最終話 試練、試練、そして現在

文字数 1,306文字


 トラックの荷台から足を滑らせて頭を強打し、一時的な記憶障害になってしまった元旦那さん。
 無職であるし、ブラック企業との闘いもケリがついたことから数日預かることになった。
 このトラブルにも労災保険が絡んでくることになり、なんだってこんなところまで労務に悩まされるのだと思ったものだったが、それもなんとか解決。
 


 まるで私の人生の毒素をここで一気に片付けるような勢いで次々にやってくる試練。
 実はこのころ、私は実家と半年ほど仲たがいをしており(幼少期からの問題も引きずっていたが)関係は最悪の状況にあった。
 しかし、この骨折事件を機に和解。母のリハビリ計画についても病院の理学療法士さんにポイントを伝える等、介護職で経験したことを活かすことになった。
 結果、母の手術も無事に済み、リハビリもうまくいった。
 杖なしでも生活可能になり、元の生活に近い状態まで回復することもできた。

 そして、ブラック企業との闘いを終えて、身を入れて就活した結果、三か月という短期ではあるけれど就職することができたのだった。
 ここがすばらしい職場で、毎日会社へ行くのが楽しいという経験を私は初めてしたのである。
 職場の人たちは皆、温厚だった。チラシのデザインなど、これまでにやったことがないことまでチャレンジさせてくれた。
 就業最終日には顔を合わせられなかった人たちがわざわざ電話をかけてくれて、三か月の働きを労ってくれた。
 
「紫藤さんはすばらしい」
「できる人」
「本当に来てもらってよかった」
「また一緒に仕事しよう」

そんなふうに受け入れてもらえて、最後の日には泣いてしまったものだ。

 そして、そんな日々から一年後の現在。私はそのときと同じ系列の職場に9月までの短期ではあるけれど、再び就職することができた。短期間の仕事を繋いでいるため、けっして生活が安定しているとは言えないけれど、心の余裕と時間のゆとりを手に入れた。
 お金は以前ほど稼げなくなったけれど、そんなことが苦にならないほどしあわせな毎日を送っている。そして介護業界を辞めたこと、正社員の道をあきらめたことも今はちっとも後悔していない。
 子供たちはもう二度とあの仕事に戻らないでくれと言う。今の私が以前よりも好きだと言ってくれる。
 私も子供たちも笑顔が増えた。
 それが一番の収穫だったなと思える。

 そしてブラック企業と決別し、きちんとハロワを通して吟味して応募するようになってからは変な会社に悩まされることがなくなった。
 これまで労務を学んだことによって、どこに行っても戦えるという自信もついた。
 
 そう、雇われているからといって卑屈になることなんてなにひとつないのだ。
 働く側には働く側の権利がある。その権利がどんなものであるのかを知り、権利が侵されるようならば戦うべきなのだ。
 ひとりで無理ならば仲間を募る。知恵をふり絞り、外堀を埋め、雇い主から自らの権利を、自分の命を守ることが大事なのである。

 あなただって戦える。
 私のようにあきらめなければ勝利だって勝ち取れるのだから――
 労務について無知だった私が引き起こしてきた失敗が、このさき誰かの役に立つことを願ってやまない。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み