第5話

文字数 1,744文字

「さて、それでは今年の文化祭ですが、クラスの出し物を決めたいと思います。」

 第一回クラス文化祭会議、槇原さんが完璧な口上でクラスの面々に宣言した。さっき即席で作ったメンバーとは思えないほどしっかり役割分担しているようだった。

「はーいじゃあ、何かやりたいことのある人?」

 藤田が挙手を求める。ゆりちゃんは黒板に向かって曲がった字で”出し物案”と書いた。槇原さんが宣言すると同時に、すっと一本の手が伸びた。あの織政君だ。織政君は柔道有段者の風格をもって堂々と手を挙げている。

「はい織政君。案はありますか?」

 槇原さんが織政君を指す。織政君は立ち上がって大きな声で言った。

「やっぱりマッスルパーティーがいいと思います。」

 織政君は元気いっぱいに答える。藤田は楽しそうに笑っている。槇原さんは困ったように笑っている。そんな中、ゆりちゃんは必死に”マッスル・パーティー”をきれいな字で書こうと必死に黒板にチョークを擦りつけていた。ッが上手く書けないらしく、黒板消しで何回も消しては書き直している。

「マッスル、パーティー……ですか。具体的にはどんなことを?」

槇原さんは織政君に尋ねる。

「……」

織政君は考え込んでしまった。そして、こっそりとした動きで下松君の席まで歩いていく。下松くんに尋ねる。

「なぁ、タカやん。マッスル・パーティーって何するんだ?」

「……知らない。」

 下松君は絶句して答える。織政君はマッスル・パーティーについては知らなかったため、発案者である下松君に尋ねようとしたらしい。が、下松君もなんとなく言っただけの単語だった為、答えはなく……。結果、織政君は絶望の顔をしている。

「知ら、ない……?」

「知らん」

「どうしてだよ……。どうしてタカやん、そんな事を言うんだよ……」

 織政君は悲しそうな表情をしている。「うっ」と下松君は声を出す。下松君は一切悪くはないけど、罪悪感があるらしい。下松君は少し唸って考えて、絞り出したようにアイデアを言う。

「お前が最初に始める人なんだから、お前が好きな事をやればいいんじゃないか?」

それを聞くと織政君は太陽のように笑顔を見せた。下松君はこの短い時間の間に疲れている。

「さすがタカやん!」

ポンと手を打って見せる。そのまま織政君は輝く笑顔で司会の槇原さんを見つめた。槇原さんは本当に困った笑顔で笑っている。ふっと教卓の椅子に座っていた藤田が立ち上がった。

「剛、まだ案を募集してる段階だから決まるかはわからない。でも、やりたい事をコレにでも書いて、後で見せてよ。」

 藤田は教卓の中にあった裏紙を一枚取り出すと、織政君に向かって振る。織政君は素直に取りに行くとそのまま自分の机に戻って何かをすごい勢いでその紙に書き始めた。その近くの席で下松君が藤田にてを顔の前の立てて「ごめん」とジェスチャーで伝えているのが見える。藤田は涼しい顔で手をひらひらさせて下松君に合図した。下松君はやっと安心した顔をした。

「他に案は?」

 藤田は教卓の椅子に座りながらクラス中に聞こえる声で発言する。手は上がらない。藤田はこれ見よがしに槇原さんに話しかける。

「じゃあ、マッスル・パーティーでいいのかな」

  侃侃諤諤話し合いはすれども、マッスル・パーティー以上の案が出ない。こういうの”会議は踊る”っていうのよね。お父さんが言ってた。
 というかみんなやりたくなってるんじゃないかな。マッスル・パーティー。私はちょっとやりたいよ。どんなものかはわからないけれど。だんだん気になってきたもの。
結局うちのクラスの出し物がマッスル・パーティーに決まるまであと20分もかかった。

「じゃあ、2組ははマッスル・パーティーと言うことで……」

 槇原さんがいつもの困った顔で発表した。これを今日の第一回文化祭実行委員会会議で発表するらしい。確かに面白いとは思うけど、本当にいいの?
ゆりちゃんはまだ黒板にマッスル・パーティーがうまく書けないみたいで、書き直しを続けている。よく見て!言葉の内容!ゆりちゃんしか突っ込める人いないんだよ!ゆりちゃん!
私の声は届かない。

会議は終わる。
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