4 葛藤
文字数 2,265文字
山賊たちに指示を出して川の方へ行かせた後、ディオニスはメロスを追ってシラクスへ向かおうとしていた。
しかし、大事なことに気が付いた。
否、わかってはいたが、実感していなかった。
ベルトに必要なものは付けてあったのだが、川に入った時にメロスを助けられないと思い、そのベルトを外し、結果、武器も金も失った。あの流れでは邪魔なだけだった。
装飾も好まないので、貴金属を身に付けてもいない。
現在の彼の持ち物は、着ている服だけだった。
気づいてはいた。
無一文であるということに。
いままで金に困ったことはなく、こんな状況になったことがない。
彼はとてもまじめな王だからだ。
王であると主張をしたところで信じてもらえない可能性も高い。
それに、それはできるだけ避けたかった。
と、ディオニスは思っていた。
そこは絶対に曲げられない。
自分の治める王都シラクスへと向かう街道を。
日暮れまでまだ時間はあったが、長距離の移動は馬がほとんどで、走ったことはない。
しかし、メロスはすでにシラクスに向かってしまっていた。
そして
と、思いのたけを叫んだ。
ディオニスは走り出した。
しかし、着実に走る。
◇◇◇
汗が流れ落ちる。
ディオニスは、無造作にそれをぬぐった。
一定のリズムで、彼は着々と進んでいた。
速さはなかったか、確実に間に合いそうな足取りだった。
そして刑場に行かせないのがディオニスにとって最善の策だった。
と思い、ディオニスは注意深く周囲を見ながら走っていたが、メロスらしい人影はどこにも見られなかった。
無理もない。
メロスは違う道を行っていた。
それを知らないディオニスは、メロスが通って行った道は視界に入らず、シラクスに続く街道を走っていた。まさか、この
メロスは普段からフラフラと思いもかけない行動をとる。
だから、隠れるように行動していたディオニスとも出会えたと言える。
メロスを時間通りに到着させるつもりは全くなかった。
なんとかして阻止するつもりでいた。
連夜の攻めはそのためでもあった。
◇◇◇
太陽の位置で、シラクスに向かっていることはわかっていた。
事実、まっすぐにシラクスに向かっている。
しかし、道はなくなり、木々の間を縫うようにして山の中を歩いていた。
迷っている場合ではなかった。
戻ることもできず、休むこともせず、ひたすら進む。
さっきとは違った涙が出てきた。