9 妹の結婚式
文字数 3,123文字
どんよりとした空が、メロスの心情を表しているかのようだった。
今にも落ちてきそうな雲。雨は降りそうだがまだ降っていない。
間もなく、結婚式が始まる。
ゼウスとヘラを讃える祭壇の前に、メロスの愛しい妹と憎きアレクサンドロスと神官がいた。
そこから少し離れて身内がいたが、ほとんどアレクサンドロスの親戚だった。
フレイアの家族はメロスしかいない。
メロスは目立たない部屋の隅にいた。
自分の持ってきた服を着て、ベールを頭からかぶった妹を見て、
甘えてもいたのだが、疲れていたので眠かった。
彼らはディオニスに気づき、絶対にそちらを見てはいけないと感じ、そっと目をそらした。
けれど、首を振る。
しかし、メロスはそれに逆行しなければならない。
メロスもそのままディオニスの腕の中で眠ってしまいたかった。
優しく抱きしめ、メロスに微笑む。
自分で立たなくても良い楽さに、メロスはディオニスに体を任せる。
ディオニスはそっと口づけする。
メロスはクスっと笑う。
しかし、哀しそうにうつむいた。
どこまで冗談か、メロスにはわからなかった。
その言葉は言わなかったが、メロスは嬉しそうにディオニスの胸に顔をすり寄せる。
そう簡単には離さないかのように、とても強い力が込められていた。
メロスは嬉しくて、ディオニスの服をそっと握った。
◇◇◇
誰が来ていようと、メロスは不満を持っただろうが。
ベールをまとい、顔は見えにくいが、それでも長いこと一緒に暮らしていた妹が、憎きアレクサンドロスの隣で嬉しそうにしているのはわかる。
もはや、うれしいのか悔しいのか、両方なのかわからない。
そして、妹は愛らしいのだが、村長が頼んでくれた司祭の言葉が長すぎて、メロスは立っているのがやっとだった。強烈な眠気が襲ってきて、隣にいたディオニスに寄りかかる。
閉じられた目は開かなかった。
◇◇◇
メロスの記憶に残っているのは新郎新婦が神々への宣誓をしていたところだ。
メロスがショックに打ちのめされていると、その気持ちに同調したかのように雷が鳴る。
はじめは大粒の雨がぽつぽつ程度だったが、すぐにバケツをひっくり返したかのような大雨になった。
自分の妹であることに変わりはないのだが、あのアレクサンドロスの妻になってしまった可愛い妹を見て、なんともいえない喪失感を味わっていた。
天からの大量の雨は、そんなメロスの気持ちにぴったりだった。
メロスの気持ちを表すかのように、土砂降りの雨が降っていた。