第15話
文字数 1,991文字
「で、マッスル・パーティーについてなんで考えてないの?」
大きな織政君が藤田の前でちいさくなっている。それだけでマッスル・パーティーについてはなにも考えていなかったことがわかる。
「もう日にちないんだし、さっさと考えろよ。」
織政君に泣きつかれた下松君が腕を振り払いながら鬱陶しそうに言い放つ。
「いいじゃない。教室にマッチョの写真はってそれで終わりで。」
ゆりちゃんは面倒そうにしていると織政君は深刻そうに言う。
「ダメなんだ。筋肉に関しては真剣に向き合わなくてはならない。谷村さんだって日々歩いたり、喋ったりできるのは筋肉のおかげなんだ。だから筋肉に対してそんな態度では失礼にあたるぞ。」
よくよく意味はわからないけど、どうやらそうらしい。哲学のような話になってきた。そこまでこだわりがあるのになぜ?
「じゃあ、さっさと考えろよ。」
下松君が織政君を小突いている。
「だってなあ。ジムにするのはダメって言われたらなんもないぞ。」
なんで文化祭の日に教室をジムにしていいと思ったの?
「筋肉、筋肉、ねえ……」
藤田がうんうん唸って考え込んでいる。
「なあ、女子的に筋肉ってどういう感じなんだよ?」
下松君が座っていた椅子の背にもたれかかるようにしてこちらを振り返る。
「どうったって……あればいいとは思うけど、とりたてて付けたいとは思わないわね。」
「私はいつか鍛えてみたいとは思うよ。今じゃないけど……」
私が不用意なことを言って織政君が反応してしまったので、慌てて付け加えた。さすがに織政君並みにつけたいわけじゃない!
「いいよ。蔵本はそのままで。」
藤田が賛成できないとばかりに声を上げる。
「えー。」
「蔵本は今のまんまのほうがかわいいって。それにまた変なケガするかもしれないだろ?」
「……藤田って結構平気でそういう事言うよな。」
下松君があきれている。
「なにか、おかしい?」
「いや、なんかイメージ通りってだけだよ。」
「よっ色男!」
下松君はからから笑うと、ゆりちゃんがのっかった。藤田は意味が分からなそうに首をひねっている。そんな会話をしていると織政君がぽつりと言った。
「そうか。意外にみんな筋肉のことは普段考えないもんなんだな。特に女子は……」
そうだよ。
「なんだよ。今更気が付いたのかよ?」
下松君が言うと織政君はそちらにくるりと向いた。
「たかやん。女子にもうける筋肉だよ!」
「なんの光明が見えたの?」
ゆりちゃんは勢いのすごい織政君に聞く。
「ハッハッハ。よく聞け!今の会話のおかげだぜ!動物と人間の違い、それは搭載できる筋肉量にも出ている。人間は脳の発達とともに筋肉量が減ってんだよ。俺たちが軽く抱えられる重さのチンパンジーでも握力は300kgを超える。じゃあ、人間の筋力ってのは劣っているのかと言われるとそれも違っていてな。人間は何よりも持久力、特に有酸素運動が優れている。短距離では人間はハイエナ、馬なんかにはとてもかなわないが、持久走、5kmを超えると人間に軍配が上がる。感染の発達していない毛皮動物だと放熱がうまくいかんというのが大きな原因だが、アイツらの走るとき使う呼吸では浅すぎて必要な酸素量を維持できないという問題も抱えている。そのあたりを模型を使って説明できればなかなか学術的なうえに、動物の写真もあってなかなか見栄えもよいと思うのだがどうだろうか?」
私たちはあっけにとられていたがゆりちゃんがぽろっと言った。
「その理解があってなんでいつも赤点取ってんの?」
「人間には向き不向きがある」
織政君は仕方なさそうにうんとうなずいた。それを見ていた下松君が言う。
「模型作りは?」
「すまないが、タカやんに指揮をとってもらいたい。俺にそのセンスはないからな!」
「えー。やっぱり俺かよ」
ぶつぶついいながら大して嫌がってもいなさそうに下松君が言った。
「俺は面白いと思うけどね。お勉強感強いからもうちょっと、パーティー感出してほしいけど」
藤田は明確に反対でもないらしい。
「おっし!決まったぜ。はい提出よろしく!!」
織政君はさらさらと企画用紙に汚い字で書いてゆりちゃんに手渡すが、すぐに突き返される。
「書き直せ!読めない。」
「ちぇー。」
しぶしぶ消しゴムで消しているが手の圧力が強すぎて消しゴムが紙と指の間で磨り潰れていっているのをゆりちゃんは驚愕の表情で見ている。
「筋肉とそれを鍛える構造の……こんどは文章がおかしい。私の言ったとおりに書け!」
「ゆりちゃん、そんなにまずいの?」
私は原稿を見せてもらうと、ああ、と唸るしかなかった。がんばれ、織政君、ゆりちゃん。
大きな織政君が藤田の前でちいさくなっている。それだけでマッスル・パーティーについてはなにも考えていなかったことがわかる。
「もう日にちないんだし、さっさと考えろよ。」
織政君に泣きつかれた下松君が腕を振り払いながら鬱陶しそうに言い放つ。
「いいじゃない。教室にマッチョの写真はってそれで終わりで。」
ゆりちゃんは面倒そうにしていると織政君は深刻そうに言う。
「ダメなんだ。筋肉に関しては真剣に向き合わなくてはならない。谷村さんだって日々歩いたり、喋ったりできるのは筋肉のおかげなんだ。だから筋肉に対してそんな態度では失礼にあたるぞ。」
よくよく意味はわからないけど、どうやらそうらしい。哲学のような話になってきた。そこまでこだわりがあるのになぜ?
「じゃあ、さっさと考えろよ。」
下松君が織政君を小突いている。
「だってなあ。ジムにするのはダメって言われたらなんもないぞ。」
なんで文化祭の日に教室をジムにしていいと思ったの?
「筋肉、筋肉、ねえ……」
藤田がうんうん唸って考え込んでいる。
「なあ、女子的に筋肉ってどういう感じなんだよ?」
下松君が座っていた椅子の背にもたれかかるようにしてこちらを振り返る。
「どうったって……あればいいとは思うけど、とりたてて付けたいとは思わないわね。」
「私はいつか鍛えてみたいとは思うよ。今じゃないけど……」
私が不用意なことを言って織政君が反応してしまったので、慌てて付け加えた。さすがに織政君並みにつけたいわけじゃない!
「いいよ。蔵本はそのままで。」
藤田が賛成できないとばかりに声を上げる。
「えー。」
「蔵本は今のまんまのほうがかわいいって。それにまた変なケガするかもしれないだろ?」
「……藤田って結構平気でそういう事言うよな。」
下松君があきれている。
「なにか、おかしい?」
「いや、なんかイメージ通りってだけだよ。」
「よっ色男!」
下松君はからから笑うと、ゆりちゃんがのっかった。藤田は意味が分からなそうに首をひねっている。そんな会話をしていると織政君がぽつりと言った。
「そうか。意外にみんな筋肉のことは普段考えないもんなんだな。特に女子は……」
そうだよ。
「なんだよ。今更気が付いたのかよ?」
下松君が言うと織政君はそちらにくるりと向いた。
「たかやん。女子にもうける筋肉だよ!」
「なんの光明が見えたの?」
ゆりちゃんは勢いのすごい織政君に聞く。
「ハッハッハ。よく聞け!今の会話のおかげだぜ!動物と人間の違い、それは搭載できる筋肉量にも出ている。人間は脳の発達とともに筋肉量が減ってんだよ。俺たちが軽く抱えられる重さのチンパンジーでも握力は300kgを超える。じゃあ、人間の筋力ってのは劣っているのかと言われるとそれも違っていてな。人間は何よりも持久力、特に有酸素運動が優れている。短距離では人間はハイエナ、馬なんかにはとてもかなわないが、持久走、5kmを超えると人間に軍配が上がる。感染の発達していない毛皮動物だと放熱がうまくいかんというのが大きな原因だが、アイツらの走るとき使う呼吸では浅すぎて必要な酸素量を維持できないという問題も抱えている。そのあたりを模型を使って説明できればなかなか学術的なうえに、動物の写真もあってなかなか見栄えもよいと思うのだがどうだろうか?」
私たちはあっけにとられていたがゆりちゃんがぽろっと言った。
「その理解があってなんでいつも赤点取ってんの?」
「人間には向き不向きがある」
織政君は仕方なさそうにうんとうなずいた。それを見ていた下松君が言う。
「模型作りは?」
「すまないが、タカやんに指揮をとってもらいたい。俺にそのセンスはないからな!」
「えー。やっぱり俺かよ」
ぶつぶついいながら大して嫌がってもいなさそうに下松君が言った。
「俺は面白いと思うけどね。お勉強感強いからもうちょっと、パーティー感出してほしいけど」
藤田は明確に反対でもないらしい。
「おっし!決まったぜ。はい提出よろしく!!」
織政君はさらさらと企画用紙に汚い字で書いてゆりちゃんに手渡すが、すぐに突き返される。
「書き直せ!読めない。」
「ちぇー。」
しぶしぶ消しゴムで消しているが手の圧力が強すぎて消しゴムが紙と指の間で磨り潰れていっているのをゆりちゃんは驚愕の表情で見ている。
「筋肉とそれを鍛える構造の……こんどは文章がおかしい。私の言ったとおりに書け!」
「ゆりちゃん、そんなにまずいの?」
私は原稿を見せてもらうと、ああ、と唸るしかなかった。がんばれ、織政君、ゆりちゃん。