第9話
文字数 2,498文字
「では、文化祭実行委員会話し合いを始めます。学年ごとに別れて座ってください。」
三年生の文化祭実行委員長の先輩が黒板に”合唱コンクールの役割分担について”と書いてゆく。学年で机を島にして座ると、ひとりの男子生徒が素っ頓狂な声を上げた。
「あれ?お前ら二組の……」
指をさされる。
「そうよ。今日は代理人の出席でね。」
ゆりちゃんはそう返した。男子生徒の隣にいる女の子がほっとしたような顔をしている。この間、二人が受けていたという”いやがらせ”については聞かなかったが、やはりあったんだな、という気持ちになる。
「そう、か。今、クラブ活動の発表についての役割分担をしているんだけどきいてるか?」
思った以上に委員長は気にしてないみたいで親切に教えてくれる。
「いや?あいつら何も言ってなかったよ?」
「ゆりちゃん、聞いてる。一年生は補助で私たちのクラスは照明係になりそうって」
「えー?」
聞いた覚えのなさそうな顔をしないでよ。委員長不安がってるよ。
片手でペンを回しながら配られたプリントを読んでいる。
「そういやあさあ委員長。うちの槇原にいやがらせとかしてる?」
いきなり!?
一年生の机の島の全員が気まずそうな顔をした。
「……いやがらせって思ってたのか。槇原さん」
ぽろっと委員長が小声で言った。
あ、今とんでもない地雷踏んだ。委員長の隣にいる女の子が露骨に焦った顔をする。
「あ、二組はね照明係なんだけど三組と交代なんだ!ずっと証明炊いてるのって疲れちゃうでしょ?」
「あ、ああ。うん……そうなんだよな」
明らかにがっかりした顔の委員長。それをじっと見るゆりちゃん。
その日の話しあいは比較的にスムーズに終わった。なぜなら皆が必要なことしかしゃべらなかったからだ。
なんかどっと疲れた。
私たちが教室に帰ろうとすると後ろから声を掛けられる。振り返ると先ほど委員長の隣に座っていた女の子が追いかけて来ていた。
「ねえ。待ってよ!」
「あ、さっきは、ありがとう」
私はお礼を言った。彼女ががっかりした委員長の代わりに話し合いを進めてくれたりしていたのだ。
「モモちゃんの言ってた2組の委員会のお手伝いさんたちだよね。私、4組の大石実鈴(おおいしみすず)!副委員長よ」
「モモチャン……」
ピンと来ていないゆりちゃんのわき腹を小突く。「鶴乃桃、鶴乃さんの名前だよ!」と小声でささやいた。「ああ」とゆりちゃんは返事をした。
「大石さんって……」
「みすずでいーよ。あたし腹が立ってたんだ。だって都会の高校生ってもっとオトナかと思ってたんだもん。これなら、村のガキンチョの方がずっと聞き分けいいよ。好きな女がどーとかさ、楽しいもんかねぇ。確かに槇原さんは人形みたいでかわいいけどさ。時と場所ってもんがあるじゃない。うちの男子委員も槇原さんに惚れてるっぽいんだよね。」
彼女、意外とよくしゃべる。おとなしそうに席に座っていたのは何だったのか。私たちに口を挟ませないな。私は果敢に挑戦してみる。
「えーと、みすずちゃん。私たちね、まき……うちのクラスの委員がいやがらせ?を受けてるらしくて、なにか知らな……」
「へー。そりゃ大変ねぇ。だって接し方異常だったもん。美人も大変なのね。もう、私一人で文化祭の準備してるみたいなもんよ。藤田君なんか見ててかわいそうでさぁ。っていうか、彼すごい美少年よね。あたしあんなのはじめて見たよ!見てるだけで視力良くなりそう!あ、といってもあたし視力2.0あるけど」
駄目だ。私が上手く話せなかったから、じゃないな。だってずっと喋ってるもの。ゆりちゃんは相槌代わりに疑問をはさむ。
「藤田、好きなの?」
「うん、大好き!でも付き合うなら背の高い年上のイケメンがいい」
真剣な表情で言い切った。かつてこんな正直な子にあったことがあったかな。明るい子でよかった。でも、藤田をやたら褒めるからゆりちゃんが嫌な顔をしてる。
「よく藤田なんて好きになるね。」
彼女は心外とばかりにゆりちゃんに向かってクロスチョップをかました。
「美少年は日本の宝よ。あ、あたし教室こっちだから、じゃね」
行っちゃった……。ゆりちゃんは突然のクロスチョップに唖然としている。
「烈しい子だねぇ。大丈夫?ゆりちゃん」
「うん、でも次はわかんない」
教室に帰ると、藤田と槇原さん、それに眉村さんと鶴乃さんが待っていた。鶴乃さんがこわごわと尋ねる。
「大丈夫だった?」
私とゆりちゃんは顔を見合わせる。同時に喋った。
「大石さんってすごいね。」
「友達が、増えたよ。」
同じことを考えてるかと思いきや、ちょっと違ってた。いや、大体はあってるのだけど。
「にゃー。ユーリ、みすずって呼んだげてよ。」
眉村さんには伝わったらしい。
「マリリ、友達増えるのはいい事だにゃ。」
眉村さんは私に友達が増えたことを喜んでくれているみたいだ。優しいんだな。エメラルドグリーンのマニキュアにパールの粒が光っている爪を見ながらそう思った。
「その様子なら特にいやがらせはなかったんだな。」
心なしか藤田もほっとしてるように見える。心配してくれてたんだろうか?
「谷村が蔵本連れてくって言い出した時はどうしようかと思ったけど、今度は怪我してないね。俺、蔵本のおかげでいい昼寝場所一個減っちゃたんだからさ。」
「新しくもう一つ見つけたけどね」と言いながら藤田がにやにやしている。文芸部室の事だろうか。あの話は藤田とはしてなかった。そう、昼寝場所になったんだ。……私の許可も取らずに。
「みすずが言うには文化祭に差しさわりが出るレベルだったらしいし次からも私たちが言ったほうがいいよ」
ゆりちゃんはそういった。槇原さんは少し沈んだ顔をした。槇原さん、いつも悲しそうな顔をしてるなぁ。今日、みすずさんの言った”異常”という単語が少し気がかりだった。
三年生の文化祭実行委員長の先輩が黒板に”合唱コンクールの役割分担について”と書いてゆく。学年で机を島にして座ると、ひとりの男子生徒が素っ頓狂な声を上げた。
「あれ?お前ら二組の……」
指をさされる。
「そうよ。今日は代理人の出席でね。」
ゆりちゃんはそう返した。男子生徒の隣にいる女の子がほっとしたような顔をしている。この間、二人が受けていたという”いやがらせ”については聞かなかったが、やはりあったんだな、という気持ちになる。
「そう、か。今、クラブ活動の発表についての役割分担をしているんだけどきいてるか?」
思った以上に委員長は気にしてないみたいで親切に教えてくれる。
「いや?あいつら何も言ってなかったよ?」
「ゆりちゃん、聞いてる。一年生は補助で私たちのクラスは照明係になりそうって」
「えー?」
聞いた覚えのなさそうな顔をしないでよ。委員長不安がってるよ。
片手でペンを回しながら配られたプリントを読んでいる。
「そういやあさあ委員長。うちの槇原にいやがらせとかしてる?」
いきなり!?
一年生の机の島の全員が気まずそうな顔をした。
「……いやがらせって思ってたのか。槇原さん」
ぽろっと委員長が小声で言った。
あ、今とんでもない地雷踏んだ。委員長の隣にいる女の子が露骨に焦った顔をする。
「あ、二組はね照明係なんだけど三組と交代なんだ!ずっと証明炊いてるのって疲れちゃうでしょ?」
「あ、ああ。うん……そうなんだよな」
明らかにがっかりした顔の委員長。それをじっと見るゆりちゃん。
その日の話しあいは比較的にスムーズに終わった。なぜなら皆が必要なことしかしゃべらなかったからだ。
なんかどっと疲れた。
私たちが教室に帰ろうとすると後ろから声を掛けられる。振り返ると先ほど委員長の隣に座っていた女の子が追いかけて来ていた。
「ねえ。待ってよ!」
「あ、さっきは、ありがとう」
私はお礼を言った。彼女ががっかりした委員長の代わりに話し合いを進めてくれたりしていたのだ。
「モモちゃんの言ってた2組の委員会のお手伝いさんたちだよね。私、4組の大石実鈴(おおいしみすず)!副委員長よ」
「モモチャン……」
ピンと来ていないゆりちゃんのわき腹を小突く。「鶴乃桃、鶴乃さんの名前だよ!」と小声でささやいた。「ああ」とゆりちゃんは返事をした。
「大石さんって……」
「みすずでいーよ。あたし腹が立ってたんだ。だって都会の高校生ってもっとオトナかと思ってたんだもん。これなら、村のガキンチョの方がずっと聞き分けいいよ。好きな女がどーとかさ、楽しいもんかねぇ。確かに槇原さんは人形みたいでかわいいけどさ。時と場所ってもんがあるじゃない。うちの男子委員も槇原さんに惚れてるっぽいんだよね。」
彼女、意外とよくしゃべる。おとなしそうに席に座っていたのは何だったのか。私たちに口を挟ませないな。私は果敢に挑戦してみる。
「えーと、みすずちゃん。私たちね、まき……うちのクラスの委員がいやがらせ?を受けてるらしくて、なにか知らな……」
「へー。そりゃ大変ねぇ。だって接し方異常だったもん。美人も大変なのね。もう、私一人で文化祭の準備してるみたいなもんよ。藤田君なんか見ててかわいそうでさぁ。っていうか、彼すごい美少年よね。あたしあんなのはじめて見たよ!見てるだけで視力良くなりそう!あ、といってもあたし視力2.0あるけど」
駄目だ。私が上手く話せなかったから、じゃないな。だってずっと喋ってるもの。ゆりちゃんは相槌代わりに疑問をはさむ。
「藤田、好きなの?」
「うん、大好き!でも付き合うなら背の高い年上のイケメンがいい」
真剣な表情で言い切った。かつてこんな正直な子にあったことがあったかな。明るい子でよかった。でも、藤田をやたら褒めるからゆりちゃんが嫌な顔をしてる。
「よく藤田なんて好きになるね。」
彼女は心外とばかりにゆりちゃんに向かってクロスチョップをかました。
「美少年は日本の宝よ。あ、あたし教室こっちだから、じゃね」
行っちゃった……。ゆりちゃんは突然のクロスチョップに唖然としている。
「烈しい子だねぇ。大丈夫?ゆりちゃん」
「うん、でも次はわかんない」
教室に帰ると、藤田と槇原さん、それに眉村さんと鶴乃さんが待っていた。鶴乃さんがこわごわと尋ねる。
「大丈夫だった?」
私とゆりちゃんは顔を見合わせる。同時に喋った。
「大石さんってすごいね。」
「友達が、増えたよ。」
同じことを考えてるかと思いきや、ちょっと違ってた。いや、大体はあってるのだけど。
「にゃー。ユーリ、みすずって呼んだげてよ。」
眉村さんには伝わったらしい。
「マリリ、友達増えるのはいい事だにゃ。」
眉村さんは私に友達が増えたことを喜んでくれているみたいだ。優しいんだな。エメラルドグリーンのマニキュアにパールの粒が光っている爪を見ながらそう思った。
「その様子なら特にいやがらせはなかったんだな。」
心なしか藤田もほっとしてるように見える。心配してくれてたんだろうか?
「谷村が蔵本連れてくって言い出した時はどうしようかと思ったけど、今度は怪我してないね。俺、蔵本のおかげでいい昼寝場所一個減っちゃたんだからさ。」
「新しくもう一つ見つけたけどね」と言いながら藤田がにやにやしている。文芸部室の事だろうか。あの話は藤田とはしてなかった。そう、昼寝場所になったんだ。……私の許可も取らずに。
「みすずが言うには文化祭に差しさわりが出るレベルだったらしいし次からも私たちが言ったほうがいいよ」
ゆりちゃんはそういった。槇原さんは少し沈んだ顔をした。槇原さん、いつも悲しそうな顔をしてるなぁ。今日、みすずさんの言った”異常”という単語が少し気がかりだった。