12 ひつじ小屋
文字数 2,196文字
祝宴をしているメロスの家で、人の気配がなかったのが羊小屋だった。
ディオニスはメロスを抱え、中に入ると羊がいた。
さほど多くはないが、メロスと妹が二人で暮らす分には十分だった。
メロスは壁際に座らされ、寝ぼけながらもうっすらと目を開けた。
宴の騒がしい声が遠くに聞こえた。
そう思いつつも、目が閉じていく。
羊の鳴き声が大きく聞こえた。
ハッとして目を開けた。
元の飼い主が来たことがわかったのか、羊たちがメロスの周囲に寄ってくる。
小さい頃から一緒に走り回っていた羊だった。
新しい羊もいたが、どことなく
元々の飼い主が現れたのを喜んでいるかのように鳴いた。
メロスは遊んでいただけだったが、羊たちはそれでもよかったようだ。
メロスは動物にも愛される。
ふわ~っと幸せな気持ちになり、寝ぼけながら羊のところに向かおうとするが、壁に押し付けられてキスされた。
寝ぼけていたが、目を覚ます。
そう言いながら襲い掛かってくる。
声を出そうとしても、ふさがれる。
鼻で笑って襲ってくる。
逃れようともがくが、地面の上に横たわっただけだった。
息をつき、逃げようとしたがその間もなく、ディオニスは覆いかぶさってくる。
息も絶え絶えに言う。
必死に叫ぶと、
何を怒っているのか目が据わっていた。
メロスはディオニスが村長と話していた内容を知らない。
メロスはかつてのことを思い出し、ビクっとした。
その顔を見て、ディオニスも少し頭が冷える。
そう言いながら、少し優し目なキスをした。
メロスは拒否をするわけでもなく、ディオニスのキトンの下の肌に触れる。
メロスはうなずき、ディオニスに抱きついた。
ディオニスはそれで元気が出たようで、メロスは明け方までいたぶられ続けた。
◇◇◇
夜が明けた頃、ディオニスはメロスから離れた。
メロスは疲れ切っていた。
「やめるか」と聞かれた時に、うんと言えなかった自分が悲しかった。
しかし、それはしなかった。
他のことはけっこうどうでもいい。
ディオニスは満足したようではなく、どこか切ない表情でメロスを見ていた。
それを見て、メロスはディオニスに手を伸ばし、そっと寄り添い、目を閉じる。
その仕草の愛らしさに、たまらずメロスを抱き寄せる。
慌ててそう言った。
笑顔だったが、地味に怖い。
暴君は伊達ではない。
ディオニスはまたやろうとしていた手を止めた。
そう言いつつも、げっそりはしていた。
ホントは目を開けているのも辛かった。
それだけは強めに言った。
少し元気なくディオニスが言う。
ニコっとして言い、ディオニスの頬に軽くキスをする。
ほっとしたようにディオニスは言い、メロスを抱きしめた。
ディオニスの腕の中でメロスは聞いた。
そして、またメロスとやろうとする。
そう言いながら、ディオニスの胸元で寝てしまう。
優しくメロスを揺り起こす。
寝顔のあまりの愛らしさに、ディオニスも起こすのをためらう。
村長が言っていたことは引っかかる。
けれど、ディオニスにとって、セリヌンティウスは目障りな存在だった。
恋人が寝言で自分の名前を呼んだ。
ディオニスはほくそ笑み、愛しい者を抱きしめ、藁に埋もれて眠ろうとしていた。
村長はいるか……!
しばらくして、遠くからそんな声が聞こえてきた。
家の中がザワザワしてきて、ディオニスは起き上がった。
愛しいメロスは安らかな寝顔で眠っていた。
責任感の塊は、落ちていたキトンをまとい、羊小屋から出て行った。
けれど、しばらくして戻ってきた。
メロスにキトンを着せ、額に口づけをするとまた出て行った。