10 祝宴
文字数 3,522文字
口には出さなかったが、祝宴に来ていた村人たちは思った。晴れていたら、中庭も使って広々とできたのだろうが、狭い家の中で、雨に閉じ込められるかのように宴を催す。
夏の昼なのに薄暗く、ランプに明かりを灯した。
メロスを傍らに置き、黙々とワインを飲んでいる。
奥の長椅子でありすぎる貫禄。
ただの白い服を着ているだけなのに、頭に月桂樹の冠があるようにも見える。
近くにディオニスがいれば、他のことはわりとどうでもいい。
けれど、そんなディオニスなど、宴で盛り上がる村人たちには些細なことであった。
雨音が気にならなくなっていくのと同じように、ディオニスの不機嫌顔など気にしなくなった。
ディオニス自身も、自分のご機嫌を取る者もなく行われる宴に、だんだんと気をよくしていた。
元々、お祭り騒ぎは嫌いではない。
けれど、特に王になってからは、威厳を保つために皆がどんなに楽しんでいても、しかめ面を崩すことができなかった。
今は、ディオニスが王であると知っているのはメロスだけで、威厳を保つ必要もない。
ディオニスは、満面に喜色をたたえ、自分が王であること、憎きセリヌンティウスのことも忘れ、戻ってきたメロスを傍らに抱き、他の村人と同じように、陽気に歌をうたい、手を
連日の攻めにはほとほと困り果てていたが、愛する者との幸福な時間。
痛みも苦しみも、愛される悦びだった。
もし村人がそれを聞いたら、顔面蒼白になりそうだった。
けれど、それでも皆は楽しく過ごすだろう。
過ぎたことは過ぎたこと、明日のことは明日考え、今日はとにかく楽しめばいい。
そういう村だった。
陽気にメロスに言う。
メロスは慌てて目を開けた。
メロスも嬉しかった。
だるくてだるくて動けそうにもなかったけれど、眠りたくないと思った。
メロスが儚く微笑むその姿を見て、ディオニスは思わずキスをしていた。
ディオニスは本来、王になる血筋ではなかった。
役人上がりで、そこから軍の総司令官にまでのし上がり、その強さから王になった人物である。
鍛え方は半端ではない。
普段からだらだらしている名前ばかり用心棒のメロスと違い、3,4日の徹夜など、屁でもなかった。
その傍らには、メロスがいた。
妹を除いて。
眠たげに身もだえる兄の姿を、近くの柱の影から観察している。
アレクサンドロスは素早く妻の影に隠れる。
アレクサンドロスはディオニスを見つめる。
猛者だった。
半端なく強そうだった。
想像しただけで恐ろしいらしい。
安心しきって身をゆだねているメロスも微笑ましい。
フレイアはため息をついて夫を見る。
そして、愛らしく微笑んだ。
血は争えない。
彼女は間違いなくメロスの妹だった。
フレイアが『眼福』と言うのにふさわしい、愛らしい兄と滅多に見られない暴君の優しい眼差しだった。
この村の長が、二人に近づいていく。
しかし、耳が遠いと言い張る村長にその声は届いていないように見えた。
杖をつき、年の割にしっかりとした足取りでディオニスの前に立つ。
アレクサンドロスは村長を止めたかったが、これ以上声を上げると、ディオニスに聞こえてしまう。爛々とした目でその様子を見つめる妻の後ろから見守り、黙るしかなかった。