第46話 名誉挽回
文字数 1,457文字
夜が明けて、証文を手に入れた長八は、八丁堀の組屋敷を訪ねた。
その時、賢三郎の屋敷では親戚宅に行っていた
女房のノブが帰って来ており、賑やかな声が、屋敷の外まで聞こえた。
何度、声を掛けても、誰も出て来ないため、
長八は思い切って、屋敷の中に上がり込んだ。
部屋を仕切っている簾をはぐると、
賢三郎、太兵衛そして、忠蔵が、身支度を整えているところだった。
「あさっぱらから、何用だ? 」
忠蔵が、長八に気づくと聞いた。
「遂に、まいないの証となる証文を手に入れました」
長八が意気揚揚と告げた。
「聞いたか? 長八が、まいないの証となる証文を持って来たぞ」
賢三郎が興奮して言った。
「いかにして、それを手に入れたのだ? 」
太兵衛が疑る様な眼つきで、長八を見た。
「宝来屋の御隠居の妾に頼んで頂戴しました」
長八が若干、真実を捻じ曲げて報告した。
「妾とは、おかめの事か?
よく、おかめが、御隠居を陥れる事になる証文を渡したな」
太兵衛が感心した様に言った。
「御隠居の妾って、安治兄貴を陥れたあの女子だろ?
御隠居に身請けしてもらったというのに、
平気で、裏切るとは、女子は怖いねえ」
忠蔵が肩をすぼめた。
「これで、作事奉行と材木問屋の悪事を明らかにする証と
御鷹の死因を示す証が揃ったわけだ。あとは、誰に、上訴するかですね」
太兵衛が、賢三郎に言った。
「上訴する相手は、慎重に、選ばなければなるまい。
老中の間には、派閥があると聞く。
ここは、中立な立場の人間にするべきところだ」
賢三郎が腕を組んで思案した。
「左様に御座います。三年前、手前が、上役より命ぜられた任務は、
作事奉行と材木商の悪巧みを暴き、確固たる不正の証を得る事でした。
ここは、元上役を訪ね、上訴について相談をしようと考えています。
元上役の徒組頭の押田様は、誠実で真面目なお方故、信用出来ます。
押田様ならば、政に明るく、老中の方々の人柄をわかっておられる。
味方にしておくべきお方です」
長八の目には、闘志がみなぎっていた。
「元々、作事奉行と商人の悪巧みを暴き、
確固たるまいないの証を得ようとしていたわけさ。
必ずや、味方になって下さるだろ」
賢三郎が太鼓判を押した。
「とにかく、やれるだけの事はやろうではないか。
長八、おまえが、正しいと思った通りにやってみな」
忠蔵が、長八を後押しした。
「はい」
長八が張り切って出て行った。
「暗いだけの男かと思ったが、
なかなか、しっかりしておるではないか」
賢三郎が今回の事で、長八の見る目が変わった。
翌日。長八は、徒組頭の押田正宣の屋敷を訪れた。
押田は、登城前の身支度をしているところであった。
「久方ぶりじゃのう。越後から戻ったのか? 」
押田は突然、押しかけたにも関わらず、長八を温かく迎えた。
長八は、押田の態度に面食らった。
「あの、押田様。御迷惑をおかけして、申し訳御座いませんでした」
長八は、客間に入るなりその場に平伏した。
「おぬしから、謝られる事は何もない。
戻ったならば、明日からでも、復帰致せ」
押田が穏やかに告げた。
「拙者が、三年前、調べていた件ですが、上訴したいと考えております」
長八が緊張した面持ちで告げた。
「左様か。これをおぬしに渡す時が来た様じゃ」
押田は、戸棚から書状を取り出すと、長八に差し出した。
「押田様。これは、何で御座いますか? 」
長八が驚いた顔で聞いた。
「嘆願書じゃ。おぬしが、上訴に踏み切る事を踏まえて同志を募ったのじゃ」
押田が穏やかに告げた。
「有り難き幸せに御座います」
長八が再び平伏した。
その時、賢三郎の屋敷では親戚宅に行っていた
女房のノブが帰って来ており、賑やかな声が、屋敷の外まで聞こえた。
何度、声を掛けても、誰も出て来ないため、
長八は思い切って、屋敷の中に上がり込んだ。
部屋を仕切っている簾をはぐると、
賢三郎、太兵衛そして、忠蔵が、身支度を整えているところだった。
「あさっぱらから、何用だ? 」
忠蔵が、長八に気づくと聞いた。
「遂に、まいないの証となる証文を手に入れました」
長八が意気揚揚と告げた。
「聞いたか? 長八が、まいないの証となる証文を持って来たぞ」
賢三郎が興奮して言った。
「いかにして、それを手に入れたのだ? 」
太兵衛が疑る様な眼つきで、長八を見た。
「宝来屋の御隠居の妾に頼んで頂戴しました」
長八が若干、真実を捻じ曲げて報告した。
「妾とは、おかめの事か?
よく、おかめが、御隠居を陥れる事になる証文を渡したな」
太兵衛が感心した様に言った。
「御隠居の妾って、安治兄貴を陥れたあの女子だろ?
御隠居に身請けしてもらったというのに、
平気で、裏切るとは、女子は怖いねえ」
忠蔵が肩をすぼめた。
「これで、作事奉行と材木問屋の悪事を明らかにする証と
御鷹の死因を示す証が揃ったわけだ。あとは、誰に、上訴するかですね」
太兵衛が、賢三郎に言った。
「上訴する相手は、慎重に、選ばなければなるまい。
老中の間には、派閥があると聞く。
ここは、中立な立場の人間にするべきところだ」
賢三郎が腕を組んで思案した。
「左様に御座います。三年前、手前が、上役より命ぜられた任務は、
作事奉行と材木商の悪巧みを暴き、確固たる不正の証を得る事でした。
ここは、元上役を訪ね、上訴について相談をしようと考えています。
元上役の徒組頭の押田様は、誠実で真面目なお方故、信用出来ます。
押田様ならば、政に明るく、老中の方々の人柄をわかっておられる。
味方にしておくべきお方です」
長八の目には、闘志がみなぎっていた。
「元々、作事奉行と商人の悪巧みを暴き、
確固たるまいないの証を得ようとしていたわけさ。
必ずや、味方になって下さるだろ」
賢三郎が太鼓判を押した。
「とにかく、やれるだけの事はやろうではないか。
長八、おまえが、正しいと思った通りにやってみな」
忠蔵が、長八を後押しした。
「はい」
長八が張り切って出て行った。
「暗いだけの男かと思ったが、
なかなか、しっかりしておるではないか」
賢三郎が今回の事で、長八の見る目が変わった。
翌日。長八は、徒組頭の押田正宣の屋敷を訪れた。
押田は、登城前の身支度をしているところであった。
「久方ぶりじゃのう。越後から戻ったのか? 」
押田は突然、押しかけたにも関わらず、長八を温かく迎えた。
長八は、押田の態度に面食らった。
「あの、押田様。御迷惑をおかけして、申し訳御座いませんでした」
長八は、客間に入るなりその場に平伏した。
「おぬしから、謝られる事は何もない。
戻ったならば、明日からでも、復帰致せ」
押田が穏やかに告げた。
「拙者が、三年前、調べていた件ですが、上訴したいと考えております」
長八が緊張した面持ちで告げた。
「左様か。これをおぬしに渡す時が来た様じゃ」
押田は、戸棚から書状を取り出すと、長八に差し出した。
「押田様。これは、何で御座いますか? 」
長八が驚いた顔で聞いた。
「嘆願書じゃ。おぬしが、上訴に踏み切る事を踏まえて同志を募ったのじゃ」
押田が穏やかに告げた。
「有り難き幸せに御座います」
長八が再び平伏した。
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