「カヤズムの生まれた理由!!」
文字数 2,735文字
~~~新堂助 ~~~
「……様ー!」
御子神 の視線を追うと、誰かがこちらに向かって走ってくるのがわかった。
丸いメガネをかけた女の子だ。
年の頃なら十代後半……たぶん年上?
いずれにしろ、巫女服を着ているのですぐに関係者だとわかる。
運動神経は悪いらしく、走るたびに体が左右に揺れている。赤毛の三つ編みがぱたぱた揺れ、大きなお胸もぼよんぼよん揺れ、実にけしからん眺めになっている。
「シロ様ー!」
女の子は手を振りながら、大声でシロの名を呼んでいる。
「シ・ロ・さ・まー!」
シロに会えたことがよっぽど嬉しいのか、目に涙まで浮かべている。
そばかすのあたりがバラ色に染まってる。
「おお! セリ!」
シロはぱっと表情を明るくして、俺の肩から跳び降りた。
「シ・ロ・さ・まああああああ!」
セリさんはなおもわき目もふらずに走って、走って──溝に足をとられた。
「ぶぎゅっ」
受け身も何もなく盛大に、前のめりにすっ転んだ。
「ああっ!? 大丈夫かセリ!?」
慌ててシロが駆け寄り、
「相変わらず運動音痴じゃのうそなたは!」
手ずから抱き起こしてやった。
「うう……ずびばぜ~ん」
半べそで地面を探るセリさんに、俺はメガネを拾って手渡した。
「はいメガネ。幸い壊れてはいないみたいですけど」
「うう、どこのどなたか存じませんが、誠にありがとうございますぅー」
メガネをかけたセリさんは、俺をまじまじと見つめると……。
「げげ……あなたは!?」
ずざざっ、と凄まじい勢いで跳び退った。
「シロ様を穢した赦すまじき犯罪者! 世紀の大悪魔のタスク某じゃないですか!」
俺を指さし、まさに悪魔のように罵った。
「え?」
「え?」
見つめ合う俺とシロ。
「ほらシロ様! すぐ離れないと!」
俺たちの間に、セリさんは体ごと強引に割り込んできた。
「どうせこんなやつ、シロ様の体だけが目当ての変態なんですから! 試合の最中はともかく、プライベートでは距離を置かないと! 涼しい顔してどんな変態行為を仕掛けてくるか知れたもんじゃないですよ!? さっきだって、シロ様を肩車しながらどんな妄想をたくましくしてたのか知れたもんじゃないですよ! まったく羨ましい!」
「そんなつもりはまったくなかったんですけどっていうか……言葉の最後、ちょっと変じゃなかったですか?」
「うるさい死ね!」
セリさんはシロを抱き締め、がるると番犬のように威嚇してきた。
「ええと……」
俺が対処に困っていると、
「貴様ぁ……さっきから黙って聞いていれば、人の旦那を捕まえて犯罪者だ大悪魔だ変態だと、さんざん抜かしてくれおってぇ……」
御子神が鬼の形相でセリさんに向かっていく。
あ、ヤバい。
「待て待て御子神! 俺は気にしてないから! そうカッカすんな!」
慌てて御子神の腕を引いた。
俺が貶されてるのを気にしてくれるのは嬉しいが、こんな公衆の面前で喧嘩するのはさすがにまずい。イメージ悪い。
「……止めてくれるな旦那様、私は悔しいのだ。この女、旦那様のことを知りもしないくせに、犯罪者悪魔変態と……よくもよくもよくも……」
陰々 とつぶやく御子神はしかし……。
「……あれ? だいたい合ってるな」
腑に落ちた、みたいな顔をした。
「いや納得すんなよ! 『たしかに言われてみると……』みたいにうなずくのやめろよ! もっと反論してくれよ! ガンガン言ってやってくれよ! 俺のハートはブロークンだよ!」
「でも、旦那様はこの前……」
「この前なんだよ! 俺がいったいなにしたよ! ……おいやめろ! 途中で口をつぐむのをやめろ! うつむいて顔を赤くするのを今すぐやめろ! このままだともっとひどい誤解されちゃうだろ!」
「ほらシロ様、やっぱりです! この男、可愛い女の子ばっかり連れてハーレムなんか作っちゃって、羨ましいったらありゃしない!」
「だからそれは誤解で……ってあれ、誤解じゃない!?」
「……タスクさんタスクさん」
肩を叩かれたので振りかえると、カヤさんがこめかみをおさえ、沈痛な面持ちで立っていた。
「落ち着いて聞いてください。信じられないかもしれませんが、この気の狂ったような女はわたしの同期です。わたしのポジション……駄犬の目付け役になることを望んでたんですが、そこは代々首席が務めるお役目なので。頭の悪いこいつはケルンピアなんていう遠隔地の支配役に押し込められ、ろくに仕事もなく話す相手もおらず、こうして脳の病気を悪化させたわけです」
これにセリさんは、涙目になって反論した。
「ちょ、ちょっとひどいフレーズ多すぎじゃないですかね!? 気の狂ったとか頭が悪いとか脳の病気とか、あんまりじゃないですか! あとこれだけははっきりさせておきますが、国外の支配役は要職です! 頭の悪い人間には務まりませんし任せられません! カヤさんに負けたってだけで、わたしの成績は最高クラスなんです! というかそもそもの問題は、カヤさんが優秀すぎるってことですよ! 卒業試験の成績30科目すべて満点ってなんですか! 国始まって以来の天才ってなんですか! そんなのチートですよチート! チーターです!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐセリさんに、さすがにイラッときたのか。
「……これ以上公衆の面前で醜態を晒すなら、考えがありますよ?」
カヤさんの掌で、バチバチと紫電が弾けた。
「ひどい、横暴です! これは言論の弾圧ですよ! 専制統治の始まりです! カヤズム反対!」
セリさんはシロの陰に隠れて抗議活動を続けたが、カヤさんの雷法 の威力にびびってか、さすがにトーンダウンした。
「なるほど……」
上層部の意向は理解できた。
天才のカヤさん、成績はいいけど性格に難ありなセリさん。
カヤさんは文句なく要職につけたが、セリさんはそうはいかなかった。といって成績優秀者をもろに閑職につけるわけにもいかないから、遥か彼方のケルンピアに遠ざけて、こうして定期的にカヤさんに面倒を見させていると。
「つまり、ふたりは気の合う友達ってとこですかね」
「……タスクさん ?」
「面倒な同期を持つと大変だなと思いました、はい」
カヤさんの掌の紫電が大きく弾けたので、俺は即座に言葉を改めた。
カヤさんの苛烈な性格はこうして育 まれたんだなあと、しみじみ思った。
「……様ー!」
丸いメガネをかけた女の子だ。
年の頃なら十代後半……たぶん年上?
いずれにしろ、巫女服を着ているのですぐに関係者だとわかる。
運動神経は悪いらしく、走るたびに体が左右に揺れている。赤毛の三つ編みがぱたぱた揺れ、大きなお胸もぼよんぼよん揺れ、実にけしからん眺めになっている。
「シロ様ー!」
女の子は手を振りながら、大声でシロの名を呼んでいる。
「シ・ロ・さ・まー!」
シロに会えたことがよっぽど嬉しいのか、目に涙まで浮かべている。
そばかすのあたりがバラ色に染まってる。
「おお! セリ!」
シロはぱっと表情を明るくして、俺の肩から跳び降りた。
「シ・ロ・さ・まああああああ!」
セリさんはなおもわき目もふらずに走って、走って──溝に足をとられた。
「ぶぎゅっ」
受け身も何もなく盛大に、前のめりにすっ転んだ。
「ああっ!? 大丈夫かセリ!?」
慌ててシロが駆け寄り、
「相変わらず運動音痴じゃのうそなたは!」
手ずから抱き起こしてやった。
「うう……ずびばぜ~ん」
半べそで地面を探るセリさんに、俺はメガネを拾って手渡した。
「はいメガネ。幸い壊れてはいないみたいですけど」
「うう、どこのどなたか存じませんが、誠にありがとうございますぅー」
メガネをかけたセリさんは、俺をまじまじと見つめると……。
「げげ……あなたは!?」
ずざざっ、と凄まじい勢いで跳び退った。
「シロ様を穢した赦すまじき犯罪者! 世紀の大悪魔のタスク某じゃないですか!」
俺を指さし、まさに悪魔のように罵った。
「え?」
「え?」
見つめ合う俺とシロ。
「ほらシロ様! すぐ離れないと!」
俺たちの間に、セリさんは体ごと強引に割り込んできた。
「どうせこんなやつ、シロ様の体だけが目当ての変態なんですから! 試合の最中はともかく、プライベートでは距離を置かないと! 涼しい顔してどんな変態行為を仕掛けてくるか知れたもんじゃないですよ!? さっきだって、シロ様を肩車しながらどんな妄想をたくましくしてたのか知れたもんじゃないですよ! まったく羨ましい!」
「そんなつもりはまったくなかったんですけどっていうか……言葉の最後、ちょっと変じゃなかったですか?」
「うるさい死ね!」
セリさんはシロを抱き締め、がるると番犬のように威嚇してきた。
「ええと……」
俺が対処に困っていると、
「貴様ぁ……さっきから黙って聞いていれば、人の旦那を捕まえて犯罪者だ大悪魔だ変態だと、さんざん抜かしてくれおってぇ……」
御子神が鬼の形相でセリさんに向かっていく。
あ、ヤバい。
「待て待て御子神! 俺は気にしてないから! そうカッカすんな!」
慌てて御子神の腕を引いた。
俺が貶されてるのを気にしてくれるのは嬉しいが、こんな公衆の面前で喧嘩するのはさすがにまずい。イメージ悪い。
「……止めてくれるな旦那様、私は悔しいのだ。この女、旦那様のことを知りもしないくせに、犯罪者悪魔変態と……よくもよくもよくも……」
「……あれ? だいたい合ってるな」
腑に落ちた、みたいな顔をした。
「いや納得すんなよ! 『たしかに言われてみると……』みたいにうなずくのやめろよ! もっと反論してくれよ! ガンガン言ってやってくれよ! 俺のハートはブロークンだよ!」
「でも、旦那様はこの前……」
「この前なんだよ! 俺がいったいなにしたよ! ……おいやめろ! 途中で口をつぐむのをやめろ! うつむいて顔を赤くするのを今すぐやめろ! このままだともっとひどい誤解されちゃうだろ!」
「ほらシロ様、やっぱりです! この男、可愛い女の子ばっかり連れてハーレムなんか作っちゃって、羨ましいったらありゃしない!」
「だからそれは誤解で……ってあれ、誤解じゃない!?」
「……タスクさんタスクさん」
肩を叩かれたので振りかえると、カヤさんがこめかみをおさえ、沈痛な面持ちで立っていた。
「落ち着いて聞いてください。信じられないかもしれませんが、この気の狂ったような女はわたしの同期です。わたしのポジション……駄犬の目付け役になることを望んでたんですが、そこは代々首席が務めるお役目なので。頭の悪いこいつはケルンピアなんていう遠隔地の支配役に押し込められ、ろくに仕事もなく話す相手もおらず、こうして脳の病気を悪化させたわけです」
これにセリさんは、涙目になって反論した。
「ちょ、ちょっとひどいフレーズ多すぎじゃないですかね!? 気の狂ったとか頭が悪いとか脳の病気とか、あんまりじゃないですか! あとこれだけははっきりさせておきますが、国外の支配役は要職です! 頭の悪い人間には務まりませんし任せられません! カヤさんに負けたってだけで、わたしの成績は最高クラスなんです! というかそもそもの問題は、カヤさんが優秀すぎるってことですよ! 卒業試験の成績30科目すべて満点ってなんですか! 国始まって以来の天才ってなんですか! そんなのチートですよチート! チーターです!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐセリさんに、さすがにイラッときたのか。
「……これ以上公衆の面前で醜態を晒すなら、考えがありますよ?」
カヤさんの掌で、バチバチと紫電が弾けた。
「ひどい、横暴です! これは言論の弾圧ですよ! 専制統治の始まりです! カヤズム反対!」
セリさんはシロの陰に隠れて抗議活動を続けたが、カヤさんの
「なるほど……」
上層部の意向は理解できた。
天才のカヤさん、成績はいいけど性格に難ありなセリさん。
カヤさんは文句なく要職につけたが、セリさんはそうはいかなかった。といって成績優秀者をもろに閑職につけるわけにもいかないから、遥か彼方のケルンピアに遠ざけて、こうして定期的にカヤさんに面倒を見させていると。
「つまり、ふたりは気の合う友達ってとこですかね」
「……
「面倒な同期を持つと大変だなと思いました、はい」
カヤさんの掌の紫電が大きく弾けたので、俺は即座に言葉を改めた。
カヤさんの苛烈な性格はこうして