私は綺麗なお兄ちゃんが大好き。それで、お兄ちゃんは嫌な目にあったかもしれないけど、お兄ちゃんはそんなのに負けない人だよ。
いつもニコニコしてたお兄ちゃんが、何も見ていないような目をして……
深夜に家まで押しかけられることも何度かあった。
できるだけそれを避けるため、自分から役人のところに行っていたが。
フレイアは強く言い、離れようとしていた兄にすがりつく。
そんなのを見ていたなんて……。
と、メロスは思ったが、言えなかった。
私がアレクと幸せになれたのは、お兄ちゃんがいろんな人に抱かれたからなの。
はじめは、怖かった……。
お兄ちゃんが、気持ち悪いことされてるの。
汚い物を見る目で、下衆な野郎どもを見下してたわ。
その時のメロスを思い出したのか、フレイアはうっとりと言った。
汚物を見下す感じ、とっても美麗だったよ。
アレクだけは、お兄ちゃんを元気づけようとしてがんばってたのがわかったの。
(……………………元気づけられた感じはしなかったが?)
「ああ、この人は、他の人と違うんだ」って思ったの。
だけど、お兄ちゃん、
それに気づかない感じで、つまらなそうな顔してて……
(アレクにそんなつもりがあったようには思えなかったんだけど……)
メロスにはアレクサンドロスが自分に酔っているようにしか見えなかった。
表向きは付き合っていたことも、別れたことも言ってなかった。
それに、メロスと付き合っていた頃はアレクは家に来ていなかった。
きっききキミは、メロスの妹の、フレイアちゃんだよね!!!
って、真っ赤な顔で、超あがった感じでそう言ってきたの。
おおおおお、お兄さんとは、仲良くしているんだけど、俺の事、知ってる?
私はうなずいたわ。
だって、お兄ちゃんとしてたの見てたから。
おおお、俺は、キミが好きだ!!!
つ、つき合ったりしてくれたりしなかったりしたり?
ずっと、好きだったのかもしれない。お兄ちゃんの彼氏だったアレクのこと……
当時、妹がアレクを好きということは薄々感じていたが、そういう理由からだとメロスは知らなかった。
アレクも優しく接してくれて、しかも、友達の妹だからって、とっても大事にしてくれたの。
おバカさんなのに、一生懸命なのが、とっても嬉しかった。
おバカなのに、愛されるキャラ。
自己中心的な妄想はするが、裏がなくて一生懸命なところが、そういう印象を与えるのかもしれない。
ただ、わりとメロスもそうだった。
でも、キスはしてくれても、それ以上はしてくれなかったの。
(いや、そうなんだろうけど……、嫌だ、 知りたくない~~~~~~~!!!!)
それなのに、お兄ちゃんのことはキスしてひんむいてやろうとしてたんだもの。
私にはしてくれないのに……って、すっごく悲しかったの。
思うところはあったが、メロスはそれを黙って聞いていた。
喉に何かが詰まったようだった。
苦痛だったが、辛うじて絞り出すように言えた。
恥ずかしそうに、でも、キラキラした瞳で言う妹を見て、メロスは小さくため息をついた。
悪いヤツじゃないから。
あいつのいいとこ、ボクはいっぱい知ってる……
アレクサンドロスでなければ、あの頃のメロスは助けられなかった。
それに、明るいところをずっと歩いていける人間であることを、メロスもわかっていた。
メロスには、それが少し眩しかったのかもしれない
大事な妹に愛されているというだけで、メロスは気に入らなかった。
あんなにお世話になったのに、お兄ちゃんったら恩を仇で返すように嫌ってるんだもん。なんか、申し訳ないなって思ってたんだよ。
まさか、だからあいつと付き合ったとかって言うのか?
どうしてもアレクのおバカな言動しか思い浮かばない。
それはメロスもそう思っていた。
忘れてしまいがちだが。
私にとってはめちゃめちゃカッコいい人なんだからね。
あいつはボクなんかを、好きでいたらいけないヤツなんだ。
おまえはアレクと幸せになるんだよ。
外見なんて、どうだってい……
どうだってよくないよ。
お兄ちゃん、なんだかんだ言って、私よりも自分の方が綺麗って、思ってるよね?
と、フレイアは食い気味に長年引っかかっていたことを言った。
メロスはその言葉を理解するのに少し時間がかかった。
2年ぶりにフレイアに会って、前にもまして綺麗になってたから、お兄ちゃん、淋しかったんだぞ。
って、飛びついてきて、これをかわいいと言わないで何をかわいいと言えばいいんだ。
とにかくフレイアはかわいい。
だから、悪い虫がつかないように、ボクは大変だったんだぞ
花が咲くように笑い、フレイアは言った。
その言葉は、メロスの今までの悲しみや苦しみなど、どうでもよくなってしまうほどの破壊力を持っていた。
フレイアは不安そうな顔で兄を見た。
なんだか嫌な予感がした。
私が結婚したから、もう何の心配もいらないとかって、思ってないよね?
結婚したからって、これで安心ってことはないんだからね。お兄ちゃんはこれからも私のお兄ちゃんで、この子の伯父さんなんだからね。
私、お兄ちゃんのことが、大好きなんだからね。いなくなったりしたら、どうなっちゃうか、わかんないよ……?
ただね、ちょっと、せっちゃんがヤバいんだ。
だから、ボクはこれからシラクスに戻るよ。
(どうしてディオは明け方にウチを出て行ったんだろう。大慌てでなんて、よくないことが起きたんじゃないか?)
今日はメロスがシラクスに戻らなければならない3日目だった。
(最悪な状態を想定して、日没までにシラクスに戻らなければ)
お兄ちゃん。
せっちゃんとディオさん、どっちが好きなの?
せっちゃんは
お兄ちゃんのこと好きなんだよ。友達としてじゃなくて……
実際、甘え放題に甘えている。
はっきり言って、おんぶにだっこ状態だった。
けれど、メロスは遠い目をした。
2年前、セリヌンティウスの気持ちを知っていたから、シラクスに向かったのかもしれない。
でも、向こうから手を出さないこともわかっていた。
キライではない相手との共同生活。
メロスはどう転んでも悪いことにはならないと思っていた。
フレイアは、今まで見た中で一番綺麗な兄の笑顔を見た。
透明で消えてなくなってしまいそうな、儚い微笑みだった。
「この人なら、ボクが望んでいることをしてくれる」
そう思ったんだ。
そうだけど……
おまえ、今、アレクの顔を思い浮かべてないか?
ふたりで散々やっていた劇だった。
アレクの方が想像しやすかったようだ。
ボクとディオをネタにして、変なことしちゃダメだからね。
私とアレクの幸せ家族計画に口を出さないでくれないかな。
フレイアは不満そうな顔をした。
けれど、それを見たメロスは、