第4話 腕試し

文字数 858文字

「へえ、剣かあ。見せてくれよお」
「駄目駄目。これは子供が扱って良いものじゃないんだ」
 若い騎士が注意するが、少年は一向に引き下がらない。
「でも、旅の人に剣術の習いを受けたよ。何て言ったかな。流水の型とか言ってた気がする」
「ほう、そこまで言うなら、わしが相手になろう。短剣で良いかのう。普通の剣は重すぎじゃろう」
 老騎士は短剣を手渡し、お互いに構えを取った。その構えを見て自分と老騎士は顔色を変えた。
 この子供、只者ではない。歩法、呼吸法、構え、どれをとっても一流の領域だった。雰囲気が変わったというべきか。先ほどとは全く違う人物にも見えた。
 流れる様な動きで少年は動く。演武に近い動きだった。曲線を描いて繰り出される軽快な動きに老騎士は様子見で防御に徹する。剣は触れ合ったと思えば、次に最小限の弧を描いて次の攻撃に移る少年に隙はなかった。
「ほう、やるのう」
 されど、老騎士。騎士団の中で最上位に位置する剣の使い手は何ら動揺すらない。流水の型なら同じく流水の型で対抗し始めた。無駄のなさは老騎士の方が未だ上をいく。徐々に少年は追い詰められていった。れっきとした力の差も出始めた。
 相手は未だ子供だ。非力なのは変わらない。それでもここまで打ち合えるとは素晴らしい。
「エブリ、あなたの負けよ。素直に認めなさい」
 少女は少年をたしなめた。
「ちえー、いい線行っていたんだけどなあ。じいさん、すげえなあ」
「甘く見んことじゃな。外見はおいぼれでも技術さえあればいかようにも出来るんじゃよ。じゃが、お主の型は綺麗じゃったわい。師の名前は何と言うんじゃ?」
「うーん、旅の人でさ。名前訊いてねえ。ただ、すげえ可愛い女の子だった。絹の様な白髪が思い出に残ってさ」
「そうかそうか、世は広いのう。それ程の凄腕が名を轟かせずにひっそりとしておるのだから」
 絹の様な白髪か。聞き覚えがない。これ程の腕前まで上達させられるなら王都にも名は届いていそうだが。
 いや、しかし、もったいない。これ程の腕前なら騎士団で活躍出来そうだ。

 そこで天啓が閃いた。
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