11 磔刑
文字数 2,924文字
陽は沈んでしまった。
メロスは自分がかけられる、はりつけの柱を見上げた。
これまでも、何人もの人間がここにかけられて死んでいる。
苦しみや痛みが、押し寄せてくるようだ。
「次の
恐怖が襲ってきた。
メロスはゴクンとつばを飲み込む。
青ざめた顔をして、小さな声で友を呼んだ。
友がやっぱり窮地 に陥 っていることをセリヌンティウスは感じた。
メロスはそれには首を振る。
ニヤニヤしながら刑吏がメロスに言う。
多少の見栄もあり、メロスは平静を装った。
自信がなくなってきていたので、語気も弱くそう言った。
刑吏は声を荒げ、他の刑吏にメロスの腕をはりつけ台の上の横木に乗せるように指示する。
数人がかりで押さえられ、腕が横木の上に乗る。
ガチャガチャと拘束に使われる器具がぶつかる音がする。
それを見て血の気が引く。
器具から目をそらすと、刑場に集まっていた市民が目に入った。刑場には見渡す限り見物人がいた。いまのシラクスのどこにここまでの人がいたのだろうかというくらいだった。
ぼんやりとそれを見つめる。
二日はかかるはずなので、全員でずっと見ているわけではない。
ざわざわと群衆の声が聞こえてくる。
そんな声もあった。
メロスはふと、かわいい妹に言われたことを思い出した。
ちょっとだけほっこりした。
最後に見た時、ディオニスは呆気 にとられた顔をしてメロスを見ていた。
メロスはクスっと笑った。
そう思うと、悲しみがこみあげてきた。
偉そうにしていた刑吏が、若い刑吏に槌を渡してそう言った。
群衆側の気持ちになっていた若い刑吏は、いきなり指名されて驚いた。
時間が経つにつれ、そんな言葉が増えていた。
もちろん、若い刑吏もそんなことを思っていることを表に出してはいけない。
メロスの
その音を聞き、メロスも
最悪な気分でそれを見ていた。
メロスは、ディオニスのことを考えるようにした。
彼のことを想うと、これから処刑をされる恐怖から少しだけ
ディオニスもがんばってはいたが、疲労困憊のおっさんだった。
それにフィロストラトスに
メロスは大事なニンフの水を、ディオニスのためにわざと置いてきていた。
そんなことを考えている場合ではないが、メロスは飽きっぽいのですぐに違うことを考え出す。
そんな不安が過 った。
セリヌンティウスの声がした。
ちょっとだけ友の存在を忘れていた。
セリヌンティウスがメロスの
メロスは友を見て、その綺麗な顔で微笑むと首を振った。
セリヌンティウスはメロスのその姿に魅入 った。
メロスはそう言いかけて止めた。
メロスは友に笑いかける。
セリヌンティウスは力の限り叫んだ。
しかし、それではメロスを救うことはできなかった。
セリヌンティウスの叫びを聞き、人々は目に涙を浮かべた。
だんだんと群衆の声が大きくなってくる。
貧乏くじを引かされた若い刑吏がそう思っていると、
と、偉そうな刑吏が指示をする。
杭と槌を持ち、若い刑吏はしぶしぶメロスの前へ行く。
人々の悲鳴が聞こえる。
そんな中、若い刑吏はメロスを横木に打ち付けようとする。
諦めた顔で、メロスは横木に押し付けられた自分の腕を見ていた。
必死に叫ぶセリヌンティウスの声が、遠くに聞こえるような気がした。
セリヌンティウスを安心させるかのような笑顔をメロスは浮かべた。それを見たセリヌンティウスは、目をそらさず、じっとメロスを見つめる。
メロスは
イライラしたように刑吏は言った。
若い刑吏は困ったような顔をしていたが、とうとう槌を振り上げ、メロスに下ろそうとした。
その時だった。
群衆の後ろから、皆が聞き慣れた王の声で、その言葉が刑場に響いた。