第八話 三割負担です

文字数 1,358文字

 娘の精神状態がぎりぎりだったこともあって、自費で受診することにした私。これは功を奏した。娘は六年間お世話になっている心理士の先生に洗いざらい話したことで、心のつかえがとれたらしく、すっかり元気になった。

「学校にも行く。いじめっ子にも負けない」

と笑顔も出たので受診したことに後悔はなかった。
 しかし問題は精算時に発覚した。

「子供受給者証は当日限り有効となので、受給者証適応外ということになります。自費での受診は、たとえ保険証が来たとしてもお返しできる金額は三割負担を引いたものになります」

――は? なに言ってんの?

と、私の怒りスイッチがオンになる。
 
 多くの市区町村で導入されている『子供医療費助成制度』。私の市では一回五百円で医療受診ができる(各市区町村によって金額や上限などが変わるのも特徴)。その制度を利用する場合、市区町村から配布される受給者証を提示する必要がある。提示せずに受診した場合の返金は、やむを得ない理由がないかぎりできかねると言うのだ。

「今月中に保険証を持ってきてもらえれば窓口精算が可能です。その場合、領収証と保険証を一緒に窓口に提示ください。過ぎた場合は償還払いとなります」
「資格者証をもらう予定になっています。それでも精算してもらえるんですよね?」
「申し訳ありませんが、その資格者証が当医院で適応できる正規のものでないと……」

 つまるところ『保険証を持ってこい。それ以外の場合は二度手間になるぞ』なのである。
 私の怒りのボルテージがさらに一段階上がる。
 お金は多く払わされることになる上に、多く支払った分を清算してもらうのに時間を作って病院へ来ないといけない。病院へ来れば駐車場代がまだ300円かかる。それだって自費だ。
 最悪、同月中に手続きができなければ償還払いの申請をしなければならない。この『償還払い(立替て支払ったものがあとで返ってくる制度)』の手続きを社長に頼むことを考えると頭が痛い。申請してもらってもお金が返ってくるまでには一ヵ月以上先になる。となると、手間暇を考えて自腹に甘んじるか――

――くそったれ社長め! あいつのせいでいろいろ面倒くさくなるじゃないか!

 とりあえず、その場は自費清算して帰路についた。
 
 しかしその翌日。私の怒りは収まるどころか、さらに増していく。

 このことから私は『きっとやってくれるなんて生ぬるいことを思うんじゃない』ということを学んだ。
 遅い場合はなぜ遅いのかを確認する。そして会社側が手続きをしていないようなら、すみやかに行ってもらうように催促すべきなのだ。
 遠慮していたら健全な状態で働けない――それを身をもって学んだ。

 さいわいなことに『母子医療保険制度』対象者だった私は、三割負担ではなく500円での受診となり、実質被害は被らずにすんだ。ただ忙しい合間を縫って総合病院の会計窓口に行かねばならないという労力は確実に私の怒りエネルギーをため込むことにはなった。

 それでも拾ってもらった以上は(大っぴらには)文句を言うまい――と、必死に耐える日々が続く。
 だが勤めて二カ月にさしかかろうとしたころ、ヘルパーとケアマネという異なる仕事を兼務することによって生じる『弊害』が私の押さえ込んでいた怒りを、ますます増大させることになったのだった。


 
 
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