がした。

「うぐぁぁぁ!!」
「リブ!?」

「これじゃもうここで奴隷商売は出来ねぇじゃねえか!どうしてくれんだよこのクソガキが!?」
パンッ!!パンッ!!パンッ!!
炸裂音がする度に赤いツインテールの身体が跳ねた。
もう、動いていない……。

カチッ、カチッ。
「ちっ。弾切れか。」

「た、弾切れ?その手に持ってる金属は、一体……??」

「ああ、コイツは銃ってんだよ。見るのは初めてか?コイツと比べれば、剣なんて玩具だぜ。奴隷で儲けた金でよ、護身用に買っておいたんだわ。ま、あの地下倉庫に置いて来ちまってたんだがな。だから取りに行って、戻って来たらこの状況だ……。マジでこのガキがやったのか?これ?」

スキンヘッドの男から、目を話すことが出来なかった。
この男の機嫌ひとつで、この目の前で血の海に倒れている赤いツインテールと、同じ末路を辿るかもしれないのだ。

スキンヘッドの男は私の方へ近づいてくる。
「ローレルだったな、テメェ?マジでこの状況どうするんだ?テメェがこのクソガキをよぉ、ここまで連れてきちまったのが元凶なんだがなぁ?」
「あ、う、その……。」
「ハッキリ喋れや!!」
ゴスッ。

顔を蹴られた。
「うぐっ!」
その場に倒れ込む。
腰が抜けているため、逃げ出す事も出来ない。

男は懐から、小さな金属を取り出していた。
「これはなぁ、弾薬って言ってなぁ。コイツをさっきの銃に詰め込んで、そして発射するんだ。」
男は自分で説明した通り、弾薬と呼ばれた金属を、銃と呼ばれた金属の中に収めていく。
「リボルバー式っつっても、テメェにゃわかんねぇだろうがな。6発までしか装填出来ねぇ銃なんだわ。コイツは。」
カチャリ。カチャリ。

弾薬を詰める音が、自分の寿命のように聞こえてならない。
「わ、私も……殺すの?」
「あ?当たり前だろうが。奴隷市場がこうなっちまった以上、もうこのバザールにいても仕方ないからな。もうすぐ明け方だからよぉ、朝のラクダ便で中央都市へ向かう。」
「わ、私を殺す理由……は?私は何も悪くないわよ?」
「は?んなもん決まってんだろ?」
スキンヘッドの男は未だに青筋の消えない頭で言った。

「ただのストレス発散だよ。俺の島を潰された事のな。」

ああ。
私の人生は、ここで終わりか。
なんの面白みもない、クソみたいな人生だったな……。
奴隷商人か……。
笑わせる。
人の人生を狂わせ続けた私にしては、あまりにも上等な幕引きかもしれない。
もっと惨い死に方をするもんだと思ってたのに。

スキンヘッドの男が銃をこちらに向ける。
「じゃあな、クソ女。地獄で会おうや。」

でも、やっぱり
「死にたく、ないな……。」

「仕方ないわね。」
聞き覚えのある声だった。

「……誰の声だ??」
「そんな、」

さっきまで、倒れ伏していたところに。
動かなくなったはずなのに。
赤いツインテールが特徴的な、全身血まみれの少女が、平然とそこに立っていた。

「このクソガキ……生きてやがったのか!?」
男は銃を構え、続け様に2発リブに撃ち込んだ。

「おっとっと!それ、辞めない?当たったら減っちゃうんだけど?」
リブは大太刀を地面に差し込み、それを始点に横へ飛び退いた。
銃弾は、当たっていなかった。

「別に、あんたなんて死んだって全然構わないんだけどね。まあ、その必死に生きようとする姿勢は好きよ。ローレル。」

「テメェ、なんで生きてやがる?確かに銃弾を叩き込んだはずだが?」
「そうね。ちゃんとあんたの銃弾は私に命中していたわ。その証拠にほら。」
言って彼女は自分の胸の当たりを指でさす。
正確には、そこ周辺に出来ている服の穴を。

「ああ?どうなってやがる……。傷口がねえじゃあねえか。」

「私はね、なんと溶けることが出来るのよ。」

「……は???」

私もスキンヘッドの男と同じ疑問を持っていた。
溶ける事が出来る??どういう意味なのか全く理解出来なかった。

「別に、理解しなくても構わないわ。どうせもうすぐあんたも死んじゃうんだし。」

「……テメェに銃が効かねえ事は分かった。さっきまで死んだフリをしていたこともな。」
それなら。
そうスキンヘッドの男は言いながら、こちらに銃を向けてきた。

「この女が殺されそうになった時、テメェ助けたよな?言ってる意味が分かるか?」
「ひっ!」
「つまり人質だ。その刀を捨てろ。」

リブは無言でスキンヘッドの男を睨みつけている。

「はよその物騒なもんを捨てんかい!?このクソ女にぶち込むぞ!?ああ!?」
リブは脱力するように、構えていた刀を自分の腰元まで降ろした。

「そうだ。そのまま刀を床に」

リブが前のめりに倒れる。
そう思った時、スキンヘッドの男が縦に真っ二つになっていた。

「……??なん、で……」
ベチャリ、と。
スキンヘッドの男はその場に崩れ落ちた。
「えっ!?は!?な、何が起こって……」
先程までスキンヘッドの男男がいたところに、赤いツインテールが刀を振り上げている姿だけが残っていた。

……下から斬り上げた?
あの距離からどうやってここまで瞬間移動を??

「ふぅぅぅ。これ、超疲れるからあんまりやりたくないんだけどな。仕方ないか。」
言って、血まみれの赤いツインテールは得意気に、そして満足気に呟いた。
「やっぱり、人を斬るのって最高だわぁ。」

この女だけは絶対に敵に回してはいけないと、色んな意味で思ったのだった。
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登場人物紹介

リブレ・レッドライン


17歳

赤いツインテールが特徴的な少女。

身長が低く、容姿も子供っぽいため、見た目だけなら13〜14才程度にしか見えない。

2メートル程もある刀、大太刀「リーヴァメルツ」を所持しており、大切にしている。

ローレル・スイートピー


17歳

緑色の髪の毛を持つ少女。

保身のためなら何でもする。

基本的にクソザコなため、戦闘能力は皆無。

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