第28話 エブリ視点・暗黒面の誘惑
文字数 1,033文字
「お主の考えていることは読めるぞ。パルジファルは不死ではない。特定の異性を愛したことで恩恵が崩れつつあるわ。ルナ・アースはその跡継ぎ。お主は体よくパルジファルに利用されただけの傑物よ」
「嘘だ! 父さんがそんな邪なことを考えるものか! 俺を愛してくれた!」
「ほう、では、なぜ旅の許可を出した? パルジファル程の男がお主の心に気付かぬ程野暮であるとなぜ言える?」
「それは……」
父は確かに色恋沙汰に疎いが、本当は気付いていたのかも知れない。
「お主は闇の血族じゃ。いかにルナに想いを寄せようとも叶わん願いよ。パルジファルもそのことに気付いておった。じゃからお主達を引き離した。じゃが」
老人は一拍置いて囁く。
「もし、ルナ・アースを手にする手段があると言えばお主はどう反応するかのう?」
「何?」
「闇の力を極めよ。そうすれば愛する者を死からも救う力も手に入る」
「ルナには聖杯があるだろう……」
「さて、果たして不義の子供を聖杯が認める保証なぞありもせん。神の力を侮らぬことじゃ。命なぞ平然と奪う、それが神じゃからのう」
「その手の話はよくある邪推の類だ……」
「じゃが、事実でもある。神はレイア・アースを生かさず、わしに殺させた。神の御心は読めぬ。であれば、ルナ・アースが安全だという保証はどこにある?」
「それは……」
「のう、余はこれでも寛大な王じゃ。強者には一定の敬意を払う。お主を弟子にしたいのは単なる情ではない。お主は余をも超えられる賜物を秘めておる。暗黒面には死を克服する力もある。お主が暗黒面を極めればルナ・アースを死の運命から外し、若さを保つことも夢ではない」
「ルナはきっとそんなことを望んでなんかいない」
「強情じゃな。母譲りか」
自分の母? この男に見初められた女性はどんな人物だったのか?
だが、それより死の運命が気にかかっていた。
ルナはいずれ死ぬ。
いつか訪れる定めとしてもルナには生きていて欲しい。仮に聖杯がルナを認めなかったとしても。
「剣を収めよ、お主に勝ち筋はない。余の寝首をかきたいならいつでも出来る。今は余を利用せよ」
「お前に屈する訳じゃないからな」
剣を収めたが、心は既に崩れかかっているのを自覚出来た。
自分は闇の眷属。だが、もし闇の力でルナの死を回避出来るなら。
「お主に新しい名をやろう。ヴォイド」
虚無という意味か。今のあやふやな自分に相応しい名かも知れない。
腑抜けた自分を連れて行く老人はかすかにだが不敵な嗤いがささやかにかもしだしていた。
「嘘だ! 父さんがそんな邪なことを考えるものか! 俺を愛してくれた!」
「ほう、では、なぜ旅の許可を出した? パルジファル程の男がお主の心に気付かぬ程野暮であるとなぜ言える?」
「それは……」
父は確かに色恋沙汰に疎いが、本当は気付いていたのかも知れない。
「お主は闇の血族じゃ。いかにルナに想いを寄せようとも叶わん願いよ。パルジファルもそのことに気付いておった。じゃからお主達を引き離した。じゃが」
老人は一拍置いて囁く。
「もし、ルナ・アースを手にする手段があると言えばお主はどう反応するかのう?」
「何?」
「闇の力を極めよ。そうすれば愛する者を死からも救う力も手に入る」
「ルナには聖杯があるだろう……」
「さて、果たして不義の子供を聖杯が認める保証なぞありもせん。神の力を侮らぬことじゃ。命なぞ平然と奪う、それが神じゃからのう」
「その手の話はよくある邪推の類だ……」
「じゃが、事実でもある。神はレイア・アースを生かさず、わしに殺させた。神の御心は読めぬ。であれば、ルナ・アースが安全だという保証はどこにある?」
「それは……」
「のう、余はこれでも寛大な王じゃ。強者には一定の敬意を払う。お主を弟子にしたいのは単なる情ではない。お主は余をも超えられる賜物を秘めておる。暗黒面には死を克服する力もある。お主が暗黒面を極めればルナ・アースを死の運命から外し、若さを保つことも夢ではない」
「ルナはきっとそんなことを望んでなんかいない」
「強情じゃな。母譲りか」
自分の母? この男に見初められた女性はどんな人物だったのか?
だが、それより死の運命が気にかかっていた。
ルナはいずれ死ぬ。
いつか訪れる定めとしてもルナには生きていて欲しい。仮に聖杯がルナを認めなかったとしても。
「剣を収めよ、お主に勝ち筋はない。余の寝首をかきたいならいつでも出来る。今は余を利用せよ」
「お前に屈する訳じゃないからな」
剣を収めたが、心は既に崩れかかっているのを自覚出来た。
自分は闇の眷属。だが、もし闇の力でルナの死を回避出来るなら。
「お主に新しい名をやろう。ヴォイド」
虚無という意味か。今のあやふやな自分に相応しい名かも知れない。
腑抜けた自分を連れて行く老人はかすかにだが不敵な嗤いがささやかにかもしだしていた。