第14話

文字数 1,522文字

でも結局は人と人とのコミュニケーションは自分と相手があって成り立つものなのだと私は学んだ。結局今日も委員長とみすずちゃんは揉めている。まるでおとといの事なんてなかったみたいに。

「いいじゃない、私が交渉したんだもん。三年生はどこも模擬店で暗幕一切使わないから回してくれるんでしょ。どーせ、この先もこのクラス編成なんだからこれでよかったんだよ。」

 そう、すっかり忘れていたのだが、結局今年から定員を増やしているので、この先ずっとクラスは多いままなのだ。結局、あっさりOKは出て、何のためにあんなにもめたのかもわからなくなってしまった。
 そういうもんなのかな。また、藤田にでも聞いてみよう。
気になるといえば、みすずちゃんは元気になったけど、委員長はイライラしているように見える。

「さ、次の議題は必要備品の申請があるからね。来週までに自分のクラスの必要なものをこのリストにチェックして提出して!この中にないものは要相談!じゃあ、今日は解散!」

 みすずちゃん、仕切りが異常にうまいのだ。もうびっくりするくらい。

「どうしよっか?まだマッスル・パーティーなにも決まってないよ?」

 教室に帰りながら、ゆりちゃんに話しかける。

「速攻で決めてもらうほかないわね。織政はどうせ仲良しの下松と一緒にいるんでしょうし、なにか考えてるかもしれないわ。これから美術室に行って……」

 ゆりちゃんはいきなり立ち止まった。

「どうした……、委員長?」

 目の前には委員長がいた、というよりも立ちはだかっていた。ゆりちゃんをじっと見ている。

「少し、いいか?」

「よくな……」

 反射で”よくない”と答えようとするゆりちゃんを遮って私が答える。

「槙原は俺が嫌いなのか?」

 藤田と話しているおかげなのかな。なんとか無事に喋れた。

「知らないです。聞いたことないから」

 本人に聞いてほしい。委員長は近くの階段に座り込んだ。私たちは少しだけ距離をとって座り込んだ。なかなか座らないゆりちゃんを何とか引っ張って座らせる。

「少し頼みがあって。槇原の事なんだけどな。」

 しおらしい態度で言う。なんとなくその話題だろうなとは思っていた。

「お前たちは同じ委員会をしているくらいだし、仲はいいんだよな?だから、槇原に伝言を頼みたいんだ。”迷惑かけてごめんなさい。できないお願いならすみません、でもどうせならきちんと振られたいです。”って。頼めるか?」

 ゆりちゃんが見たことのない表情をしている。これは面倒くさい時の顔だ。

「正気?それになんの意味が?」

 委員長はゆっくり首を横に振った。

「桃には申し訳ない事をした。謝って済む話じゃないから、自分の中だけでもけじめをつけておきたいんだ。悪いな、関係ないのに。でもな、槇原は俺じゃない奴が好きなんだよ。」

 それを聞いて、私は藤田が叩かれた槇原さんを丁寧に手当てしていたことを思い出した。そうかあ、そういう事かあ。推測でしかないけど、この推測の答えは藤田に聞かなくてもよさそう。委員長が言った一言だけだったけど、なんだか藤田と槇原さんが遠く思えた。
 
「悪いけどできない。うちのクラスではかなり揉めた案件だし、みすずの事もある。それに私の気分も乗らない。」

 委員長は不思議そうな顔をした。
 ゆりちゃんが言った。ゆりちゃんの葛藤はわかる。ゆりちゃんはいつもなら”それでいいのか!”とか言うのに今は言わなかった。きっと委員長を尊重してなんだと思う。だから私もゆりちゃんを尊重して言わないことにする。

「……」

 いつもより小さい背中で委員長はいなくなった。
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