第3話 老騎士の鍋料理

文字数 585文字

「おお、こちらにいらっしゃったか」
 老騎士が駆け寄って来る。
「敵は?」
「わしを誰だとお思いですか」
「そうだったな。君程の騎士が負けるなんてそうそうあることではない」
 老いて尚第一線で活躍する老騎士。料理の腕も一流で頼りになる騎士だ。
「おお、そうだ。落ち着いたらこの子らにご馳走してくれまいか?」
「お任せあれ」
 
 その晩は野営を張り、お互い自己紹介をしていった。
「わしはバルジじゃ、宜しくのう」
 老騎士は年少にも関わらず律儀に礼をする。敵わないな。いつもこの側近には感謝しかない。
猪を狩ってきて猪鍋にし始めた。老騎士の血抜きの具合を見て見事としか言い様がない。
 生姜と塩で味付けした鍋はさぞかし少年少女を満足させただろう。
「騎士王様は食べないのですか?」
 少女は律儀に尋ねた。
「ああ、聖杯を手にした者にとって殺生はあまり良くないのだ。普段は種を取った果物などで食事を済ませている」
「お陰で王都は果樹園の都なんて代名詞が付く位です」
 若い騎士が付け加える。
 皆クスクスと笑い始めた。殺伐した状況下の中で笑えるとは強い子供達だ。親を失い、悲しみに明け暮れていてもおかしくないというのに。
 少女の太陽を思わせる髪色に母親の面影を思い出せる。月を意味する名を冠してこの髪色とは彼女はどんな思いで名付けたのだろう。
 対する少年は銀の髪をしている。どこかもの哀しげな色合いだ。
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