8 地下牢に入れられた
文字数 4,325文字
それまで地下牢につながれることになった。
手には鎖のついた
地下牢は数部屋あったが、有罪にされた者は即磔刑になっていたので、メロスの他に囚人はいなかった。
鉄格子に鍵をかけられ、警吏が前に立っている。
メロスはのろのろと鉄格子の反対の壁際に行き、地面に座って壁に寄りかかった。
あの後、手紙が来て、妹の結婚式は3日後に迫っていた。
季節外れな上に、思っていたよりも早くてメロスも驚いていた。
明日にはシラクスを出て、妹の結婚式の準備をしなければと思っていた。
メロスのたったひとりの家族。
たったひとりの妹だから、
メロスはしっかりと送り出したかった。
というか、そっちがメインだった。
会って、思いのままにしたいだけだった。
メロスは静かに目を閉じる。
どうしてこうなったのか、よくわからなかった。
メロスは勢いで動く男だった。
目の前で起きた事象について、反射で考え、反射で動く。
自分で決めて、自分で動いた結果なら、それを後悔することは少ない。
だが、今回は少し勝手が違った。
ここまで取返しのつかない状況になったことはなかった。
それなのに、会える気がしなかった。
玉座に座るディオニスは、普段見ているディオニスとは違っていた。
まるで、見えない鎖にがんじがらめにされているかのようだった。
寒くて冷たくて、凍えてしまいそうな……。
◇◇◇
年老いた男の声が聞こえてきた。
遠ざかっていく足音と、近づいてくる足音が聞こえる。
ここで王と呼ばれるのは彼だけだ。
鉄格子の外には、他の警吏よりも身なりの良い、背の低い白い髭の警吏がいて、その隣に、顔が見える格好をしたディオニスがいた。
メロスがいつも見ていた姿だった。
さすがに王城内だからなのか、良い服を着ていた。
庶民らしさはなく、血筋の良い貴族の
凛々しく立つディオニスに、メロスは惚れ直した。
ディオニスはものすごくイラついた顔で、見下すようにメロスを見る。
メロスはビクっとして、下を向いた。
ディオニスの姿を知り、そんなことを言えるのは、よほどの地位の者だろう。
年老いた警吏は、やれやれと去って行った。
去っていった警吏が階段を上がっていくのが見えた。
声を抑えていたが、ディオニスはそうとう怒っているようだ。
抱きつこうとしたが、枷があってうまくできなかった。
鎖につながれているため、メロスは腕を回せず、ディオニスの胸に寄りかかることしかできなかったが、ディオニスはその鎖を引っ張り引き寄せると、むさぼるようなキスをした。
メロスは
聞いてくれるとわかると、メロスはグイグイ行く。
メロスが身体をビクっとさせ、
ディオニスは本当に不機嫌な顔でそっちを見る。
何やら大騒ぎする音が少しずつ近づいてきた。
ディオニスはかなり怒った様子でメロスから離れ、身なりを整えると鉄格子の前に行く。
メロスもそっとディオニスの背中について行く。
そして、段々と近づいてきた人影が見え、
そのつぶやきを聞き、ディオニスは益々顔をしかめる。
背は高いし筋肉もついていたがわりと細身で、訓練をしているはずの警吏を三人も引き連れて歩けるとは思っていなかった。
その怪力っぷりはなかなか見物だった。
ディオニスは冷たい視線で一瞥する。
年老いた警吏は、頭を下げて口をつぐむ。
メロスは鉄格子に手をかけ、セリヌンティウスを見た。
いつも穏やかに微笑んでいるセリヌンティウスとは違う顔をしていた。
そして、セリヌンティウスはメロスの隣にいるディオニスを見て、何しろ彼は泣く子も黙る暴君ディオニスなのである。
こんなところでいかがわしいことをするはずがないという思い込みがあった。
しかも、セリヌンティウスに引きずられてきた警吏たちも、ディオニスの顔も知らなかったようで、セリヌンティウス同様にぽかんとしている。
セリヌンティウスが知っているディオニス王は黒づくめの方で、あっちの方がこの姿よりも一回りか二回り程大きい。あの装備を解くと、こんなイケメンが出てくるとは思わなかったようだ。
しかも、隣にメロスが並ぶと、禁断の恋に落ちた貴族の青年と男娼に見えてしまう。
メロスは竹馬の友に気まずそうな顔をしていた。
セリヌンティウスは王がメロスの彼氏であることを悟った。
そう考えると、今までのメロスの奇妙な行動にも説明がつく。