第三十話 お国の考えを聞こうじゃない?

文字数 1,251文字

 労働組合に入ることを決めたはいいものの、辞めてしまっている状態で労働組合としての活動ができるのか。それが第一の関門だった。
 労働組合として話し合いに行くことと、単身乗り込む(付き添いはしてくれる)のとでは雲泥の差がある。なぜなら、労働組合法が絡んでくるからだ。法律が一枚噛むと噛まないとでは相手の出方も変わってくるに違いないのだ。
 ただ、それでも私の意思は変わらなかった。たとえ労働組合としてではなく紫藤咲個人で会社へ真っ向勝負へ挑むつもりだった。
 どちらに転んだとしても相手につけ入る隙を与えてはならない。やるからには徹底的になのだ。となると、私が勝つためには『反論できない根拠』を揃える必要性があった。

 とはいえ、根拠を揃えるにも役所関係は役には立たないことを、私はこれまでの経験から嫌というほど学んでいる。
 ならばどうするか。
 
――地方の役所がダメならば、その大元に聞くまでよ!

 そう。労働局、労働基準局、ハロワの大元ならば厚生労働省。
 税務署、年金事務所ならば財務省。
 お国としての考えをしっかり、はっきり聞こうじゃないか。

 ということでさっそく電話番号を調べる。厚生労働省には『労働紛争』に関する窓口があった。財務省は残念ながら窓口になる電話番号がわからないため、ここは国税局にした。

 厚労省の窓口に出た男性職員さんが『財務省』という言葉で逃げるならば致し方ないと私は戦法を変えた。逃がしてたまるかっ――という思いで話を続ける。

「社会保険や雇用保険の申請は入社してから5日以内のはずですよね。それなのに遡りで加入手続きができるのだから手続きを後回しにしてもいい。最終的に入ってくれていれば問題ないと厚労省は考えるのでしょうか?」
『それは違います。最終的に入れば問題ないとは言えません』
「では労働環境を整えることは雇い主側の義務ですよね? 労務管理も労働環境のひとつにはなりませんか? それがずさんな場合、労働者は安心して働けませんよね? それって雇い主側の怠慢じゃないんですか? 労働安全衛生法第71条の3第1項違反になりませんか?」
『よくご存じですね。おっしゃるとおりです』
「納税さえすれば、やることをやっていなくても会社は好きにお金儲けしてもいいんですか?」
『お金儲けするならば、やることをやったあとですね』
「これは厚労省としての見解として受け取ってよろしいですよね。失礼ですがお名前をお伺いしてもよろしいですか? 今後、厚労省からはこのように聞いているとお名前も添えて雇い主側に話をしてもかまいませんか?」
『結構です。私は○○と申します』
「ありがとうございました」

――やった! 次は国税局だ!

 厚労省の穏やかな口調の担当さんは私の剣幕に押されただけかもしれない。
 それでも裏は取ったのだ。名前も担当部署も聞いている。そんな話はした覚えがないだなんて絶対に言わせない。電話をした時間と内容もメモしたのだ。

――よしっ!

たしかな手ごたえを感じ、勢いついた私はそのまま国税局へダイヤルした。


 
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