12 ディオニス王
文字数 3,288文字
刑吏は慌てて手を止めた。
王に中止と言われたのに刑を執行したら、刑吏の首が飛ぶ。
刑吏は槌を降ろし、声の主を探す。
刑場中を探すが、見慣れた王の姿はない。
人々はいつものやたらに着こんでいる鉄仮面の男を探すが、どこにもいない。
その代わり、群衆の後ろからやってくる人物がいる。
彼を見て、皆が頬を赤らめた。
鍛えられた身体。戦うことに適した筋肉。
まさしく歴戦の勇者の姿。
それを隠すことなく、ほとんど全裸でやってくる。
この
刑吏が止まったのを見て、ディオニスはいつものように、
それまでの疲れもたまっていたが、彼はなるべくしてなった王である。
勝利の行進よろしく、一歩一歩踏みしめるかのように歩く。
刑吏が困ったように立ち尽くしているのを見て、メロスも身体を起こしてそちらを見る。
待っていた人物だったが、メロスも首を傾げた。
その見慣れすぎていた裸体に……。
ほとんどそれしか身に着けていなかったからだ。
護身術を教わっていた時も、すぐに脱ぐので目のやり場に困っていた。
思っていた以上に人がいて、その人々にディオニスは裸体をさらしていた。
ディオニスは、はりつけ台の近くまでやってきた。
王の顔を知らない刑吏たちは、慌ててディオニスを止めようとした。
しかし、あまりの堂々とした態度に
刑吏たちはすぐに直立不動の姿勢になった。
それを横目に、ディオニスはメロスのところにやってきて、
不審人物から、王の声が出てくる。
メロスの耳元で、そっとささやく。
というか、単純にディオニスの足がメロスよりも遅かったというだけだ。
メロスは泣きそうな顔で、首を振る。
ディオニスはメロスを抱きしめる。
ディオニスはシラクスの人目につくところで、こういうことは絶対にしなかった。
メロスは悲しそうな顔をした。
そして、ディオニスの唇に、そっと自分の唇を重ねる。
ディオニスも我に返った。
嬉しさのあまり忘れていたが、民衆は
無言でそれを受け取り、メロスを
ディオニスは深く息を吐いた。
そして、メロスを傍らに、人々の前に立つ。
刑場はしんと静まり返った。
ディオニスは、
ディオニスの言葉にメロスは驚いていた。
そして、辛そうにうつむく恋人に、手を伸ばす。
この先、何があっても、この人についていこう。
メロスはそう思って、微笑みかけた。
小さく、そんな声がした。
それを聞いた民衆が、我に返った。
なぜ、自分が
ディオニスには信じられなかった。
年配の警吏の指示で、王の周辺に明かりが灯される。
ディオニスは恐る恐る右手を上げた。
走れメロスを『BL』にしてみた
……ら走れディオニスになった。
【完】