ブロートクンスト 諸口葵

文字数 652文字

俺は教師に向かない。
思えば、楽しかった学生時代ってのはなかったような気がする。
父親の仕事の都合で転校に次ぐ転校であんまり思い入れがない。
小学校の卒業式なんかも二か月しか付き合いがない奴らと出たんで、アウェイの空間だった。
だから、俺はよくわからん。
一番長く過ごしたのは、奈良で寮生活をした大学時代だが、今は結局別の場所にいる。
まぁ、この仕事に就いたおかげで県内転勤程度なのはありがたいかもしれない。
今日、うちのクラスの女子が大けがをした。
しかも二人も、別件で。
ひとりは頬を張られて顔に傷が残った。
後から保護者から連絡が来るかもしれない。

「最悪だ……」

こういうのが嫌で公務員になったようなもんなのに、
今日はさすがに疲労困憊だ。最後の運転がとにかくきつかった。
俺は冷めたコーヒーをカップにつぐ。クラスを受け持つようになって半年、自分が飲む
コーヒーの淹れ方ばっかりうまくなる。
昼間に淹れたコーヒー、珠玉の一品だったんだがなぁ。
なんとなく捨てる気にならず、流し台に置いてある。
練乳でも付けてやりゃ、飲んだのか?

「ぴっかぴっかの一年生。高校生ってもっと、楽しいもんかと思ってたよ。」

あと、一か月で文化祭だというのに、まだ実行委員会すら決まっていない。
山積みになった仕事が襲い来る。
これに加えて、部活の監督までやる先生もいるんだ。

「……化け物だろ」

俺には、無理。
早く任期あがって教育委員会勤務にならんかなぁ。
とりあえず、小テストの採点したら今日は帰ろう。
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