第十一話 そんな会社辞めちまえ

文字数 1,717文字

 統括との面接後、私に下された評価はやはり『正社員登用はむずかしい』というものだった。
 しかしそれを社長なり統括なりから私自身がハッキリ言われることはなかった。管理職の間だけで話をしているだけなのである。私が唯一の味方であったケアマネの上司に聞いたところによれば

「どうしてもケアマネをしたいという情熱を彼女の話からでは感じられなかった。だからケアマネ一本という彼女の話は単に楽をしたいというだけだと私には思えた。だって仕事が好きだからこそがんばれるものでしょう? それが彼女にない以上、本採用はむずかしいと思うわ」

ということらしい。
 正直、この話を聞かされたときは面接時以上にガッカリした。働く理由は人によってさまざまだ。就いた仕事が大好きでたまらないという人がこの世の中にどれほどいるのだろう。みんな生きるために必死に働いている。がんばっている理由なんて人の数だけあるはずなのにと。

 そんな話を聞けば聞くほど、私の中でこの会社でがんばる気力は削げ落ちていった。
 ボーナスもない。二十時間のみなし残業込みで20万。月に二十時間の残業はもはや当たり前で使い捨てにされる正社員の座になんの魅力があろうか。
 それならばパートのほうが気楽でいいだろうと思えてくる。時間でさっさと帰ってしまえばいいし、同じボーナスがないのなら責任はないに越したことはない。

「社長、契約書を作っていただけますか。正社員ではむずかしいというお話ですし、私、もうパートでいいです」
「そう。うちはパートだと時給960円。処遇改善手当(現場の人がもらえる手当)を入れると1200円。別途交通費。資格は関係なくなる(介護福祉士を持っていようと持ってなかろうと)けど、それでかまわないんだね? ちなみにケアマネなら処遇改善はつかないけどね」
「結構です。でもパートになるからにはケアマネ一本でお願いします。そうじゃなければ契約はできかねます」
「それは管理者たちと話し合います。ここで返事はできませんよ」
「そうですか」

――どんだけ現場にとどめておきたいんだよっ!

と思いつつ、返事を待つことにした。
 しかし、待てど暮らせど返事なんかもらえなかった。年末である。12月はいろいろ忙しいから仕方ない。そう思ってがまんしていたが、このままでは1月以降、どうやって働いていいかわからない。

 このようにぜんぜんお話にならないのだ。

 中小の民間企業である。仕事をこなさなければ儲けにつながらない。営利第一であることに関しては理解も示す。
 しかしながら、訪問事業というものは基本的にはケアマネの計画したとおりに行われることが望ましい。なぜなら、介護計画は利用者さんの希望に沿ってケアマネがプランニングしたものであるからだ。目標設定しかり、訪問回数、時間しかり。
 ところが、この会社は仕事をキャパ以上に詰め込んでいるため、ケアマネの計画をことごとく変更してしまっていた(訪問日や訪問時間を利用者さんと直接やり取りして変更しまくる)。こうなってくると、いったいケアマネのプランは何なんだという話になる。その点に不審を持った他事業所のケアマネから仕事依頼が減っているということが実際に起こっていた。たしかに例外はあるにせよ、毎回、毎回はルール上おかしかったのである。
 ケアマネという職にも就いている私からしてみれば、こうした現場の勝手な行動は気になってしまうものだったし、納得もできなかった。
 それゆえの『間違っていませんか?』という投げかけだった。

 そうこうするうちに12月31日は暮れていった。
 結局、帰るまでいっさい何も言われなかった。

「本年もお世話になりました。よいお年をお迎えください」

 そう言って私は会社を後にした。


 と、三日間の休みの間に元旦那さんからさんざん言われるものの、結局私は『利用者さんに罪はなし』という理由から出勤することにした。もしかしたら新年一発目できちんと話をしてくれるかもしれない――そんな淡い思いを抱いて。
 しかし1月4日(土)のこの日、社長も統括も休みをとっており、契約の話は翌週月曜日まで持ち越される。
 結局、私だけがひとり悶々とする結果になっただけだった。




 
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