第30話

文字数 1,773文字

「リブー!」

緑髪のローレルが駆け寄ってくる。

氷の塊から下に降り、今は魔法使い養成学校の門の前だ。

「あれ!?その娘は……。」
私は氷の魔女を肩に担いでいた。
意識はないが、まだ生きている。

しかし、
「ちょ、腕!左腕が肩からバッサリと無いじゃない!」
私が斬ったのだ。
「仕方ないじゃない。こうでもしないと止まらなさそうだったんだもの。」
斬られた断面は私が止血して手当はしている。
が、早く回復魔法の専門家なり、医療機関なりに見てもらったほうがいいだろう。

「そ、その娘どうするつもりなの?まさか家に持って帰ってから切り刻むつもりじゃ……!?」
「そんな事しないわよ!」
私を何だと思っているのか。
「クレイジーサイコパス人斬り中毒者。」
聞かなかった事にしておく。
でないと、このクズ女の命がいくらあっても足りない……。

「泣きながら戦ってたのよ。」
氷の魔女の事だ。
「何か事情があるっぽいのよね。両親がどうとか言ってたし。このままこの娘を斬るのは、なんだか寝覚めが悪そうだと思ってね。」
「へー、リブにも良心とかあるのね。」
「なかったらローレルは今頃粉微塵よ?私に切り刻まれて。」
ヒィ!等とビビっている風な様子を見せるローレルだが、その腹は分からない。

「それで、電気の老人は?どこにいるのかしら。」
「あ、それなんだけど……」
ローレルは自信満々といった感じで戦利品を見せてきた。
「ジャーン!あのクソジジイ討伐の証拠よ!」
そう言ってローレルは老人が使っていた杖を突き出した。

「1人で倒しちゃったの?」
「その通りよ!私!1人で!!」
ふふふーん、と胸を張っている。

「はあぁぁ。」
ため息が出る。
獲物が1人減った……。

なんだかんだ、このマナランドに来てからまだ1人も斬っていない。
少女の腕を斬りはしたが……。
「じゃ、あと1人ね。ケルベロスの幹部。全く姿も見せないし話にも出ない。どんなやつなのかしら、炎の魔法使いって。」

「呼んだか?」
校門から少し離れた一点。
白い髪を雑に後ろで束ねた、青年であった。
いつの間にか、そこに居た。

深紅を思わせる赤いローブを身に付けた青年は、私達を見るなりニヤニヤしながら声をかけて来た。

「はじめまして。俺は黒魔術集団ケルベロスの幹部の1人。爆炎暴君なんて呼ばれてる、ボルグってんだ。よろしくな。」

やたらと爽やかな、印象をした男だ。
そして、何より際立つのは、
「漏れ出ている魔力が、恐ろしく純粋……?」

強大な魔法使いは、その膨大な魔力故、無意識の内に極微量の魔力を身体から流している。

魔法を学んだ人間には、その流れている魔力を感じる事が出来、その性質も多少は感じ取れる。
電気の老人の魔力は、分かりやすく悪意的だった。

だが、この青年は……?

「電気ジジイからの定期連絡がねえからどうしたのかと思えば、なんだ負けたのか?デカい口を叩く割に結局は雑魚なのかよ。」
「仲間じゃなかったのかしら?」
「んなわけねぇだろ。俺は1人で十分だ。ただ、利用価値はあったぜ。アイツがいれば、暴れられる場を用意してくれた。だから一時的に手を組んでた訳だが……、そうか。死んじまったか……。」

青年はため息を付きながら、
「これからどうしよっかなー。」

「どうもこうもないわ。」
私は氷の魔女をローレルに預けながら、青年に向かう。

「貴方は今から、私に斬られて死ぬのよ。」

青年はニヤリと笑う。
「カカカッ。いいねぇ、そういうの。」
ちなみに、と青年は続けた。
「お前が俺を殺す理由ってなんだ?なんか恨みでもあんのか?」
「知らないの?貴方、賞金首に登録されてるのよ。理由なんて、それで十分でしょ?」
「俺が、賞金首?マジか!?」

カカカッ!
と、青年は乾いた笑い声を上げる。

「で、報酬金はいくらなんだ?」
「3万ゼニーよ。」
「少なっ!マジかよー!俺はその程度の器じゃねえって!」
「知らないわよ!冒険者ギルドにでも直談判してみれば?」
ま、私に勝てたらの話だけど。

「やっぱあの電気ジジイの指示に従ってたからだろうなー。小さい仕事ばっかさせやがって。」
青年はいじけた様な態度を取る。

「これは、もっと派手に暴れてやるっきゃねえよなぁ!!」
ボウッ!
瞬間、青年の周りに巨大な火柱が数本登った。
「決めたぜ。この街を全部燃やしてやる。人も建物も、まとめて全部だ。」
夜の街が、炎の光で強制的に明るくなる。

「爆炎暴君、オンザステージだぜ!」
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登場人物紹介

リブレ・レッドライン


17歳

赤いツインテールが特徴的な少女。

身長が低く、容姿も子供っぽいため、見た目だけなら13〜14才程度にしか見えない。

2メートル程もある刀、大太刀「リーヴァメルツ」を所持しており、大切にしている。

ローレル・スイートピー


17歳

緑色の髪の毛を持つ少女。

保身のためなら何でもする。

基本的にクソザコなため、戦闘能力は皆無。

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