「暴走する彼女は!!」
文字数 3,330文字
~~~新堂助 ~~~
──ボクを連れ去って欲しいんだ。
──ボクを連れ去って欲しいんだ。
──ボクを連れ去って欲しいんだ。
──ボクを連れ去って欲しいんだ。
──ボクを連れ去って欲しいんだ。
──ボクを連れ去って欲しいんだ。
──ボクを連れ去って欲しいんだ。
──ボクを連れ去って欲しいんだ……。
エコーがかった台詞が頭の中で反響した。
あまりの衝撃に、頭がくらくらした
「……こいつは驚いたな。まさかここまで……」
「ど、どうかな?」
「大胆な告白を受けるとは……」
「ん?」
首をかしげるジーンを、俺はガシリと捕まえた。
「任せろ、今すぐ浚ってやる! さあふたりで行こうぜ、愛の巣へと!」
「え? な、なんで? なんで肩を組むの? 愛の巣ってなに?」
「なんでじゃねえよ、連れ去ってって言ったじゃねえか! それって俺と愛の逃避行がしたいってことだろ!? 相思相愛の男女が身分の差とか家の事情とかを乗り越えるとかそういうやつだろ!?」
「はあぁぁぁあ!? 全っ然違うよ! ボクが言ったのはそういう意味じゃなくて……!」
顔を真っ赤にして弁解するジーン。
「いいんだよ、ジーン。わかってる。察してやるよ。だからさあ行こう。ふたりで誰の手も届かぬ地へ」
「全然察せてないよ! 早くこの手を離してよ! ほらまたっ、変なとこに手が伸びてるぅっ……!」
「さっきも言っただろ? ハーレム主人公として俺は、毎回女の子にボディタッチしなきゃならないという重い十字架を背負ってるんだって。つまりこれは俺が悪いんじゃなく、俺という人間を創造した神が悪い」
「い・い・か・ら・は・な・せええええええ!」
カキンッ、金属製のパーツが嵌 るような音がした。
瞬間──
光線銃から放たれたレーザーが、俺の足元の地面にズドンと炸裂した。
「うおあっ!? 危ねえっ!?」
「ああぁっ!? 外した!?」
「本気で当てにきてんじゃねえよ!」
「本気で当てるって言っただろ!?」
「そんなの当たっら死んじまうだろうが!」
「殺すつもりで撃ったんだよ!」
ジーンは銃を構えたまま、俺からじりじりと距離をとった。
顔を真っ赤にして、乱れた胸元を片手で押さえている。
「待て待て落ち着け、話せばわかる」
「話してもわからないからこういう状況になってるんだろっ?」
「わかったわかった、とりあえずその銃は下ろそう。な? な?」
「やだ! 下ろした瞬間に飛びついてくる気だろ!?」
「……」
「ほらあ!」
「わー!? 落ち着け落ち着け、早まるな!」
パンパンと手を打ち合わせる音がした。
誰かと思ったらガドックだった。
「はいはいそこまで。話が進まねえからそのへんにしとけガキども」
「むむ、ガドックめ……荒くれ者のくせに優秀な進行役みたいな真似をしやがって……」
「……おじさん誰? タスクの仲間? てことは同じく変態?」
「いろいろと聞き捨てにならんことはあるんだが。それをしてると本気で話が進まねえ……」
ガドックはため息をついた。
「だから、拳骨一発ずつで勘弁してやる」
「痛でででで……。まだ頭がズキズキする……」
「うう……なんでボクまで……」
「うるせえ、とっと歩けっ」
頭をおさえる俺とジーンを、ガドックは羊に吠える牧羊犬みたいに追い立てた。
やがて辿り着いたのは、宇宙港に停泊しているガリオン号の前だった。
ガリオン号は宇宙船用のドックではなく、屋外に設置した架台に置いてある。
ディスプレイの意味も兼ねて、夜でもスポットライトが当てられている。
「……ほーう、こいつが次元破砕船か。外見は普通の宇宙船にしか見えんがなあ……」
ガドックは興味深げにガリオン号を見上げた。
「わあぁ……っ、すごいすごいすごいっ」
頭をおさえてぶつくさ言ってたジーンは、ガリオン号を見た瞬間にテンションマックスになった。
「ねえねえっ。中っ、中もいいっ?」
「OKOK、あんまいじくんなよ?」
「わかった、ありがとうっ」
遠隔キーでセキュリティ認証を外してやると、ジーンは「ひゃっほう」と歓声を上げながらタラップを駆け上がって行った。
「おーおー、はしゃいじゃってまあ……」
「おいボウヤ」
ジーンが船内に消えるのを待って、ガドックが俺に話しかけてきた。
「あいつにはくれぐれも気をつけろよ?」
「ジーンに? なんで?」
「あいつはこっちでも有名なお転婆でな……。爆弾娘と恐れられてる」
「警察 上等、のガドックでも恐れるほど?」
「オレはこの歳まで生きてきて、身に染みたことがあるんだよ。わかる 奴は怖くねえってな」
「……わからない から怖いってことか」
なんとも教訓めいた話だ。
「連れ去るって表現がまずひとつ。おまえに直接頼み込んできたってのがもうひとつ。あいつ、明らかに合法じゃない頼みをするつもりだぞ?」
「考えてみると、初対面の男ふたりにのこのこついて来る無防備さも怖いっちゃ怖いよな……」
ふたりして立ち話をしていると……。
ドルルンッと、サブエンジンの起動する音がした。
船内の明かりがパパパッと点灯した。
「は?」「え?」
俺たちは顔を見合わせた。
「ちょ……あいつ何をする気だ!?」
「まさかこのまま発進する気じゃねえだろうな!?」
「バカ言え! 管制の許可もなしにそんなことする奴いるかよ!」
「爆弾娘だって言っただろうが! そもそも何をするかわかんねえから怖いんだよあいつは!」
「ええええぇー!? そういうレベルの話ぃー!?」
俺たちは慌ててタラップを駆け上がった。
船内に入ると、ジーンは主操縦者席に座ってメインコンソールをいじっていた。
片手に一冊の本を持っている。
あちこちボロボロになって日焼けした、相当に古い本だ。
えっと、タイトルは……リンガード語じゃないな、こっちの文字か?
「えーっと、えーっと……これかな?」
ジーンはポチポチと覚束ない指捌きながら、次元破砕の座標入力モードにたどり着いた。
本を参考に、座標を打ち込んでいく。
え、おい、ちょっと……?
ガドックとの会話を思い出してぞっとする。
こいつもしかして……本気でこのまま飛ぼうとしてる?
「……ようっし、これでいいはず。あとはメインエンジンに点火して、彼方の空へ飛び立つだけだ」
メインエンジンの起動スイッチのカバーを外すジーン。
ちょ……っ。
「そーれ、ポチッっとな──」
「ってそんなわけにいくかあああああー!」
横合いからタックルするように飛びついた。
「うわああああああああああああああー!?」
「ふざけんなふざけんな、マジでふざけんなよ! 可愛い顔して恐ろしいことしてんなよ!」
「きゃああああああああああああああー!?」
悲鳴を上げるジーンを床に押し倒した。
うつぶせに組み敷いて腕をとった。
「ガドック! こいつを縛ろう! さすがに洒落にならん!」
「なんでだよ! いいって言ったろ!?」
「入るのを許可しただけで、発進を許可したわけじゃねえよ! しかも座標まで入力してどこ行こうとしてんだおまえは!?」
「惑星ジャンゴだよ! これ、この本に載ってるだろ!?」
「どこだよそこは! ってそうじゃねえよ! そういう問題じゃねえよ! 本気でどこに行くかを聞いてんじゃねえよ! どうしてそういうことをしようとしてんのかって意図を聞いてんだよ!」
「……言いたくない」
「ガドックー! 縄持って来てくれー! 洗面所にひと巻きあったはずだー!」
「なんでだよ! もうしないよ! もうしないから、縛らなくていいだろ!?」
「……ホントにしないか?」
「……」
「ガドーック! 縄をー! 可及的速やかにー!」
──ボクを連れ去って欲しいんだ。
──ボクを連れ去って欲しいんだ。
──ボクを連れ去って欲しいんだ。
──ボクを連れ去って欲しいんだ。
──ボクを連れ去って欲しいんだ。
──ボクを連れ去って欲しいんだ。
──ボクを連れ去って欲しいんだ。
──ボクを連れ去って欲しいんだ……。
エコーがかった台詞が頭の中で反響した。
あまりの衝撃に、頭がくらくらした
「……こいつは驚いたな。まさかここまで……」
「ど、どうかな?」
「大胆な告白を受けるとは……」
「ん?」
首をかしげるジーンを、俺はガシリと捕まえた。
「任せろ、今すぐ浚ってやる! さあふたりで行こうぜ、愛の巣へと!」
「え? な、なんで? なんで肩を組むの? 愛の巣ってなに?」
「なんでじゃねえよ、連れ去ってって言ったじゃねえか! それって俺と愛の逃避行がしたいってことだろ!? 相思相愛の男女が身分の差とか家の事情とかを乗り越えるとかそういうやつだろ!?」
「はあぁぁぁあ!? 全っ然違うよ! ボクが言ったのはそういう意味じゃなくて……!」
顔を真っ赤にして弁解するジーン。
「いいんだよ、ジーン。わかってる。察してやるよ。だからさあ行こう。ふたりで誰の手も届かぬ地へ」
「全然察せてないよ! 早くこの手を離してよ! ほらまたっ、変なとこに手が伸びてるぅっ……!」
「さっきも言っただろ? ハーレム主人公として俺は、毎回女の子にボディタッチしなきゃならないという重い十字架を背負ってるんだって。つまりこれは俺が悪いんじゃなく、俺という人間を創造した神が悪い」
「い・い・か・ら・は・な・せええええええ!」
カキンッ、金属製のパーツが
瞬間──
光線銃から放たれたレーザーが、俺の足元の地面にズドンと炸裂した。
「うおあっ!? 危ねえっ!?」
「ああぁっ!? 外した!?」
「本気で当てにきてんじゃねえよ!」
「本気で当てるって言っただろ!?」
「そんなの当たっら死んじまうだろうが!」
「殺すつもりで撃ったんだよ!」
ジーンは銃を構えたまま、俺からじりじりと距離をとった。
顔を真っ赤にして、乱れた胸元を片手で押さえている。
「待て待て落ち着け、話せばわかる」
「話してもわからないからこういう状況になってるんだろっ?」
「わかったわかった、とりあえずその銃は下ろそう。な? な?」
「やだ! 下ろした瞬間に飛びついてくる気だろ!?」
「……」
「ほらあ!」
「わー!? 落ち着け落ち着け、早まるな!」
パンパンと手を打ち合わせる音がした。
誰かと思ったらガドックだった。
「はいはいそこまで。話が進まねえからそのへんにしとけガキども」
「むむ、ガドックめ……荒くれ者のくせに優秀な進行役みたいな真似をしやがって……」
「……おじさん誰? タスクの仲間? てことは同じく変態?」
「いろいろと聞き捨てにならんことはあるんだが。それをしてると本気で話が進まねえ……」
ガドックはため息をついた。
「だから、拳骨一発ずつで勘弁してやる」
「痛でででで……。まだ頭がズキズキする……」
「うう……なんでボクまで……」
「うるせえ、とっと歩けっ」
頭をおさえる俺とジーンを、ガドックは羊に吠える牧羊犬みたいに追い立てた。
やがて辿り着いたのは、宇宙港に停泊しているガリオン号の前だった。
ガリオン号は宇宙船用のドックではなく、屋外に設置した架台に置いてある。
ディスプレイの意味も兼ねて、夜でもスポットライトが当てられている。
「……ほーう、こいつが次元破砕船か。外見は普通の宇宙船にしか見えんがなあ……」
ガドックは興味深げにガリオン号を見上げた。
「わあぁ……っ、すごいすごいすごいっ」
頭をおさえてぶつくさ言ってたジーンは、ガリオン号を見た瞬間にテンションマックスになった。
「ねえねえっ。中っ、中もいいっ?」
「OKOK、あんまいじくんなよ?」
「わかった、ありがとうっ」
遠隔キーでセキュリティ認証を外してやると、ジーンは「ひゃっほう」と歓声を上げながらタラップを駆け上がって行った。
「おーおー、はしゃいじゃってまあ……」
「おいボウヤ」
ジーンが船内に消えるのを待って、ガドックが俺に話しかけてきた。
「あいつにはくれぐれも気をつけろよ?」
「ジーンに? なんで?」
「あいつはこっちでも有名なお転婆でな……。爆弾娘と恐れられてる」
「
「オレはこの歳まで生きてきて、身に染みたことがあるんだよ。
「……
なんとも教訓めいた話だ。
「連れ去るって表現がまずひとつ。おまえに直接頼み込んできたってのがもうひとつ。あいつ、明らかに合法じゃない頼みをするつもりだぞ?」
「考えてみると、初対面の男ふたりにのこのこついて来る無防備さも怖いっちゃ怖いよな……」
ふたりして立ち話をしていると……。
ドルルンッと、サブエンジンの起動する音がした。
船内の明かりがパパパッと点灯した。
「は?」「え?」
俺たちは顔を見合わせた。
「ちょ……あいつ何をする気だ!?」
「まさかこのまま発進する気じゃねえだろうな!?」
「バカ言え! 管制の許可もなしにそんなことする奴いるかよ!」
「爆弾娘だって言っただろうが! そもそも何をするかわかんねえから怖いんだよあいつは!」
「ええええぇー!? そういうレベルの話ぃー!?」
俺たちは慌ててタラップを駆け上がった。
船内に入ると、ジーンは主操縦者席に座ってメインコンソールをいじっていた。
片手に一冊の本を持っている。
あちこちボロボロになって日焼けした、相当に古い本だ。
えっと、タイトルは……リンガード語じゃないな、こっちの文字か?
「えーっと、えーっと……これかな?」
ジーンはポチポチと覚束ない指捌きながら、次元破砕の座標入力モードにたどり着いた。
本を参考に、座標を打ち込んでいく。
え、おい、ちょっと……?
ガドックとの会話を思い出してぞっとする。
こいつもしかして……本気でこのまま飛ぼうとしてる?
「……ようっし、これでいいはず。あとはメインエンジンに点火して、彼方の空へ飛び立つだけだ」
メインエンジンの起動スイッチのカバーを外すジーン。
ちょ……っ。
「そーれ、ポチッっとな──」
「ってそんなわけにいくかあああああー!」
横合いからタックルするように飛びついた。
「うわああああああああああああああー!?」
「ふざけんなふざけんな、マジでふざけんなよ! 可愛い顔して恐ろしいことしてんなよ!」
「きゃああああああああああああああー!?」
悲鳴を上げるジーンを床に押し倒した。
うつぶせに組み敷いて腕をとった。
「ガドック! こいつを縛ろう! さすがに洒落にならん!」
「なんでだよ! いいって言ったろ!?」
「入るのを許可しただけで、発進を許可したわけじゃねえよ! しかも座標まで入力してどこ行こうとしてんだおまえは!?」
「惑星ジャンゴだよ! これ、この本に載ってるだろ!?」
「どこだよそこは! ってそうじゃねえよ! そういう問題じゃねえよ! 本気でどこに行くかを聞いてんじゃねえよ! どうしてそういうことをしようとしてんのかって意図を聞いてんだよ!」
「……言いたくない」
「ガドックー! 縄持って来てくれー! 洗面所にひと巻きあったはずだー!」
「なんでだよ! もうしないよ! もうしないから、縛らなくていいだろ!?」
「……ホントにしないか?」
「……」
「ガドーック! 縄をー! 可及的速やかにー!」