第16話

文字数 1,382文字

「飛んで火に入る夏の虫……。」

「ん?なんじゃそれは。」
これは東の国に伝わる言葉だ。
意味は……、
「好都合って事よっ!」

私は電気の老人へ斬り掛かる。
たとえ全身を電気にしようとも、このリーヴァメルツなら斬れるはずだ。
「リーヴァメルツ!!」

2メートル程の刃をしわがれた老人に振り下ろす。
しかし、

「ふむ。」
バチバチッ!
老人は電気体となり後ろへ後退した。
刀は虚空を切り裂くのみで、何の手応えもない。

私は更に老人へ踏み込む。

「うおおぉぉ!!」
2撃、3撃。
続け様に刃を老人に浴びせる。
「ほいっ。よっ。」
4撃、5撃……。

しかし、全て躱される。
見た目は老人だが、その動きは目で追う事すら困難な程、早かった。
電気とは、これ程までに早いものなのか。

攻撃が当たらなければ、絶対の威力を誇るリーヴァメルツと言えども、ただの鉄の塊と同じだ。

「……なんで逃げるだけなのかしら?」
先程から感じていた違和感を口に出す。
「反撃はしてこないのかしら?私、これでも貴方の命を狙ってるんだけど?」
「ふむ、そうじゃな。」

老人は口を開く。

「ワシは魔法使いだけの国を作りたい。」
「……は?突然何かしら?意味が分からないわ。」
予想外過ぎる回答だったため、少し動揺してしまった。

「まあ聞きなさい。魔法使いの少女よ。」
「……。」
どうせこのまま戦い続けても埒が明かない。
老人の話を聞くことにする。

「魔法使いというのはな、崇高な存在なのじゃ。」
「崇高」
「この国の人間を見よ。魔法使いになる為に精進しておる者はよい。彼等は少しでも、ワシら魔法使いに近付こうとする努力家達じゃ。じゃが、」
老人の顔に、声に、怒りが宿り始める。

「他の者共はどうじゃ?我々魔法使いの努力の結晶である魔法を、何の努力もせずに傍受しておる。怠けきっておる。果たして、そのような人間を、魔法使いが助ける義理は何処にある?否!そのような義理など無い!!」
老人は吠えていた。

「魔法使いは魔法使いだけで、国を作る。国民全てが魔法使いを目指し、やがて魔法を使えるようになる。皆、努力をする。素晴らしい国じゃろう?それを、ワシは目指しておるのじゃ。」

やがて老人は穏やかな表情へと戻っていく。
「魔法使いは、殺したくないのじゃよ。ワシは……。」

「へー。」
心底興味が無かった。
魔法使いの国?至極どうでもいい。
私はこの刀で何かしらを斬りたいだけなのだ。

「お前さんは、魔法使いとしてはまだまだ未熟じゃ。じゃが、見所が有る。どうじゃ?ワシと共に国を作らんか?」
「八ッ!」

鼻で笑ってやる。
「馬鹿らしい。貴方の今の話、全部が全部、超どうでもいいわ。私はね、人を斬りたいだけなの。貴方の言う怠けた人間が多い方が、後々悪事を働いて、賞金首なり盗賊なりになってくれる可能性が高い気がするのよね。そうなると、ソイツらを合法的に斬れるわけ。つまり、貴方の思想と私の性分、全く噛み合わないって話ね。」
「人を斬りたいだけ、か。ふむ。」
老人はため息を吐きながら呟く。
「愚かじゃな……。」

自覚はある。
我ながら馬鹿な趣味だ。
だが、一度知ってしまったら辞められない。
あの至福の斬り心地を、もう忘れる事は出来ない。
私は残りの人生全てを、この為だけに費やすであろう。

「ワシの思想を理解出来ぬのなら、仕方がない。ここで殺すとしよう。」
「そう来なくっちゃ。」
改めてリーヴァメルツを構える。

「かかってこいやぁ!!」
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登場人物紹介

リブレ・レッドライン


17歳

赤いツインテールが特徴的な少女。

身長が低く、容姿も子供っぽいため、見た目だけなら13〜14才程度にしか見えない。

2メートル程もある刀、大太刀「リーヴァメルツ」を所持しており、大切にしている。

ローレル・スイートピー


17歳

緑色の髪の毛を持つ少女。

保身のためなら何でもする。

基本的にクソザコなため、戦闘能力は皆無。

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