8 フィロストラトス
文字数 2,613文字
道なりに行けば着いてしまう。
今度こそシラクスのまちまで迷いようがない。
けれど油断はできない。
これまでもメロスはディオニスの想像の斜め上を行っていた。
ディオニスは深いため息をつく。
そして、何気なくメロスがいた場所を見つめる。
そこには、例の神秘の泉の水が入った水筒が落ちている。
ディオニスは物事をシンプルに進めたかった。
内に怒りを秘めながらも水筒を拾う。
メロスが口をつけていた物を、この場に置いて行くわけがない。
わずかだが清水が肌に触れた。
すると、少しだけ怒りが収まる。
というか、メロスコレクションが増えたので、無表情だったが喜んでいた。
とメロスが言っていたことを思い出す。
そして、ディオニスは水筒のふたを開けてひとくち飲む。
ひたすら走っていたせいか、体内に水がすーっと吸収される感じがした。
たしかに疲れがなくなるかもしれない。
そして、暗い気分だったのに、光が見えてくるような気がした。
けれど、耳が痛い言葉だった。
気づいてはいたが、見て見ぬふりをしていた。
楽しみもなく、冷めた目で生活する市民のことを。
◇◇◇
小川を飛び越え、少しずつ沈んでいく太陽を横目に走った。
太陽と競争しなければならなかったので、しかたがないのか?
太陽はみるみる沈んでいく。
走りながらメロスは思った。
さすがに空が茜色になっていたので、そんな時間はなさそうだ。
そして、ようやくシラクスの
夕陽を受けて、キラキラと光っている。
けれど、そこであることに気が付いた。
これまでも刑の執行は行われていたが、興味がなかったのでメロスは行ったことがなかった。
途方に暮れながらゆるゆると走っていると、見覚えのある人影が目に入る。
セリヌンティウスの弟子のフィロストラトス。
どことなくメロスに近い雰囲気の少年だった。
彼は諸悪の根源メロスがシラクスのまちに現れるのを待っていた。
それを知らないメロスは、これ
フィロストラトスはものすごく不機嫌な顔で淡々と言う。
セリヌンティウスを敬愛しているため、普段からメロスへの当たりがキツい。
いちおう、焦ってはいる。
メロスはどうでもいいことは耳に入らない。
そんなところもフィロストラトスがメロスを嫌う理由だった。
けれど、たしかに夕陽は地平線の上で、まだ沈んでいなかった。
メロスもフィロストラトスのことをあまり好きではない。
なんだかんだとメロスにつっかかってくるのでムカついている。
フィロストラトスは早く行けとばかりに指し示す。
メロスなんぞに教えたくもないが、セリヌンティウスの命がかかっているので、嫌々ながらも口を利くという感じだった。
フィロストラトスはその様子を見て
そんなことを思っていた。
そして、彼もメロスの走る速さを見て追うのは断念した。
フィロストラトスはメロスを見送り「やれやれ」と伸びをする。