シオン=ウォーター=ホール 7

文字数 1,540文字

「マッスル・パーティーってなんだったんだ?」

 下松君はふとそんな事を口にする。下松君は締め切りが近いという課題作の水彩画のコピーにざっくり色を付けている。(下塗りというらしい。)

「お前発なんだから誰も知らないだろ。」

 藤田は二つ目のパンの包装を破きながら、そう答える。

「やらなくて良かったけどさ」

「やらなくていいなら、こんな昼休みまで絵を描かなくてもいいのにさ」

 下松君は足元に置いてある弁当包みを恨めしそうに見ながら、

「ゴリ政に邪魔されず絵を描ける場所ってなかなかないんだよ。今日だって後輩の練習に付き合ってなかったらこうやっていたはずなんだし」

 苦労しているらしい。

「それよりもさ、なんで俺の席の周りでお前ら話し合いしてるんだ?」

 そう。私たちは文化祭の話し合いを下松君の席の周りでしている。ご飯食べながら。私は
ちょうどゆりちゃんとお弁当のおかずを交換したところだった。ゆりちゃんが不思議そうな顔をする。

「ここがいつもマリと私がお弁当食べる場所だもん。」

 それはこっちのセリフとばかりにゆりちゃんが言う。藤田が続けて

「だって男、俺しかいないんだもん。」

 と被せてきた。

「いいじゃねえか。藤田は女子みたいなもんだろ。それに大した話してねえじゃねえか。」

「嫌!俺は男のままでかわいいのがいいの。」

 下松君は理解できない顔をしている。私もよくわからない。眉村さんはわかったらしく

「あなたみたいになりたいってのと、あなたになりたいって結構違うのよね~」

 おんなじ事でしょ?と笑って見せる。なんか眉村さんってオトナって感じがする。

「眉村さんってかっこいいね。」

下松君は私の方を見てびっくりしたような顔をする。

「お前、口きけたのか……」

 失礼だな。下松はゆりちゃんみたいなことを言う。私が不快そうな顔になったのを見て、下松君はあわてて謝る。

「悪い!今のは俺が全面的に悪い!でも、同じクラスになって半年間喋ったの見たの初めてだぞ!驚く、くらいさせろよ!」

「くうちゃん、それはダメだよ。」

「くうちゃん、そういうトコだぞ。モテないのは」

「タカくん、クラスメイトよ。」

「あーあ、やっちゃったにゃあ」

 藤田、ゆりちゃん、鶴乃さんがそれぞれ下松君を責めている。眉村さんは楽しそうにクスクス笑っている。下松君は焦りながら

「悪い!悪かったよ!えーと……」

 名前も覚えてなかったらしい。目線がきょろきょろしているが、思い出せそうな雰囲気はない。私はなるべく憮然として見えるように自己紹介をする。

「……蔵本真里子」

「そう!蔵本!」

 全然ピンと来ていない顔で下松君は謝った。なんだそれ。

「私、目の前で何度もしゃべってるよ。委員会の手伝いもしてるし」

 下松君は明らかに「そうだっけ?おまえ居たっけ?」と言いたい顔をしている。私、そんなに影が薄いの?今まで私の事認識すらしてなかったの?もう墓穴は掘らないと言いたげに下松君は

「そういや揉めそうなんだろ?も、……鶴乃の彼氏と?」

 藤田は面倒そうに手をひらひらさせる。

「揉めてないけど、秒読み」

「マジか」

「マジ」

 えー、困るなぁ。今は用事があると話し合いに参加していない槇原さん、彼女はいつも困ったように笑っている。そういえば、思いっきり笑った顔って見たことないな。

「ふつーに振ればいいじゃん。」

 ゆりちゃんがそう言うと、鶴乃さんが首を振って否定する。

「それで済むなら別れてないわよ。」

 ゆりちゃんは難しそうな顔をする。

「そういうもんかなぁ。」

 ……どうなんだろうね。


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