第1話

文字数 2,337文字

赤いツインテールが特徴的な少女だった。

「うへぇ……暑いぃぃ。」
大きな人混みの渦に巻き込まれながら、私は呟いた。
「なんでこんなに人が居るのよ。事前情報だと、そこまで人は多くないって聞いてたのに……。」
ボヤいてみても誰も答えてはくれない。
というか、誰も聞いていなかった。
ただでさえ暑い中、団子状態になった人混みの中で押し潰されるのは、堪える。
どさくさに紛れて尻を触られる事もあった。
こう人が多いと顔を確認する事もままならない。
「マジで何なの。何があるって言うのよ……。」

この付近には大きなオアシスがある。
砂漠地帯であるこの地方では、水は非常に重要であり、よってオアシスの周りには自然と人が集まる。
集まった人をターゲットに様々な出店も催され、それらが集まり大きなバザールへと発展しているのだ。

大きなバザールといっても、普段はここまで人でごった返す事は無いはずだ。
何かしらのイベントでも開催されるのかも知れない。

人混みの流れに逆らう事もなく、身を委ねて流される。
すると気付くことがあった。
「この人混み、皆1つの方向へ向かってるみたいね。」
バザールには様々な出店がある為、普段であればそれぞれの店へ人が散らばるのだが、今日はどうやら皆同じ目的を持っているようだ。
人混みが作り出す大きな流れが、1つの地点へ集約されていく。

流れのままにたどり着いたのは、大きな広場であった。
人混みの中心に、ポッカリと穴が空くように円形の広いステージ台が敷かれてあり、そのステージの上に煌びやかな衣装を纏った、恰幅のいい男が立っていた。
男の側に横に長い四方体が置かれているが、カーテンで覆われているので中は見えなかった。

「何かしら、アレ。何かショーでも始まるのかしら。」
ステージの周りをぐるりと取り囲んだ人混みの中、私は呟いた。
すると隣でステージを眺めていた白髪だらけの老人が私の疑問に答えてくれた。
「なんじゃ。あんた、このバザールは初めてか?」
「ええ。ちょっと通りがかっただけなのだけれど、凄い人ね。何のショーが始まるのかしら?」
「ふぁっふぁっふぁっ!ショーか!確かに、最高のショーが始まるぞ。」
老人の含みを孕んだ物言いに、若干の不快感を覚えた。
老人は続ける。
「このバザールの名前を知っとるかの?」
「名前?」
「その様子じゃ、知らずに足を踏み入れたのか。」
「?」
「このバザールはな、」
その時、老人の言葉を遮るように、ステージ上の恰幅のいい男が声を張り上げた。
「皆様ぁ!!大変お待たせしましたぁ!!!」
男が声を上げた途端、ザワついていた人混みがシンと静まった。
だが、落ち着いた様子ではなく、誰も彼も眼が血走っていた。
「…………。」
人混みは静まり返っているというのに、この異様な盛り上がりはなんだろう。
ステージ上の男が続けた。
「これよりぃ!!奴隷の売買を初めまぁす!!!!」
「「「うおおおおおおおおおおおお!!!」」」

「ど、奴隷……!?」
「そうじゃよ。いわゆる、奴隷市場じゃな。」
隣の老人は、ステージ上から目を離さずに告げる。
「ここは通称、奴隷バザール。奴隷の売買の盛んなバザールなんじゃよ。」
「奴隷バザール……!」
老人の目も、周囲の人混みと同じく血走っている。

「奴隷は良いぞ。一家に一人居れば、生活が豊かになる。それに、ここのバザールなら、良質な奴隷を格安で手に入れられる可能性がある。夢のようじゃ!今日こそは、我が家にも奴隷を持ち帰って見せるぞお!」

「……狂ってる。」
素直にそう思えた。
この場に居る全員が、奴隷欲しさに集まった人間だというのか。
「ではではぁ!商品のお披露目でぇす!!」
ステージ上の男の傍にあった横に長い四方体から、カーテンが剥がされる。

カーテンの下から現れたのは、大きな檻であった。
中には人が数十人程押し込められている。
全員、服などとは到底言えないような布切れを身につけており、傷跡だらけで汚れを体中に付けたガタイの良い男や、無傷で綺麗な肌を晒す女の子等、様々な人がそこに居た。
全員の目からは、等しく絶望の色が感じられた。

「っ!酷い!」
「お嬢ちゃん。奴隷を見るのは初めてかのぉ?」
老人はもの珍しいものを見たかのように、こちらに視線を向ける。
しかし、直ぐにステージの方へ視線を戻してしまった。
「本日の商品!一品目でぇす!!まずは1000ゼニーからでぇす!張り切ってどうぞぉ!!」
一人の奴隷が檻から出され、競りにかけられる。
どうやらオークション形式のようだ。
「奴隷一人が1000ゼニーだと!?」
「や、安過ぎる!?大都市だとこの10倍は下らないぞ!?」
「しかも奴隷自体はまだ若い!!こんなもん破格にも程があるぞ!!」
奴隷オークション会場と化した広場に、阿鼻叫喚の声が響き渡る。
「1200ゼニー!!」
「1300!」
「1400!!」
「俺は1700出す!!」

次々と値段が更新されてゆく。
ここに集まっている人達は、人の人生をなんだと思っているのか。

「ワシは3000ゼニーを払う!」
「うわっ」
見れば隣の老人が声を張り上げていた。

「3000ゼニー!3000ゼニーですぅ!他に希望者は居ませんかぁ!?」

ステージ上の男が辺りを見渡すも、誰も声を上げなかった。
「では3000ゼニーで確定ですぅ!お客様ぁ!落札おめでとうございますぅ!!」
「やったああ!!この日のためにコツコツと貯金して良かったじゃあ!!」

隣の老人が異常者のように感じられた。
いや、この老人だけでは無いだろう。
この会場にいる全員が、そこの老人と同じ人種なのだ。

「うぅ……気分が悪くなって来たわ。離れよう……。」
奴隷オークションが熱気を帯びるに連れ、人が少しづつ増えてきていた。
会場に足を運ぶ人達の中をかき分け、人の流れに逆らいながら会場を後にした。
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登場人物紹介

リブレ・レッドライン


17歳

赤いツインテールが特徴的な少女。

身長が低く、容姿も子供っぽいため、見た目だけなら13〜14才程度にしか見えない。

2メートル程もある刀、大太刀「リーヴァメルツ」を所持しており、大切にしている。

ローレル・スイートピー


17歳

緑色の髪の毛を持つ少女。

保身のためなら何でもする。

基本的にクソザコなため、戦闘能力は皆無。

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