第5話 不安な憶測

文字数 890文字

「なあ、エブリ、ルナ。私の養子にならないか? 君達は才能がある。騎士団の次代の担い手として育てたいんだ」
「えっ、おっさんが俺らの親になってくれんのか?」
「コラ! エブリ! 騎士王様に何て口の効き方なの!」
 ルナは上品に礼をする。母親の教育の賜物だろうな。しつけが行き届いている。対するエブリは強気な少年だ。
 だが、それで良い。男児たる者、時として強くあれだ。この少年は見込みがかなりある。若かりし頃の自分をどことなく思い出させる無垢な少年だ。それに自分程愚かでもない気もする。
 
 この少年ならもしかして聖杯に認められるかも知れない。

「でもなー、おっさんは本当に強いの? 何かじいさんの方が強そうなんだけど」
「言うなあ。いいだろう。かかって来なさい」
「それじゃ、遠慮なく!」
 奇襲に近い攻撃だった。
「あれ?」
 少年は突如違和感に気付いた様子だ。
「剣が……」
「剣ならここにあるよ」
 大道芸よろしく柄を指先でクルクル回しながら少年は気が抜けた様に見ていた。
「え」
「うん? どうしたんだい?」
 事態を悟った後、少年は叫んだ。
「すげえええー!」
「コラコラ、そんな大声を出すものでないよ。騎士を目指す者が叫ぶのは敵と戦う時だけだよ」
「どうやって取ったんだ? こんなの旅の人以来だ」
「ほう」
 旅の者も同じ芸当をやってのけたらしい。大した人物だ。出来れば会って見たかった。
 だが、彼女なら旅の者の実力に気付いて王都に一報くれそうなものだったが。
 そうできない理由があった? たとえば、教皇庁の修道騎士の中でも位の非常に高い者だったとか。教皇庁は人材が豊富だ。それだけの剣士を抱えてもおかしくない位には。
 少年は無邪気にはしゃいでいるが、自身の技量に自覚があるのだろうか?
 この子の腕前は相当なものだ。だとすれば師事した人物も相応の人物の筈だ。
 ふと思案に落ちる。

 旅の者が教会にとって重要な人物であったすれば、この村が襲われたのも偶然ではない?

 彼女目的ではなかったのか? 魔物ならば、彼女の脅威を眼にして血筋の者を生かしておく道理はない。ルナが生き残ったのは偶然にしては出来過ぎている気がした。
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