第6話
文字数 2,762文字
「谷村!もう委員会なんて出ないからね!」
また藤田が元気になっている。多分、マッスル・パーティーを発表させられたからだ。
藤田の後ろから、申し訳なさそうに槇原さんがついてきた。
「えー、やだよ。あれ、クラス男女一人つつでしょ。だから藤田に任せたんじゃない」
ゆりちゃんはスーパーめんどくさそうにしている。黒板に自分が書いていたのがマッスル・パーティーという未知の単語だったことが分かった時、ゆりちゃんは爆笑していた。やっぱり笑ってる場合じゃなかったんだ。ゆりちゃんは”何も思い当たらない”時の顔で、
「何があったのよ、何が?」
藤田は少し目をそらしながら
「男女間違えられた。」
鶴乃さんは噴き出した。私はマッスル・パーティーじゃなかった事に驚いてるよ。
「アハハっ!何それ~!」
「まぁ、私たちの制服って上半身だけなら男女の違いないもんね。」
私はフォローを入れる。藤田は口をとがらせて、
「冗談ならともかく、この後お茶でもってさそわれたんだよ?」
「うわ、ガチナンパじゃない!馬鹿だなー。そいつ」
ゆりちゃんが机の上に胡坐をかいて座っているのが見える。いつの間にそんな格好になってたんだろ。はしたない、というか普通に態度が悪いよ。私はゆりちゃんをつついて注意する。
「ゆりちゃん、パンツみえてるよ」
「え!?ほんと?うわっ」
ゆりちゃんが焦って机から落ちそうになる。私はあわててゆりちゃんを支えた。そんなに焦るくらいなら短パンくらい履けばいいのに。その様子を見ていた眉村さんがあきれたように笑いながら言った。
「ユーリに比べたら、女の子っぽく見えるのかもだニャ。」
「なんだと!」
藤田が嘆息する。
「谷村と比べられてもねぇ……。まぁ、でもあれは槇原を呼び出したいだけのヤツだろうし、俺なんか見てないというか。」
それが腹立つ。と言わんばかりの言い方で藤田は開いている席に座った。いつも通り困った笑顔を浮かべている槇原さんは
「そんな事ないよ。だって藤田君きれいだもの」
「というか、誰に言われたのよ?そんなの」
ゆりちゃんは机に座り直し(それも良くない)て尋ねた。藤田は
「二年生のおにいさま。」
と、少し気取って言った。
「それってアレじゃないよな……」
そこになぜかいる下松君が眉根を寄せる。たぶん、嫌な想像をしている。
「”俺”って言ったらビビッてたけど?」
藤田はさして気にしもしてないような声色で答えた。椅子の後ろ二つの足だけで器用にバランスをとって乗っている。仰向けになった顔から前髪が零れ落ちる。男の人にしては白いなめらかな額が見える。それを見て下松君がなぜか残念そうな調子で言う。
「まぁ、喋ったら完全男だもんなぁ。藤田は」
「俺が良くて誘われたんなら行ってもいいけどね。」
「で、話し合いの結果は?何が決まったのよ?」
鶴乃さんが尋ねる。槇原さんがプリントを机の上に出しながら、
「今日は顔合わせと簡単な自己紹介とクラスの出し物の案の発表だったんだけど、どうやら一年生は二クラス合同になるかもしれないの。なんでもね、二年生と三年生は私たちよりもも学生数少ないから、バランスとるためって」
なんだ。せっかくマッスル・パーティーに決まったのに。織政君、がっかりするだろうなぁ。それにしても、学生数かぁ。私たちの学校は今まで入学定員70人だったのを今年から120人に増やしているのだ。それは、今年から大分県から大きな工場が引っ越してきたこと(誘致した、とお父さんは言っていた。)ともうすぐ大学なんかの施設もできて、この町は人口が増えるらしい。そのために町にひとつしかなかった高校であるうちは今年から大幅に学生数を増やすことにしたらしい。さすがに120人もいないけど、90人いるかいないかくらいだけど……。でもこのまま増えていけばすぐに町から市になるらしいって事は聞いたことがある。
「良かった。マッスル・パーティーしなくて済みそう……」
下松君がほっとした様子でつぶやいた。声色には疲れがにじんでる。そっか、今日そのために委員会の話し合い報告を聞きに来てるんだ。
「でも、つるタンには訃報かもだけど、」
藤田は不吉なことを言い出した。
「つるタンの彼氏、一年生の文化祭実行委員長になった。」
鶴乃さんははっきり嫌そうな顔をする。そうだよね。また顔合わせるかも知れないもんね。槇原さんが気まずそうに目をそらした。
「たって、一年生は3クラスよ。学年でまとめるほどは規模ないでしょ?」
槇原さんが指を折って数えながら答える。
「各クラスの出し物と合唱コンクールの管理、学校の飾り付けに、参加部活の折衝とかやることはいろいろとあるみたい」
鶴乃さんは、いやいやながら納得したらしい。ただ、別れた彼氏に対してだけにしては少し嫌がりすぎているような気がする。
「なにかまずいの?」
私は近くにいる藤田に尋ねると、藤田は私にこっそり耳打ちする。耳元に暖かい息がかかりじわっと熱が広がっていく。口元にあてた手が私のこめかみに軽く触れる。集中できないからそれ辞めてほしい。
「あのね、つるタンの彼氏がみゆうちゃんが好きって言っただろ?今フリーになって”お誘い”が本格的になってきてたんだ。今日も結構強引にみゆうちゃんに話しかけたりしてたからさ。これからどうなるんだろうって、さ」
そこまで言って、耳からそっと離れる。なるほど、教室に帰ってきてやたら怒ってたのもそれが原因のひとつなのね。藤田は私の顔を見ながら「わかった?」と聞いて来た。”大丈夫だよ。”と伝えるため私は頷く。すると藤田は私の頭に視線を移して、手を伸ばしそっと私の髪を触った。
「どうしたの?」
私は触られて気になって声をかける。藤田はなんでもなさそうに答える。
「髪にゴミがついてた。」
そうなんだ。ちょっと声くらいかけて教えてくれればいいのに。私はゴミが気になって頭を振った。すると傷ついたような顔を藤田がしている。
「俺に触られて嫌だった?」
私は慌てて答える。
「違うよ!まだゴミついてるんじゃないかと、思って!」
藤田はまだ少し悲しそうで、でも
「もう、ゴミはついてないから」
と言った。
「本当に触られるのが嫌だったとかじゃないんだよ!」
誤解されたくなくて語気が強くなる。ちょっと藤田に詰め寄る形になる。藤田は少し困惑しながらも「わかったわかった」と言って私を落ち着かせようとする。どうしよう。藤田にいやな思いさせちゃっただろうか。しばらくその事が心に引っかかった。
また藤田が元気になっている。多分、マッスル・パーティーを発表させられたからだ。
藤田の後ろから、申し訳なさそうに槇原さんがついてきた。
「えー、やだよ。あれ、クラス男女一人つつでしょ。だから藤田に任せたんじゃない」
ゆりちゃんはスーパーめんどくさそうにしている。黒板に自分が書いていたのがマッスル・パーティーという未知の単語だったことが分かった時、ゆりちゃんは爆笑していた。やっぱり笑ってる場合じゃなかったんだ。ゆりちゃんは”何も思い当たらない”時の顔で、
「何があったのよ、何が?」
藤田は少し目をそらしながら
「男女間違えられた。」
鶴乃さんは噴き出した。私はマッスル・パーティーじゃなかった事に驚いてるよ。
「アハハっ!何それ~!」
「まぁ、私たちの制服って上半身だけなら男女の違いないもんね。」
私はフォローを入れる。藤田は口をとがらせて、
「冗談ならともかく、この後お茶でもってさそわれたんだよ?」
「うわ、ガチナンパじゃない!馬鹿だなー。そいつ」
ゆりちゃんが机の上に胡坐をかいて座っているのが見える。いつの間にそんな格好になってたんだろ。はしたない、というか普通に態度が悪いよ。私はゆりちゃんをつついて注意する。
「ゆりちゃん、パンツみえてるよ」
「え!?ほんと?うわっ」
ゆりちゃんが焦って机から落ちそうになる。私はあわててゆりちゃんを支えた。そんなに焦るくらいなら短パンくらい履けばいいのに。その様子を見ていた眉村さんがあきれたように笑いながら言った。
「ユーリに比べたら、女の子っぽく見えるのかもだニャ。」
「なんだと!」
藤田が嘆息する。
「谷村と比べられてもねぇ……。まぁ、でもあれは槇原を呼び出したいだけのヤツだろうし、俺なんか見てないというか。」
それが腹立つ。と言わんばかりの言い方で藤田は開いている席に座った。いつも通り困った笑顔を浮かべている槇原さんは
「そんな事ないよ。だって藤田君きれいだもの」
「というか、誰に言われたのよ?そんなの」
ゆりちゃんは机に座り直し(それも良くない)て尋ねた。藤田は
「二年生のおにいさま。」
と、少し気取って言った。
「それってアレじゃないよな……」
そこになぜかいる下松君が眉根を寄せる。たぶん、嫌な想像をしている。
「”俺”って言ったらビビッてたけど?」
藤田はさして気にしもしてないような声色で答えた。椅子の後ろ二つの足だけで器用にバランスをとって乗っている。仰向けになった顔から前髪が零れ落ちる。男の人にしては白いなめらかな額が見える。それを見て下松君がなぜか残念そうな調子で言う。
「まぁ、喋ったら完全男だもんなぁ。藤田は」
「俺が良くて誘われたんなら行ってもいいけどね。」
「で、話し合いの結果は?何が決まったのよ?」
鶴乃さんが尋ねる。槇原さんがプリントを机の上に出しながら、
「今日は顔合わせと簡単な自己紹介とクラスの出し物の案の発表だったんだけど、どうやら一年生は二クラス合同になるかもしれないの。なんでもね、二年生と三年生は私たちよりもも学生数少ないから、バランスとるためって」
なんだ。せっかくマッスル・パーティーに決まったのに。織政君、がっかりするだろうなぁ。それにしても、学生数かぁ。私たちの学校は今まで入学定員70人だったのを今年から120人に増やしているのだ。それは、今年から大分県から大きな工場が引っ越してきたこと(誘致した、とお父さんは言っていた。)ともうすぐ大学なんかの施設もできて、この町は人口が増えるらしい。そのために町にひとつしかなかった高校であるうちは今年から大幅に学生数を増やすことにしたらしい。さすがに120人もいないけど、90人いるかいないかくらいだけど……。でもこのまま増えていけばすぐに町から市になるらしいって事は聞いたことがある。
「良かった。マッスル・パーティーしなくて済みそう……」
下松君がほっとした様子でつぶやいた。声色には疲れがにじんでる。そっか、今日そのために委員会の話し合い報告を聞きに来てるんだ。
「でも、つるタンには訃報かもだけど、」
藤田は不吉なことを言い出した。
「つるタンの彼氏、一年生の文化祭実行委員長になった。」
鶴乃さんははっきり嫌そうな顔をする。そうだよね。また顔合わせるかも知れないもんね。槇原さんが気まずそうに目をそらした。
「たって、一年生は3クラスよ。学年でまとめるほどは規模ないでしょ?」
槇原さんが指を折って数えながら答える。
「各クラスの出し物と合唱コンクールの管理、学校の飾り付けに、参加部活の折衝とかやることはいろいろとあるみたい」
鶴乃さんは、いやいやながら納得したらしい。ただ、別れた彼氏に対してだけにしては少し嫌がりすぎているような気がする。
「なにかまずいの?」
私は近くにいる藤田に尋ねると、藤田は私にこっそり耳打ちする。耳元に暖かい息がかかりじわっと熱が広がっていく。口元にあてた手が私のこめかみに軽く触れる。集中できないからそれ辞めてほしい。
「あのね、つるタンの彼氏がみゆうちゃんが好きって言っただろ?今フリーになって”お誘い”が本格的になってきてたんだ。今日も結構強引にみゆうちゃんに話しかけたりしてたからさ。これからどうなるんだろうって、さ」
そこまで言って、耳からそっと離れる。なるほど、教室に帰ってきてやたら怒ってたのもそれが原因のひとつなのね。藤田は私の顔を見ながら「わかった?」と聞いて来た。”大丈夫だよ。”と伝えるため私は頷く。すると藤田は私の頭に視線を移して、手を伸ばしそっと私の髪を触った。
「どうしたの?」
私は触られて気になって声をかける。藤田はなんでもなさそうに答える。
「髪にゴミがついてた。」
そうなんだ。ちょっと声くらいかけて教えてくれればいいのに。私はゴミが気になって頭を振った。すると傷ついたような顔を藤田がしている。
「俺に触られて嫌だった?」
私は慌てて答える。
「違うよ!まだゴミついてるんじゃないかと、思って!」
藤田はまだ少し悲しそうで、でも
「もう、ゴミはついてないから」
と言った。
「本当に触られるのが嫌だったとかじゃないんだよ!」
誤解されたくなくて語気が強くなる。ちょっと藤田に詰め寄る形になる。藤田は少し困惑しながらも「わかったわかった」と言って私を落ち着かせようとする。どうしよう。藤田にいやな思いさせちゃっただろうか。しばらくその事が心に引っかかった。