第五話 心身ぶっ壊しました 

文字数 1,968文字

 五社目の会社には正社員として登用されることになった。ここも就職情報誌を見て応募した会社だ。月に20万円弱稼げて、ボーナスも出るという。それに未経験でも構わないと言ってくれた。それこそケアマネは2割に満たない合格率の難関資格だけあって、来てくれるだけありがたいと言ってくれたのだ。

 新しいことにチャレンジする私は夢と希望にあふれていた。これまで現場で8年余り、つらくても歯を食いしばってやってきた自負もあった。子育てしながら働けるよ、みんな協力的だから大丈夫だよ、というやさしい言葉に満ちたこの会社に骨を埋めよう! そんな前向きな気持ちでいたし、事実、最初のうちは大事に育てられた。
 ところが入社半年くらいで状況が一変する。人事異動だ。自分が所属するケアマネチームも例外ではなく、チームを取りまとめる上司が変わる。ここから一気にムードが下降していった。

 新人だろうと関係なし。誰がやっても変わらないからとむずかしいケースも持たされるようになった。ベテランと同じ件数を担当するように、どんどん新規を取らされた。と、そのうちのひとつが行政を巻き込まなければどうしようもないほど恐ろしい困難ケースへと発展して、これまでなんとかやってきた仕事のすべてがうまく回らなくなっていった。
 連日残業。さらに電話当番で携帯を持つようになり、帰宅しても、いつ掛かってくるかわからない電話が気になって休息できなくなる。
 困難ケースはあっちこっちで問題を起こして、連日苦情の対応に追われる。すべての責任が担当ケアマネの私に降りかかる上に、他のケースまで状況が悪化し始める。当然ながら、ひとつのケースにかかりきりになるわけにもいかず、いろんなことが中途半端になっていく。そんな中、これまで使っていたソフトを新しいものへ切り替えるからと、データ移行作業もしなければならない。私は手いっぱいになった。
 そうやって余裕がなくなってくると今度は小さなミスを連発していく。
 
 さて、ミスをした新人を待ち受けていたものはなんだったか。『あなたのためにやっている』『あなたのために教えている』という強力なパワハラである。ただし、ここで問題なのはパワハラをしている側の上司たちに圧力をかけている自覚がないことだ。すべては私の教育のためにしていることであって、正当だと思っている。追い詰めているのが自分たちであるなんて、1㎜も考えないのである。

 では、どんなことを言われたのか。

①新人だから誰よりも早く電話を受ける。担当へ回そうと「内線番号何番でしたっけ」と訊いたら「チッ」と舌打ちされる。
②内線番号は訊くなと釘を刺される。仕事しているのはあなただけじゃない。むしろ、あなたの一言のせいでみんなが手をとめなくちゃならなくなる。
③子供じゃないんだから、もっと周りに気を遣って仕事をしろと言われる。
④昼のお茶くみ当番があって、やらないと嫌味を言われる。(私はほぼ毎日率先して行っていた)
⑤利用者さんの不利になるような重大なミスを立てつづけてにしてしまったら「あんたのせいで自分たちまでブラックリストに載ってしまうんだから、もっと頭使って仕事しろ」と叱られる。
⑥休みの取り方が仕事優先にしていないのは問題だと叱られる。
⑦他の人たちがちゃんと理解できることをなんであなただけ違って受け取るのか理解できない。そういう人と違った考え方は弱点だから直しなさいと指導される。
⑧私だけ朝礼で前日、どんな仕事をしたのかを毎日報告させられる。
⑨辞めるなら他の人に迷惑をかけずに辞めろと朝礼のときに名指しでにらまれる。
⑩精神的にかなりまいっているときに「あなたもつらいだろうけど、他の人もかなりしんどくなってるから自分だけつらいと思わないように」と諭される。

 本当に孤立無援の状態で自己肯定感は下降し、自尊心はズタズタになった。そうなると体のほうはどうなるか。以下が私の身体状況である。
 
 ①喘息になった。(気管支炎をこじらせて薬を処方されても治らない)
 ②適応障害になった。(ただし心療内科受診はしていないため、あくまで症状での判断)
 ③ストレス性の胃腸炎になった。(内科受診にて診断名出た)
 ④極度の貧血になった。(先生にこれはやばいと言わしめたレベル)


 とにかく生きているのがつらくなる。階段から飛び降りたくなったり、運転中ブレーキを踏まなかったら事故を起こして楽になるかなあ……なんてことも考えだす始末。まさに末期だった。

 誰でもいいから助けてくれ!

 そう思って片っ端から相談した。相談した人みんなに「辞めろ」と言われた。

 こうして転職に踏み切るのだが、まさかそこにさらなる闇が潜んでいるなんて、当時の私は考えもつかなかった。

【余談】



ということで、我が子たちより猫さんがいちばんの味方だった(笑)





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