12 ひつじ小屋

文字数 2,196文字

すぅ……
祝宴をしているメロスの家で、人の気配がなかったのが羊小屋だった。
……
ディオニスはメロスを抱え、中に入ると羊がいた。
めえええええ
……

さほど多くはないが、メロスと妹が二人で暮らす分には十分だった。

メロスは壁際に座らされ、寝ぼけながらもうっすらと目を開けた。

(祝宴は? また寝てたのかな? せっかくディオがフレイアの結婚式に出れるようにしてくれたのに……)

宴の騒がしい声が遠くに聞こえた。
(起きないと……)
そう思いつつも、目が閉じていく。
ぶええええええ
羊の鳴き声が大きく聞こえた。
なんで羊?
ハッとして目を開けた。
べ~
元の飼い主が来たことがわかったのか、羊たちがメロスの周囲に寄ってくる。
わ~い。

ボクのかわいい羊たち……

小さい頃から一緒に走り回っていた羊だった。

新しい羊もいたが、どことなく馴染(なじみ)のある顔をしている。

べ~
元々の飼い主が現れたのを喜んでいるかのように鳴いた。

メロスは遊んでいただけだったが、羊たちはそれでもよかったようだ。


メロスは動物にも愛される。

へへへっ
ふわ~っと幸せな気持ちになり、寝ぼけながら羊のところに向かおうとするが、壁に押し付けられてキスされた。
んっ!
寝ぼけていたが、目を覚ます。
起きたか?
ディオ!
なんだ?
なんだじゃなくて……
言いたいことがあるなら……
そう言いながら襲い掛かってくる。
ちょっ……
声を出そうとしても、ふさがれる。
ふ……
鼻で笑って襲ってくる。
ん~

逃れようともがくが、地面の上に横たわっただけだった。

はぁ……
息をつき、逃げようとしたがその間もなく、ディオニスは覆いかぶさってくる。

ディオ、お願い……、マジでやめて……。

ホントにもう限界……

息も絶え絶えに言う。
ディオ!
必死に叫ぶと、
騒ぐな。

ここにいる奴らに、気づかれるぞ。

何を怒っているのか目が据わっていた。

メロスはディオニスが村長と話していた内容を知らない。

え……

メロスはかつてのことを思い出し、ビクっとした。

その顔を見て、ディオニスも少し頭が冷える。

やりたくないのなら、やめるが……?
そう言いながら、少し優し目なキスをした。
……ん
メロスは拒否をするわけでもなく、ディオニスのキトンの下の肌に触れる。
いいのか……?
……
メロスはうなずき、ディオニスに抱きついた。
ふ……

ディオニスはそれで元気が出たようで、メロスは明け方までいたぶられ続けた。




      ◇◇◇




夜が明けた頃、ディオニスはメロスから離れた。
………………………
メロスは疲れ切っていた。

「やめるか」と聞かれた時に、うんと言えなかった自分が悲しかった。

(うなずくだけでよかったはずなのに……)
しかし、それはしなかった。
(だって、ディオのこと、大好きだし)
他のことはけっこうどうでもいい。
………………

ディオニスは満足したようではなく、どこか切ない表情でメロスを見ていた。

……
それを見て、メロスはディオニスに手を伸ばし、そっと寄り添い、目を閉じる。
……
まだし足りないのか?
その仕草の愛らしさに、たまらずメロスを抱き寄せる。
…………そんなつもりない。
慌ててそう言った。
では、どんなつもりだ?
笑顔だったが、地味に怖い。

暴君は伊達ではない。

このまま……

一緒にいたいなって思っただけだよ。

……
ディオニスはまたやろうとしていた手を止めた。
何か、

心配事でもあるの?

……なぜ

そう思う?

ボクは……

ディオが大好きだよ。

……
何をされてもいい。

まだやるって言うんなら、いいよ……。きついけど、付き合う……

そう言いつつも、げっそりはしていた。
おまえは

したくないのか?

……眠い。

寝させて。

ホントは目を開けているのも辛かった。
ディオのせいで

寝てないんだよ。

それだけは強めに言った。
しない方が、よかったのか?
少し元気なくディオニスが言う。
ディオとするの

嫌いじゃない。

ニコっとして言い、ディオニスの頬に軽くキスをする。
そうか……
ほっとしたようにディオニスは言い、メロスを抱きしめた。
ディオは、

嫌じゃないの?

ディオニスの腕の中でメロスは聞いた。
どうしたんだ?
ディオは、ボクとするの……

嫌じゃない?

愚問だ。
そして、またメロスとやろうとする。
もう嫌。

やめて……

嫌ではないのであろう?
ディオのことは大好き。

他に好きな人もいないよ。

ならば

よいではないか。

ディオと一緒にいられて、いっぱいHできて、嬉しいよ。

でも、ちょっと休ませて……。起きたら、またいくらでも……

そう言いながら、ディオニスの胸元で寝てしまう。

おい、起きろ……
優しくメロスを揺り起こす。
すぅ……
寝顔のあまりの愛らしさに、ディオニスも起こすのをためらう。
(まあよい。ここまでやれば、今日は起きれんだろう。日没まで待てば、セリヌンティウスが死に、メロスが生きる)

村長が言っていたことは引っかかる。

けれど、ディオニスにとって、セリヌンティウスは目障りな存在だった。

……ディオ。
恋人が寝言で自分の名前を呼んだ。
ふんっ
ディオニスはほくそ笑み、愛しい者を抱きしめ、藁に埋もれて眠ろうとしていた。







村長はいるか……!
しばらくして、遠くからそんな声が聞こえてきた。
……む?
家の中がザワザワしてきて、ディオニスは起き上がった。
すぅ……
愛しいメロスは安らかな寝顔で眠っていた。
むむむ……
責任感の塊は、落ちていたキトンをまとい、羊小屋から出て行った。







……
けれど、しばらくして戻ってきた。
すぅ……
メロスにキトンを着せ、額に口づけをするとまた出て行った。
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登場人物紹介

メロス

村から王都シラクスまで走ります。

ディオニス

暴君。

メロスの今カレ。

セリヌンティウス
メロスの幼なじみ&同居人

フレイア

メロスの妹。

アレクサンドロス

妹の婚約者。

メロスの元カレ。

村長

村でいちばん偉い人

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