第3話

文字数 2,212文字

「ていうかいいの?ほんとに?」

もう何回目かわからないような確認を鶴乃さんはしている。

「うん、一回は断ったけど気にはなってたし……」

と槇原さんが答える。

「気を遣わせちゃって悪いわね、助かるわ。なにかあったら、コレの後ろに隠れるのよ」

鶴乃さんは藤田を指さして言う。藤田は

「つるタン。俺と槇原そんなに体格違わないよ」

と反論した。

「アンタ、男でしょ。守りなさいよ」

「つるタンの元カレから?」

藤田が意地悪く言う。

「そーよ。あのクソから」

「クソなの?」

ゆりちゃんが口をはさむ。

「なんにせよ、彼女がいるのに他の子にはっぱかけちゃ駄目だニャー」

 眉村さんが答えた。今日の爪の色は鮮やかなグリーンにラメが光っている。なんだか大所帯になったけれど、私たちは文化祭実行委員会の第一回話し合いの最中だ。ほんとは学級長と実行委員だけでいいんだけど、私と眉村さんが増えているため総勢6人の話し合いになった。

「ていうか、」

 鶴乃さんは私を指さした。

「な、ん、で、蔵本がいるのよ!」

 当たり前のようについてきたけどそういえばそうだね。私、関係なかった。

「部外者なら眉村もいるじゃない」

 藤田はきょとんとしながら尋ねる。

「まゆは、いいのよ。勝手に来るから」

「勝手に来たんだニャー」

 眉村さんはふざけて両手で猫の手を作った。そこに藤田も同調して「ニャー」と鳴いてポーズを真似した。この二人仲良しなんだなぁ。
ゆりちゃんが二人にかまわず、鶴乃さんに尋ねる。

「マリがいると駄目なの?」

「そーゆーワケじゃないけど。4人はさすがに多いわ。三人は女子だし」

「じゃあ俺、今日から私って言おうか?」

藤田がしなを作る。

「そーゆー問題じゃない!それじゃあ全員女子じゃない!」

 鶴乃さんが藤田に突っ込む。

「藤田が言うと洒落に聞こえない。」

 ゆりちゃんが重ねて言う。

「そうかな?」

「私は最初見たとき女子かと思ったよ。」

ゆりちゃんのいうことを聞いて、 藤田はまんざらでもなさそうにしている。

「確かにみちる君って綺麗だよね」

心から思っているとでも言いたげに槇原さんが言う。

「槇原さんは私はかわいいと思うよ。この間、泣いてるときすごく綺麗だった。」

私はふと、口に出した。
槇原さんはおびえた表情をする。あれ、なんか変な事言ったかな?
見回すと他の面々も難しい表情をしていた。
それを見て藤田が、

「へぇ、蔵本って意外と大胆だねぇ。気が合いそう。」

と言った。鶴乃さんは少し困ったような表情で

「蔵本。ソレあんまり口に出すのは良くないわ。良くない感情が好きって思われちゃうか  ら。言うなら、前半だけにしときなさいよ。」

あ、そうなんだ。

「ごめん。槇原さん」

「いえ、ちょっとびっくりしただけだから……」

藤田は、

「俺も同じこと思ったけどなぁ。泣いてる姿、好きだよ」

と槇原さんに言った。槇原さんは顔を赤くして動揺した顔をしている。鶴乃さんは冷たく

「アンタ、わかってて言ってるでしょ。悪気があるのとないのじゃ全然違うんだから」

と言った。鶴乃さんは思い出したように私たちのほうを向く。

「そういえば気になってたんだけど、谷村と蔵本っていつも一緒にいるのね?」

「そういえばそうだニャあ。」

 眉村さんも同意する。二人もいつも一緒にいるような気がするけど……。私が答えに詰まっていると、ゆりちゃんがあっさり答える。

「だって私、友達マリしかいないし」

その答えもちょっとどうだろう?

「へー、意外。谷村、誰とでも気楽に喋ってるじゃない」

鶴乃さんは納得がいかない顔をしている。眉村さんは意外そうな顔をしつつも、特に何も言わないみたいだ。ゆりちゃんは鶴乃さんたちに軽口をたたく。

「気楽にしゃべりすぎて、さっき藤田に嫌われたばかりよ」

「喋りじゃなくて、勝手に委員会に入れようとしたからだろ」

なぜか得意げなゆりちゃんに藤田はそう訂正した。

「そう……」

鶴乃さんは憐れんだ表情をしている。

「でもっ。手伝ってくれる人がいるのはいいよねっ」

 槇原さんがあわててフォローを入れる。槇原さん的には私がいても構わないようで安心した。

「蔵本はいいの?」

 鶴乃さんは私に尋ねた。ここまであんまり何も考えずについてきていたので、言葉に詰まった。うーん、お弁当食べてたら、ゆりちゃんが藤田と槇原さんに呼ばれたから、何となくついてきただけだしなぁ。

「うーん、別に、いいか、な……」

 どっちでも、いい。に近いけど……。

「はっきりしないわねえ」

 鶴乃さんはあきれたように私を見る。特にやりたくはないけど、ゆりちゃんがクラス代表をまともに勤め上げることができるかはちょっと自信がなかった。早い段階でクラスの出し物を勝手に決めて阿鼻叫喚みたいなことになりかねないし。

「まあ、作業的なもんだけでも手伝ってやんなさいな。槇原以外はちゃらんぽらんなのばっかりだし。」

 そういいながら鶴乃さんは、手元にある”文化祭実行委員会について”という分厚い書類を私に差し出した。「頼むわね」と言われながら私はその資料を受けとった。鶴乃さんは満足げで”これで成立”と言わんばかりの顔をする。
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