第七話 未申請だったって正気ですか
文字数 1,327文字
求人に募集する際、社会保険が受けられるかどうかを条件のひとつとして考える人は多いのではなかろうか。
社会保険とは『医療保険』『年金』『雇用保険』『介護保険』『労災保険』の総称であるが、今回問題となったのは『医療保険』である社会健康保険だ。
この保険は、正社員や非正規社員(一定の条件を満たした場合に限る)が加入することができるもので、「全国健康保険協会」や「健康保険組合」が運営している。加入の対象者は入社日から五日以内に申請し、扶養家族がいる場合には一緒に会社側が手続きするのが一般的だ。
ところが、六社目ではこの『社会保険者証』がなかなか届かなかった。普通なら遅くても二週間前後には手元に届く。会社側がとても親切だった場合は保険証が来るまでの代わりとして、自費で受診しなくてもいいように資格者証を発行してもらって渡してくれることもある。にもかかわらず、この会社ではそのいっさいがなかった。
二週間を過ぎて三週間目になるころに他の従業員に尋ねた。すると「自分のときは一ヵ月過ぎてました」だの「だいたい一か月くらいかな」だのという返事ばかりだった。
ここの会社ではそれが『常識』なのだということに愕然としながらも、拾われた身である以上は文句も言えずにただひたすら待つことにした。
そうして一ヵ月。周りの人たちの言うとおり、私の保険証は届いた。それこそ、当たり前のようにデスクにぽんっと置かれていたのである。ただ、何度デスクを確認しても子供たちの保険証は見つからない。
なぜなのか。年金事務所のほうが処理に手間取って、子供の保険証だけがあとで別に送られてくるのだろうか。
だが、来るまでじっと待つことはできなかった。一週間後には娘の総合病院の受診予約が迫っていたからだ。
びっくりした。まさか申請していなかったとは――そんなこと、夢にも思っていなかったのだ。だって履歴書を渡している。伴侶もおらず、扶養家族がふたりいることも明記している。それなのに社会保険の申請は私の分しかされていなかったのだ。
正気か、おいっ!
と口から飛び出しそうになるのを必死にこらえて笑顔を作った。それから申し訳ないと小さく頭を下げながら申請をお願いした。一週間後の受診に間に合わせるために『資格者証』の発行もしてもらうように抜け目なく伝えた。
ところが、である。翌日、社長に訊いてみるとこうである。
社長は悪気など微塵もかんじてはいなかった。それどころか「ちゃんと申請してきたぜ」と得意満面だった。あろうことか「総合病院の時間を変えろ」なんて暴言まで吐いた。
総合病院の時間なんて簡単に変えられるものではない。変えられたとしても、予約でいっぱいでまたひと月もふた月も先になってしまう。
このころ、娘は極度のストレスで学校拒否の状態になっていた。行っても保健室で過ごすことが圧倒的に多くなっている状況。なんとしても心理の先生に会わねばならない。それくらい私たち家族全員がひっ迫していたのだ。
それを知らずにしれっと言い切った社長に、私は内心の怒りをひた隠して笑顔を向けた。
結局、保険証は届かなかった。
しかし背に腹は変えられず、自費で受診することに決めたのである。
社会保険とは『医療保険』『年金』『雇用保険』『介護保険』『労災保険』の総称であるが、今回問題となったのは『医療保険』である社会健康保険だ。
この保険は、正社員や非正規社員(一定の条件を満たした場合に限る)が加入することができるもので、「全国健康保険協会」や「健康保険組合」が運営している。加入の対象者は入社日から五日以内に申請し、扶養家族がいる場合には一緒に会社側が手続きするのが一般的だ。
ところが、六社目ではこの『社会保険者証』がなかなか届かなかった。普通なら遅くても二週間前後には手元に届く。会社側がとても親切だった場合は保険証が来るまでの代わりとして、自費で受診しなくてもいいように資格者証を発行してもらって渡してくれることもある。にもかかわらず、この会社ではそのいっさいがなかった。
二週間を過ぎて三週間目になるころに他の従業員に尋ねた。すると「自分のときは一ヵ月過ぎてました」だの「だいたい一か月くらいかな」だのという返事ばかりだった。
ここの会社ではそれが『常識』なのだということに愕然としながらも、拾われた身である以上は文句も言えずにただひたすら待つことにした。
そうして一ヵ月。周りの人たちの言うとおり、私の保険証は届いた。それこそ、当たり前のようにデスクにぽんっと置かれていたのである。ただ、何度デスクを確認しても子供たちの保険証は見つからない。
なぜなのか。年金事務所のほうが処理に手間取って、子供の保険証だけがあとで別に送られてくるのだろうか。
だが、来るまでじっと待つことはできなかった。一週間後には娘の総合病院の受診予約が迫っていたからだ。
びっくりした。まさか申請していなかったとは――そんなこと、夢にも思っていなかったのだ。だって履歴書を渡している。伴侶もおらず、扶養家族がふたりいることも明記している。それなのに社会保険の申請は私の分しかされていなかったのだ。
正気か、おいっ!
と口から飛び出しそうになるのを必死にこらえて笑顔を作った。それから申し訳ないと小さく頭を下げながら申請をお願いした。一週間後の受診に間に合わせるために『資格者証』の発行もしてもらうように抜け目なく伝えた。
ところが、である。翌日、社長に訊いてみるとこうである。
社長は悪気など微塵もかんじてはいなかった。それどころか「ちゃんと申請してきたぜ」と得意満面だった。あろうことか「総合病院の時間を変えろ」なんて暴言まで吐いた。
総合病院の時間なんて簡単に変えられるものではない。変えられたとしても、予約でいっぱいでまたひと月もふた月も先になってしまう。
このころ、娘は極度のストレスで学校拒否の状態になっていた。行っても保健室で過ごすことが圧倒的に多くなっている状況。なんとしても心理の先生に会わねばならない。それくらい私たち家族全員がひっ迫していたのだ。
それを知らずにしれっと言い切った社長に、私は内心の怒りをひた隠して笑顔を向けた。
結局、保険証は届かなかった。
しかし背に腹は変えられず、自費で受診することに決めたのである。