第9話

文字数 3,145文字

翌朝。
と言っても、奴隷市場軍団のテント内で暴れていた時で既に明け方だったのだ。
昨晩から一睡もしていない。

本来なら眠気に任せて眠りたいところだが、生憎なことにそうは行かなかった。

「眠い……。なんで中央都市への便がラクダ便しかないのよ。」
「辺り一帯が砂漠だからじゃないかな?」
私とローレルは、あの戦いのあと直ぐに朝出発の中央都市行きラクダ便に乗り込んだ。

「っていうか、なんであんたも中央都市に行こうとしてるのよ。奴隷市場軍団の稼ぎを全部拝借したんでしょ?そのゼニーを使って奴隷バザールで再起すればいいじゃない。」
私とローレルはそれぞれのラクダにのり、隣り合わせで進んでいる。
「いいのよあんなとこ。私は奴隷商人だったのよ?奴隷の扱い方だけしか知らないんじゃ、どんな商売を始めたって上手くいきっこないわよ。」
「ふーん。そういうもんなのね……。」
「ところでリブ?私達、友達よね?」
「いや違うでしょ。」
「え!?なんで??私の事助けてくれたじゃない!?」
「あんたを助けたのはほんの気まぐれよ。馴れ馴れしくしないでくれないかしら?」
「全く、これだから子供は扱いづらくて困るのよ。」
「殺すわよ?」
「貴方が言うと冗談に聞こえないわね。ごめんなさい。」

この女は全く信用ならない。それは昨晩でよく学んだつもりだ。
でもしかし…………友達、か。
「で、何かしら?友達の私に何か聞きたいことでも?」
「貴方のそのチョロさはある意味芸術ね。」
「何か言った??」
「え?いやいや。何もー。」
この女、マジでぶった斬ってやろうか。

「質問に答えてほしいの。昨日色々と、疑問に思った事があったから。」
「まあ、そのくらいなら別にいいけど。」
「じゃあまず、その刀。大太刀だっけ?それ、何なの?昨日は魔法道具とかって言ってた気がするけど。」
「文字通り、魔法が宿った道具よ。この刀の場合、溶解の魔法が宿ってるの。」
「溶解の魔法?」
「そ。このリーヴァメルツはね、なんでも切れるの。それは斬れ味が凄いってのもあるんだけれど、この溶解の魔法のおかげでもあるの。リーヴァメルツに触れたモノは、なんでも溶けちゃうのよ。」
「なんでも切れる……だから地下倉庫の鋼鉄製の扉がいとも簡単に斬れたのね。」
「そういうこと。」
「じゃあ、貴方を監禁していたあの牢屋。あれはどうやって脱出したの?たしかあそこから、地下倉庫まで私を付けてきたって言ってたわよね?」
「ああ、あれね。さっき、私のリーヴァメルツは触れたモノをなんでも溶かすって言ったわよね?」
「うん。」
「あれ、持ち主である私も例外じゃないのよね。」
「えっ?」
「あの奴隷の親玉ハゲと戦ってる時にも言ったけど、私、溶けることが出来るのよ。まあ、細かい事を言うと、私はもう既に溶けきっちゃってるのよね。それを魔法を使って、私の形に保ってるの。つまり、私が魔法を解いた瞬間、私は液体になっちゃうのよ。」
「ま、魔法って確か、この世界でも限られた人しか使えない、超高等技術じゃないの!?専門の学校とかにいって、数年勉強して、ようやく使えるようになれるっていうあの!?そんなのまで使えるの貴方??」
「ええ。何せ身体が溶けちゃうんだもん。必死で勉強したわよ。」
「す、凄い……。」
「話の途中だったわね。牢屋の脱出方法に戻るけど、まず、調教師が牢屋を開けるわよね。その瞬間に私は調教師の顔に飛び込んだのよ。身体を溶かしながら。」
「え??」
「調教師の顔面に液体状となった私が飛びついて、鼻と口を塞いだの。で、身体の一部を元に戻したりしながら調教師が溺死するまで待つ。彼が死んでから、あの地下を散策してみたのだけれど、広すぎて途中で断念したのよね。だからあの牢屋で待つことにしたの。」
「待つって誰を?」
「あんたをよ。牢屋に私がいなければ、私が刀を探しに行ったと推測して、倉庫まで向かってくれると予測して。で、その予測は大当たりだったわけ。」
「ま、待って!貴方はあの牢屋の何処にも居なかったじゃない!何処にも隠れるところなんか……」
「隠れるところならあったじゃない。」
「え?ど、どこにそんな……」
「調教師の死体の中よ。」
「……え???」
「死体の中と、あと服の中とかかしらね。ビッシリの潜り込めば、まあ隠れられるわ。もっとも、あの時貴方に調教師の死体を探られてたら終わってたんだけどね。」
もしもあの時、ローレルが調教師の身体に触れて、死体を確認しようとしたならば、私はローレルを殺していただろう。
「う、うぇぇ。考えただけで気持ち悪い……死体の中って。」
「他に方法がなかったのよ。それに、案外心地よかったわよ?温かくて。」
「おえぇ。つ、次の質問行きましょ……。」
元はと言えば誰のせいであんな事になってると思っているのか。コイツは。
「えっと、じゃあ最後の質問。あのスキンヘッド野郎にトドメを刺した時、貴方、瞬間移動したわよね?あれは何かしら?」
「瞬間移動はしてないんだけどね。あれは、私の特性を利用した、言ってみれば奥の手ね。踏み込んで相手の懐に入る時、一瞬脱力させてるのよ。体全体を溶かして。それによって発生した重力を利用して、一気に踏み込むの。すると、一瞬で距離が詰めれるのよ。これ、私の身体を維持する魔法を上手く調節しながら使わないといけないから、超疲れるのよね。だから、ほんとに奥の手って感じなのよ。」
「ちょっと凄すぎて何言ってるか分からない。」
「もう一度は説明しないからね。」

「あ、そういえば。質問を追加。リブってもしかして、人を斬るのが大好きなの?」
「え?い、いいやいや、そ、そんな訳ないじゃない!」
「あ、図星なのねやっぱり……。」
「い、いや、そんな世間体最悪な事が好きなわけないじゃない。」
「でも貴方、奴隷市場軍団と戦ってる時、滅茶苦茶楽しそうだったわよ?」
「き、気の所為よ。」
「でも貴方、奴隷の親玉ハゲを斬った時、「やっぱり、人を斬るのって最高だわぁ。」って、頬を染めながら言ってたわよ?」
「…………ツ、が。」
「ん?」
「リーヴァメルツが!!」
「リーヴァメルツが?」
「あまりにも斬れ味が良すぎるから!!我慢出来ないのよ!!なんでもいいから斬りたくなっちゃうのよ!出来れば生き物!!最高なのはやっぱり人間!!人間を斬ってる時が一番を性を実感出来るの!!」
「さ、流石にドン引きするわ。その趣味は。」

仕方ないじゃない!
あの滑らか過ぎる斬れ味を知っちゃったら、もう他の事なんで全部どうでも良くなっちゃうのよ。

「なら貴方こそ、奴隷を買えばいいんじゃないの?お金は掛かるけど、人を斬れるわよ?」
「使い捨てで買うには高過ぎるのよ奴隷は。」
「ふーん。あ、そういえば。初めて会った時、奴隷売買の事を毛嫌いしていたみたいだけど、なんでなの?見たところ、貴方は別に人の命の重さとか、そういうことを言う人間じゃないわよね?」
「失礼ね!全く。奴隷って言うのはね、買われちゃったら飼い主の物、つまり財産じゃない?」
「そうね。」
「人の物を勝手に斬ったらダメでしょ。」
「…………。」
「…………。」
「ぷっ!!ふふふっ!あはははは!!」
「な、何よ!当たり前の事しか言ってないでしょ!」
「いや、貴方みたいなサイコパスがそんな全うな事言うとかあははは!!おかしいいぃ!!!あはははは!!」
「ぶっ殺すわよ!?」
「あはは!ごめんごめんっ!私達友達よね?あははは!」
「友達って言っとけなんとでもなるって思ってない??」
全く。
こんな奴と中央都市まで一緒とか、嫌気がしてきた。
しかし友達。
友達……か。
「ふふ。」

色々ありはしたが、やはり、悪い気はしないのだった。

「ところで、中央都市まであとどのくらいかかるんですか?」
「2日くらい」
「ええ!?マジなのそれ!?」

賑やかな旅になりそうだ。
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登場人物紹介

リブレ・レッドライン


17歳

赤いツインテールが特徴的な少女。

身長が低く、容姿も子供っぽいため、見た目だけなら13〜14才程度にしか見えない。

2メートル程もある刀、大太刀「リーヴァメルツ」を所持しており、大切にしている。

ローレル・スイートピー


17歳

緑色の髪の毛を持つ少女。

保身のためなら何でもする。

基本的にクソザコなため、戦闘能力は皆無。

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