第2話

文字数 1,097文字

職員室に鍵を返しに行く。
どうしよう。
今から、男子とアイスを食べに行く。
そう思いながら職員室のドアをノックする。

「し、失礼します。」

そして、職員室のドアを開ける。
ガラガラと立て付けの悪い音がする。
この動作が苦手だ。
職員室中の注目が私に注がれると、”失礼します。”という簡単な単語もうまく話せなくなってしまう。
なので、私はドアを開けるまではあまり職員室の中を見ないようにしていた。
それぐらいで、どうにかなるものでもないのだけれど…
私は目線を上げ、職員室の中を見る。
職員室内はさっきの諸口先生が疲れた様子で座っているだけで他の先生は出払っていた。
諸口先生は、職員室のソファで長く伸びている。
座っているというか、ソファに引っかかっているというか。
疲れだけは存分に感じるフォルムである。
今まで、学校内を走り回って、探していたんだろう。

「おう。蔵本か。部活お疲れ」

先生は私に気が付くと、片手をあげて合図しドアのところまで来てくれた。

「さっきは悪かったな。
 藤田、追っかけてたんだ。
 あいつはやらかしが多くてな」

よれよれになったシャツとゆるめたネクタイが、その追跡の激しさを物語っている。
サクサクと鍵の返却作業をしてくれる。
弱弱しい見た目に反して、言葉はぶっきらぼう。
まだ、心は折れていないらしい。
それとも、先生の性格によるものだろうか。

「藤田…君、何をしたんですか?」

私は気になって尋ねてみる。
先生は気まずそうな顔をして、

「いやな、藤田に噂が立っててな。それについて聞きたいんだが、藤田がつかまらないんだよ。
 咎めたい、とかじゃなくてな、聞きたいだけなんだけどな。
 見かけたら、あいつに伝えといてくれないか
 別に怒ってねえよって」

先生が言う。
もう、疲れたと言いたげだ。
罪悪感。

「ええ、あんまり親しくないですが」

さすがにボロが出そうだったので、あまりしゃべらないようにした。

「頼むな。よし、これで返却終了だ。
 顧問の佐藤先生には伝えとくからな
 気を付けて帰れよ」

先生は、私に向かって笑って見せる。
悪いことしたな。


「ありがとうございました。」

私は、職員室を出る。
さすがに藤田に噂について聞く勇気はなかった。
なにをして、先生から逃げ回るようなことになるんだろう。
罰を与えたいって雰囲気でもなかったしな。
私はあんまり藤田の事は知らない。

それよりも本当に、校門前で待っているのだろうか。
アイス、おごってくれるんだよね。
親しくない、クラスメイト、男子というだけで少し緊張する。
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