第十九話 健康保険は減免しないと生活詰みます

文字数 1,223文字

 労基はなんの力にもなってくれないことに落胆している間はなかった。
 雇用保険申請が離職票待ちとなっている以上、他に目を向けなければならない。次にやることと言えば、健康保険の加入である。
 日本は国民皆保険の制度をとっている。つまりなんであれ医療保険には入っていてねという義務が我々には課せられているのだ。
 そこで今度は国民健康保険の加入手続きをするために市区町村役場へ赴いたのだが――

「離職票はお持ちですか?」
「(申請中のため)ないです」
「じゃあ、退職証明書または保険証のコピーはお持ちですか?」
「(全部)ないです」

 受付のカウンターにいたやさしそうな女性は困ったように笑う。私も笑む。もちろんひきつっているのは言わずもがなである。

「それでは免許証で状況を確認しましょう」

 どうやら免許証の番号を照合することで、今現在社会保険に加入しているのか、脱退しているのかがわかるらしい。私はそそくさと免許証を差し出した。
 パソコンを操作する女性の顔がすぐに険しくなる。その表情に私は嫌な予感がした。

「データに載ってきていないです。となると……会社のほうで手続きが済んでいないみたいですね。まだ社会保険に加入中となると、国民健康保険の手続きはできないんです」

 悪夢再びだった。
 会社を辞めてから一週間が経過している。にもかかわらず、まだ手続きされてないという。
 
 まったくもって話しの意味がわからなかった。いや、そもそもこれまでもいろんな会社を辞めてきたけれど、自分でもらうことなんてなかったのだ。いつも辞めた会社のほうから一週間くらいで送られてきていたのだから、寝耳に水すぎて理解が追いつかない。
 あまりにもわからなくて、私は年金事務所に食い気味で質問した。

 説明が前後してしまったが、実は退職証明書が届いたのである。そう、会社を辞めた翌日に『書いてほしい。書いたら送ってほしい』と頼んだ書類だ。どこかに申請することはなく、社長が書いて押印すれば済む書類については迅速に対応してくれたらしいが、他の申請については放置されているっぽい。
 それでも退職証明書があればなんとかなるものだと私は踏んでいた。ところが、あまりにも焦っていたため、退職証明書と同じくポストに入っていた就職面接の不合格通知を持って出かけてしまい、連日そろってなにも申請できないという結果を招くことになってしまったのだ。

 社会健康保険に任意継続加入する場合、正当な理由がある退職であろうと減免は受けられないので、相当な金額を毎月払っていかねばならないことになる。金銭的に余裕がある人ならば減免を受けなくても問題はないだろうが、余裕がない場合は生活をひっ迫させる原因になるので注意が必要だ。
 現に私にも国民保険で生活苦になったという過去事例がある。

 あのときの苦い経験が私を突き動かす原動力になっているのは間違いない。
 そしてこのあとまだ、長くつらい健康保険加入地獄は続いていくのであった。



 
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