第二十一話 お役所は味方にはなりません

文字数 1,054文字

 脱退証明書が会社独自に発行されるものだと知る前のこと。年金事務所に電話をかけた経験がある私。そのときの対応があまりよくなかったことを思い出す。

 たしかあのときは退社してから一週間経ったくらいのときだ。脱退証明書が欲しいけど、会社がなかなか手続きしてくれないからどうにかしてほしいと伝えてみたのだ。

『手続きの催促はこちらではしておりません。お急ぎでしたらご自分で会社のほうへ、その旨をお伝えください』

 ロボットと話をしているみたいだった。電話で応対してくれた担当者さんはひどく素っ気ない。こちらは必要以上のことはしない主義ですというオーラが電話越しからでも伝わってくるほどだった。
 けれど私も負けなかった。

「五日以内に手続きしないといけないのにやっていないんですよ! 月末までにやらなかったらどうするんですか? それでもほっておくんですか?」
『お金もかかるんですから、その前にやりますよ。会社だってバカじゃありません』

と鼻で笑われたのである。
 怒りが頂点に達したのは言うまでもないが、この苦い経験から年金事務所に対する不快感は拭えない。
 けれど、こういうときこその年金事務所であるまいか。私はよしっと気合を入れて電話を掛けた。

「すみません。前にも一度相談したんですが(会社が)一向に(脱退の)手続きをしてくれないんです。無保険状態では困るので、年金事務所のほうから催促してもらうことってできませんか?」
『そういうことは常にやっておりません』

 年配の女性の声できっぱりと断られる。この『丁寧なんだけど丁寧に聞こえない言い方』にいささか私もカチンッと来る。
 そこで今、相手にしている会社がどういうふうにブラックなのかを一通り説明したうえで「レアケースなんですよ!」と迫ってみた。

『レアケースでもなんでも常にやっておりません。ご自分でお願いします!』

――ふっざけるな!

 これが公務員の電話の対応なのか、おいっ――と思わず声を荒げそうになるのをぐっとこらえる。わかりましたと言って電話を切ったものの、腹の虫は治まるどころか暴れ転げている。
 年金事務所がこれほどまでに悠長でいる理由はひとつ。
 別に五日以内に申請しなくても、特に違法ではないからだ。


 結論。
 公的機関は自分の担当範囲内でしか動かない。また、基本的に親身にはなってくれない。
 お国や県、市町村の役所が味方になって動いてくれる幻想は抱いてはいけない。(ショックのダメージが大きすぎるため)

 しかし、これでも治まりきれない私はさらに知恵をふりしぼるのである。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み