第3話

文字数 1,155文字

校門からそっと覗く。
藤田が忘れて帰ってますように。
気まずさから、そんなことを願う。

藤田は意外に近くにいた。
と、いうよりも覗き込んだ先に藤田がすぐいた。
ばっちり目が合う。
藤田の目が笑う。
藤田は、イヤホンを耳から外して、慣れた手つきでウォークマンに巻き付けポケットにしまう。
何を聞いていたんだろう。 
そして寄りかかっていた校門から体を起こして言う。

「やっと来たんだ。約束忘れたかと思っちゃった」

「あ、き来ました」

精一杯それだけ言った。
藤田はにっこりわらって

「よしよし、じゃあ行こうか」

と言うと、ポケットに手を突っ込んだまま歩き出した。
さっきまでつないでた手だ。
あたたかさを思い出して、恥ずかしくなる。

私は後ろについて歩き出す。
藤田は顔に?を浮かべると

「どうしたの?横歩きなよ?」

と私に歩調を合わせて隣を歩いてくれる。
意外に優しいところもあるんだなぁ
茶髪に染めた髪をみながら思った。

「そーいえばさぁ、名前、なんていうの?」

私に聞いた。
え、あの、同じクラスなんだけど…
名前、憶えられてなかったんだ。
私、影薄いのかな?

「えと、蔵本、です。一年」

「そっかー、同じ同じ!
 俺は、藤田みちる!」

藤田は嬉しそうに跳ねる。
名前、みちるっていうんだ。
名前も女子みたいだなぁ。

「じゃあ、蔵本、よろしく」

握手を求められる。
目の前に手がさしだされる。

「よ、よろしく、お願い、します」

握手して、会話して、二つは同時にこなせない。
ぎこちなくなってしまった。
ヘンに思ってないかな。
藤田を見ると、にこにこしながら私の手を握っている。
よかった。
気にしてないみたい。

道中、藤田はひとりでしゃべっている。

「あそこの、アイスはね。不思議な味がたくさんあるんだよ。
 夏にオープンしたばっかりでね……」

アイス、好きなんだね。
私は、言葉にできなくて心の中で相槌を打つ。

「っと」

藤田が急にストップした。
そして、指をさす。

「ここ!」

うわぁ。かわいいお店。
赤い屋根に白い壁。
アイス、というよりはジェラートのお店のようだった。

「結構、混んでるねぇ」

藤田が店の中を覗き込みつつ言う。

「そ、そうだね」

「テイクアウトしてから、公園で食べよっか?いい?」

藤田が私に尋ねる。

「い、いいです。」

というより、何でもいいです。
おしゃれな店だし、なんか私の知らない決まりとか、ないよね?

「別にそんなに固くならなくていーのにさ。」

藤田が言う。
だって、こんなおしゃれな店、来たことないんだもん。
藤田は、店のドアを開ける。
カランとドアベルの澄んだ音がした。
私は藤田について店に入る。
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