第1話
文字数 1,960文字
部室のカギを閉め、ようとした。
できなかったのは、閉め始めたドアに藤田が滑り込んできたから。
藤田はドアの後ろに身を縮めると、後ろを確認し、
「かくまって!」
と、唇に指をあて短く言った。
藤田は同じクラスだけど、話したことはない。
いつも、派手なたくさんの友達と一緒にいる。
まだ、一年生なのに藤田は髪を染めている。
藤田の走ったきた方向から諸口先生が走ってくる。見るからに疲弊しており、息も上げていない藤田とはえらい違いだ。
私は藤田が隠れるように、ドアをそっとしめる。
諸口先生は、咳き込みながら私にすごい剣幕で言う。
「おい!ここに藤田来なかったか!」
「みて、ないです。」
いきなり怒鳴られて、思わず体がはねる。
それでもとっさにそう答えたのは、文芸部の作品を読まれたくなかったから。
先生は、私の返答を聞くと、膝に手を当てて、ゼイゼイと大きく息をする。
諸口先生は若い先生だが、いかにも体を動かすのが苦手そうだ。
苦手そう、というよりも本当に苦手なんだろう。
ある程度息を整えると、またしんどそうに走っていく。
先生の走っていく音が遠ざかってから、私はドアを開けて藤田に声をかけた。
「先生、行ったよ」
藤田が頭だけ出して、廊下を確認する。
亜麻色の髪が綺麗に夕日を反射する。
藤田はドアを大きく開けた。
「あーよかった、ありがとね」
「あ、うん」
藤田はドアの裏で足を投げ出して座り込む。
ほっとしたように、息をつくと、そこの教室が気になったのか、目の前にある机を見て尋ねた。
「ねえ、ここってなんの教室なの?」
藤田が私に尋ねる。
私はドアのところに立ったまま答える。
「……ぶ文芸部、」
「ふーん、知らなかった。あったんだそんな部」
知らなくても、無理はない。
廃部寸前で、幽霊部員をのぞけば、私一人で運営されているのだから。
といっても、部室はそんなに広くない。
元々はどこかの準備室で壁の棚と、床に少しの備品が置いてあるだけだ。
中央には机が4個固めておいてあり、そこにはそれぞれ椅子がある。
でも使っている机はひとつきり。
その机の上にはペン立てと原稿用紙が置かれているだけだ。
藤田は立ち上がって、部室の中のものを見だした。
「へー、今ってあんたしか部員いないの?」
「うん、今はいないよ。
もうひとりいるけど……」
バイトに明け暮れているから来ない、の部分はうまく声に出せなかった。
「ふーん」
じろじろと机の上に置いてある原稿用紙なんかを見ながら、あまり興味もなさそうに、
藤田は答えた。
私はまだドアのところで藤田を見ている。
気まずいから、帰ってほしいなぁ。
私はあまり話すのが得意じゃない。
特に男子とは、ほとんどうまく話せない。
藤田は同じクラスの男子で、背丈はあんまり高くない。
声も高めで、きゃしゃな体格に白い肌。
少し長めの髪の毛で余計にも女の子みたいに見える。
もしかしたら、普通の男子よりは話しやすいかも…
「ねえ、アイス好き?」
そんなことを考えていると藤田の声が至近距離から聞こえてきた。
いつの間にか私の目の前に立っている。
「え、あ、アイス…?」
私はしどろもどろになりながら答える。
長いまつげが瞬きに合わせて震える。
「うん、アイス。嫌い?」
いきなり、藤田の顔がズームしてきた。
ただでさえ近かったのに、藤田はキスができそうなほど顔を寄せる。
ち、近い……
かわいい印象だった藤田は、よくみると私よりも背が大きい。
私が何も言えないでいると、藤田は「じゃぁ、OKね」
と言うと、ドアのそばに立っている私の横をするりと通り抜ける。
そして私の手を引いて、廊下に踏み出した。
繋がれた手が熱い。
顔が赤くなる。
私、返事してない。
何か、言わないと……
「あ、あのね!職員室に鍵だけは返さないと、!」
いけないから。
私の口から出てきたのは、その言葉だった。
しかも、必死に言ったため、声が裏返って、キツイ言い方になってしまった。
やってしまった。
顔に焦りが出る。
そんな私を見て、藤田は、ふわりと笑った。
「なんだぁ、大きな声出せるんだ」
「あ、ごめん」
「謝んなくていーよ。じゃあ校門の外で待ってるね」
藤田はパッと私の手を放す。
私はスピードについていけなくて、そのまま立ち止まってしまう。
藤田は昇降口に向かって歩いて行ってしまった。
手はまだ、熱くて
「やけどするかと思った。」
私はその場で見送るしかなかった。
藤田が見えなくなってから、やっと動けるようになった。
私は、これから、藤田と、アイスを、食べに行く。
顔が熱くなる。
男の子とどこかに遊びに行くのは初めてだから。
できなかったのは、閉め始めたドアに藤田が滑り込んできたから。
藤田はドアの後ろに身を縮めると、後ろを確認し、
「かくまって!」
と、唇に指をあて短く言った。
藤田は同じクラスだけど、話したことはない。
いつも、派手なたくさんの友達と一緒にいる。
まだ、一年生なのに藤田は髪を染めている。
藤田の走ったきた方向から諸口先生が走ってくる。見るからに疲弊しており、息も上げていない藤田とはえらい違いだ。
私は藤田が隠れるように、ドアをそっとしめる。
諸口先生は、咳き込みながら私にすごい剣幕で言う。
「おい!ここに藤田来なかったか!」
「みて、ないです。」
いきなり怒鳴られて、思わず体がはねる。
それでもとっさにそう答えたのは、文芸部の作品を読まれたくなかったから。
先生は、私の返答を聞くと、膝に手を当てて、ゼイゼイと大きく息をする。
諸口先生は若い先生だが、いかにも体を動かすのが苦手そうだ。
苦手そう、というよりも本当に苦手なんだろう。
ある程度息を整えると、またしんどそうに走っていく。
先生の走っていく音が遠ざかってから、私はドアを開けて藤田に声をかけた。
「先生、行ったよ」
藤田が頭だけ出して、廊下を確認する。
亜麻色の髪が綺麗に夕日を反射する。
藤田はドアを大きく開けた。
「あーよかった、ありがとね」
「あ、うん」
藤田はドアの裏で足を投げ出して座り込む。
ほっとしたように、息をつくと、そこの教室が気になったのか、目の前にある机を見て尋ねた。
「ねえ、ここってなんの教室なの?」
藤田が私に尋ねる。
私はドアのところに立ったまま答える。
「……ぶ文芸部、」
「ふーん、知らなかった。あったんだそんな部」
知らなくても、無理はない。
廃部寸前で、幽霊部員をのぞけば、私一人で運営されているのだから。
といっても、部室はそんなに広くない。
元々はどこかの準備室で壁の棚と、床に少しの備品が置いてあるだけだ。
中央には机が4個固めておいてあり、そこにはそれぞれ椅子がある。
でも使っている机はひとつきり。
その机の上にはペン立てと原稿用紙が置かれているだけだ。
藤田は立ち上がって、部室の中のものを見だした。
「へー、今ってあんたしか部員いないの?」
「うん、今はいないよ。
もうひとりいるけど……」
バイトに明け暮れているから来ない、の部分はうまく声に出せなかった。
「ふーん」
じろじろと机の上に置いてある原稿用紙なんかを見ながら、あまり興味もなさそうに、
藤田は答えた。
私はまだドアのところで藤田を見ている。
気まずいから、帰ってほしいなぁ。
私はあまり話すのが得意じゃない。
特に男子とは、ほとんどうまく話せない。
藤田は同じクラスの男子で、背丈はあんまり高くない。
声も高めで、きゃしゃな体格に白い肌。
少し長めの髪の毛で余計にも女の子みたいに見える。
もしかしたら、普通の男子よりは話しやすいかも…
「ねえ、アイス好き?」
そんなことを考えていると藤田の声が至近距離から聞こえてきた。
いつの間にか私の目の前に立っている。
「え、あ、アイス…?」
私はしどろもどろになりながら答える。
長いまつげが瞬きに合わせて震える。
「うん、アイス。嫌い?」
いきなり、藤田の顔がズームしてきた。
ただでさえ近かったのに、藤田はキスができそうなほど顔を寄せる。
ち、近い……
かわいい印象だった藤田は、よくみると私よりも背が大きい。
私が何も言えないでいると、藤田は「じゃぁ、OKね」
と言うと、ドアのそばに立っている私の横をするりと通り抜ける。
そして私の手を引いて、廊下に踏み出した。
繋がれた手が熱い。
顔が赤くなる。
私、返事してない。
何か、言わないと……
「あ、あのね!職員室に鍵だけは返さないと、!」
いけないから。
私の口から出てきたのは、その言葉だった。
しかも、必死に言ったため、声が裏返って、キツイ言い方になってしまった。
やってしまった。
顔に焦りが出る。
そんな私を見て、藤田は、ふわりと笑った。
「なんだぁ、大きな声出せるんだ」
「あ、ごめん」
「謝んなくていーよ。じゃあ校門の外で待ってるね」
藤田はパッと私の手を放す。
私はスピードについていけなくて、そのまま立ち止まってしまう。
藤田は昇降口に向かって歩いて行ってしまった。
手はまだ、熱くて
「やけどするかと思った。」
私はその場で見送るしかなかった。
藤田が見えなくなってから、やっと動けるようになった。
私は、これから、藤田と、アイスを、食べに行く。
顔が熱くなる。
男の子とどこかに遊びに行くのは初めてだから。