第二十八話 バカ言っちゃいけません

文字数 692文字

 これまで私はいろんなところに電話をかけては窮状を訴え、赴いては指導を仰ぎ、駆けずり回ってきた。
 けれど私の努力は思うほどには実を結ばない。それどころか、これまで相談した役所(ハロワ、税務署、労基、労働局、年金事務所、県民相談、労働弁護士、介護保険課)のほとんどが、自分に力を貸してくれることがなかったのだ。
 給与明細はいまだに届かない。失業保険はいったいいつ振り込まれるのだろう。就活も思うようにできないし、自分にはなんのとりえもないのだといじける日々が続いている。
 
――どうしたらこんなつらい日々を終わりにできるのか。

 それこそ最初は東京に拠点があるユニオンの代表宛にTwitterからDMを出したのである。
 しかしながら不躾すぎたのか。いくら待ってもお返事は来なかった。
 それに仮に連絡がついたとしても、会って話すことはできないし、一緒に会社へ乗り込んでもらうこともむずかしいのではないかと思い始めた。
 それならばと思って地元で探した結果、つながったのがこの電話だったのだ。

 胸がじんと熱くなった。
 ユニオンさんに伝えたのはこれまで私が何度も、何度もくり返し訴えてきたことだった。毎回、毎回言われるのは『たいへんなのはわかります』とか『うちではどうにもできません』とか『むりです』とか『あきらめろ』とか、決して前向きになれるような言葉ではなかった。
 だけど、このときは違った。ユニオンさんは私の話を真剣に聞いてくれた上で、心からねぎらってもくれたし、励ましもしてくれた。
 こんなにうれしいと思えた日はなかった。
 そしてこのことが、以後の私の人生を大きく変えていくことになる。
 


 
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